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今日の日経夕刊の片隅に出ていた「EU炭素税 米が報復示唆」という記事。よほどその分野に関心のある方でもない限り、読み飛ばしてしまうであろう簡単な記事でしたが、ダボス会議も気候変動づくしだったようですし(実際に参加されたグロービス堀さんのまとめ記事、参考になります)ちょっとここで、「炭素税」というものを考えてみようと思います。

温暖化対策の政策として期待する方が多いのが、炭素税です。
CO2はエネルギーを使うことで出ますので(例:ガソリンを燃やして車を走らせる)、エネルギーに炭素見合いの税金をかけてエネルギーの利用を抑制しようというのが、カーボン・プライシングです。要はCO2出すことに値段付けるということなので、形式としては炭素税だけでなく、排出量取引なども同じ趣旨の制度です。

CO2の排出量を減らそうと思えば、エネルギーの価格上げて利用を抑えるのが効果的、というのはその通りです。ただ、これはすなわちエネルギーの価格を上げることになるので、慎重な運用が必要です。2018年にフランスで起きたイエローベスト運動(まだ収まらないんですね)も、きっかけは温暖化対策のために、燃料税が引き上げられたことでした。
暴動というものは何か一つが最後の引き金を引くというだけで、燃料税の引き上げだけが原因ではないとは思いますが、パリ協定を採択した地で、地球温暖化対策の施策強化がきっかけとなって暴動が起きる皮肉。これが現実。

とはいっても、CO2という環境に良くないモノを吐き出すのであれば、そのコストを原因者に負担させることは必要な施策だとは思います。何もしなくてよいと言っているわけではありません。加減が難しいということです。
低い炭素価格であれば結局人々の行動を変える効果はなく、逆進性が高い(=貧しい世帯ほど値上がりのダメージが大きい)エネルギーに対して増税を行うということですし、高い炭素価格にすれば、人々の生活は疲弊し(特に冬場多くのエネルギーを使う、あるいは車に頼らざるを得ない地方の方たちなど)、産業は海外に出ていってしまうでしょう。

でも、最後の「産業の海外流出」は防ぐことが理論上は可能です。もし、世界が共通の炭素税を導入すれば。

どこの国でも同額の炭素税がかかるというのであれば、海外に移転する意味はなくなるわけです。これがIPCCが2℃目標(産業革命前からの温度上昇を2℃未満に抑える)を達成する一つの条件として挙げた、「世界共通の炭素価格」です。

しかしながら、知っている人は、「世界共通の炭素価格」が2℃目標達成の条件と言われた時点で、絶望的な気持ちになります。なぜなら、国際的に同一の炭素価格をかけるなどということは途上国・新興国が飲むはずがないからです。ただでさえ貧しい国で、エネルギーの価格を上げるような施策はできるはずがないのです。
だから、2℃目標の達成を諦めないために、安価で安定して安全な、化石燃料に代わるエネルギー源を手に入れるというイノベーションを真面目に考えましょう、と私などは繰り返し申し上げているわけです。

で、話を日経の記事に戻しますが、EUが今検討しているとされるのが「国境調整」あるいは「国境炭素税」と言われるものです。自国内(域内)で炭素税をかけると、国内の企業は製品を作る際に出るCO2に対してコストを負担しますが、海外の企業はその負担をせずに競合する製品を作れます。その不公平を調整するために、温暖化対策が十分ではない国から輸入される製品に対して関税を上乗せするというのがこの趣旨です。

しかしながらこれは、貿易戦争の火種になること確実です。
各国の炭素に対する負担を公平に比較することもそう容易ではありません。
例えば日本は、オイルショック以降省エネを進めるためにいろいろな税金や規制をエネルギーに対して行ってきました。「地球温暖化対策税」という名前の税金は大きなものではありませんが(CO2排出量1トン当たり289円。石油は760円/kl)、この「地球温暖化対策税」を他国の「炭素税」と比較することが本当に正しいのか?いろいろなエネルギーに対する税金や省エネの規制対応などのコストも「炭素に関するコスト」負担であり、関税云々ということになれば、お互いの政府が譲らない話になるでしょう。
この小さな記事で「米国が報復示唆」と言うタイトルを見て、「またトランプが好戦的な・・」と思った方も多いと思いますが、これはトランプさんでなくても当然の反応だといえるでしょう。

私自身は、日本での大型炭素税導入に反対ではありません。ただ、今まで積み重ねられた様々な税制や規制を一度スクラップしたうえで、本当に炭素排出量に中立な炭素価格を入れるなら、ということです。今の制度に上積みされる安易な増税では、結局ゆがみを生む可能性が高いと懸念しています。

こういう議論、COPやダボス会議ではされないんですよね。
EUの方には国境炭素税導入を鼻息荒く語る方が多いのですが、どうやって各国と調整するつもりかは聞いたことが無い・・・。

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