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新型コロナウイルスが「早送り」する世界の変化

新型コロナウイルスCOVID-19の影響が世界中に及んでいる。中国に端を発したこのウイルスは、アジアから欧米へと影響範囲を拡大しつつあり、いつ収束するか、先が見えない。SARSウイルスの時には収束まで8カ月を要したというが、今回はそれを上回る時間を要するのかもしれないと、日々の各国の状況のニュースを見ながら感じている。外務省が全世界への渡航に対して「レベル1」に注意喚起を発したが、これは前代未聞の事態だろう。

 この問題は、時代の変化を「早送り」するのではないかと、最近考えはじめている。

例えば働き方改革。 これまでも残業を中心に労働時間を抑制するという形で我が国の働き方改革が進められてきた。しかし今回の問題で、一気にリモートワークや在宅勤務が現実のこととして大規模に行われ始めている。

もし、このウイルスの問題が長期化するのであれば、こうしたリモートワークや在宅勤務が、私たちの働き方の新しい日常になる可能性もあるだろう。そして、これは日本だけではなく世界中で起きていることだ。

このような新しい働き方が当たり前になれば、例えばオフィスの在り方というのも大きく変わるだろう。会社が社員全員分のオフィスを用意する必要はなくなり、例えば週に何日かだけ出社するけれども他の日は在宅ないしはリモートワークで働くので、会社は社員数の半分くらいのオフィスを用意すればいい、ということが現実にできるようになる可能性がある。

そうなれば、オフィスの需要も今までほどには要らなくなり、例えば日本では、東京一極集中の問題が緩和されるかもしれないし、またどうやって地方の人口を増やすかという地方創生の中心的課題にも、新しい切り口が見つかるかもしれない。

それと同時に、紙の書類にハンコ、というアナログな社内決済の仕組みも電子化・オンライン化を余儀なくされるだろうし、機械化・自動化できる業務から無人化していくという流れも一層進むことになるだろう。感染の心配が要らないロボットやAIの導入は、BCPの観点からも有益な対策の一つになる。

また、いま私たちが住む住宅は、在宅勤務をすることが前提に作られているとは言い難い。もし在宅勤務が当たり前になるのであれば、設計・間取りを含めて、住宅の在り方ついても大きな変化が出てくるだろう。企業がオフィスを縮小できる分だけ社員の住居に関する手当を増やせるなら、その費用で住宅を新しい働き方にあわせて新築や改築、リフォームする動きも活発になるかもしれない。

また、こうした働き方が当たり前になるなら、必ずしもオフィスへの毎日の通勤を前提とした場所に住まなくてもよくなる可能性がある。例えば LCC を使って週に2回東京に出てくるほかは在宅勤務やリモートワーク、といった働き方が実現するなら、日本の各地方や、もっといえば近隣諸国の一部すら、住む場所の候補に入ってくる可能性もあるだろう。東京から沖縄にいく時間とコストを考えるなら、同程度の所要時間と価格で往復できる海外の街も少なくない。企業が賃料の高い場所のオフィスを縮小させるなら、住居費とともにこうした交通費を負担してもなお、コスト増にならない可能性もあるだろうし、それによって社員の生活への満足度が上がり、親の介護の問題が緩和されたり、生産性の向上や心身の故障による休職等が減るのであれば、単に住居費交通費にとどまらないプラスが生み出せることになる。

また、リモートワークの推進や感染症の危険(濃厚接触)を避けることを考えると、ドライバーレスの自動運転車に対するニーズが加速するかもしれないし、そうなれば、新しいモビリティの中がオフィスになったり住居の一部になるような未来予想図も、一歩現実に近づくのかもしれない。

こうしたことは、いずれも働き方改革や地方創生、DXの推進など、社会問題とされて久しい問題を、大きく解決に向かわせるきっかけとなりうる。いわば、この新コロナウイルス問題をきっかけに、時代が「早送り」で進んでいくことになる可能性があるのではないか、と思うのだ。

さらに、ここ10年ほどにわたってその有効性が議論されてきたベーシックインカムが、ここに来て実際に採用されるかもしれないという動きがある。

もしこのベーシックインカムが実際に導入されることになれば、社会保障のあり方という以上に、人生の送り方や働くことへの考え方が、根本的に今までとは発想が変わってしまうのかもしれない。

他にも考え出すときりがないが、私達の生活のあらゆる場面で、今回の新コロナウイルス問題は、私達の生き方を大きく変えるきっかけになる可能性があり、それは日本一国の問題ではなく、世界が同時に迎えようとしている大きな歴史的な転換点なのかもしれない。まだ来ないだろうと思っていた未来が、急ぎ足でやってくるようにも思えるのだ。

もちろん、良いことばかりではなく、大きな変化を伴うことになるだろうし、それに対する不安と疑心暗鬼が、いま世界を覆っている。多くの企業も、これまでのビジネスのやり方では立ち行かなくなり、経営者はどうやって会社を存続させ、社員を守るかということに頭がいっぱいだと思う。

一方で、同時にこれをきっかけに大きなゲームチェンジが起きるかもしれない、ということを考えている経営者も、世界には少なからずいるのではないだろうか。

日本が焼け野原になってしまった1945年、第二次世界大戦の敗戦後に、例えばソニーやホンダといった、日本を代表するだけでなく世界的に知られる企業が生まれている、ということを私たちは忘れてはいけないだろう。こうした危機的な状況の中で生まれ大きく育った企業は、日本に限らずに存在している。

この世界中を覆う難題をどのように解決するのか、まずは目先の小さなことからでも一人一人がやれることをやっていかなければならないだろう。まずは自分と家族の健康や暮らしを守る必要があるけれど、少し気持ちに余裕があるときには、その先にある新しい暮らし方や新しい働き方、新しい社会について、私たちは考えながら2020年のこの時を過ごしていかなければいけないのだと思う。

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