Brexit問題で始まる2019年の欧州リスク市場

イタリアの財政赤字に関するEUとの協議は、イタリアが当初より低い赤字目標に修正したせいで目先の制裁金の回避という形で幕を引き、イタリアがとりあえず時間を稼いだ格好だ。次のEU関連のイベントは来年5月の欧州議会選挙であり、予想できるイタリアのポピュリズムの隆盛が来年の財政予算案にどう反映されるかにより、同国の財政問題が再度クローズアップされる可能性が懸念される。

イタリア問題が目先の収束を向かえた今、Brexit問題の進展に絡む英国議会の動向が年明けの大きなリスクオフ事由となりそうだ。

英国議会は年明けまで休会に入ったが、1月14日の週には、メイ首相がEUとの再交渉の末に大きな修正を加えることができなかった離脱協定案が議会で「意義ある採決」にかけられる。採決結果は十中八九、「否決」となろう。

その段階で、野党労働党は政府不信任動議を提出するだろうが、その結果は「信任」となる可能性が高い。不信任の場合は総選挙となるが、その場合は「合意なき離脱」となる公算が大きくなり、そうした結果を望む議員は半分に満たないと思われるからだ。政府の協定案が否決されているのに政府が信任されるという状況で、「国民の意志を問うべきだ」という声が議員間で高まり、「EU離脱に関する再度の国民投票実施」という動議が提出される公算が大きい。

いずれにせよ、3月29日までに英国内で既存の協定案を修正して承認することは不可能と判断されよう。そこで再度の国民投票実施を理由に、議会はEUに対して離脱交渉期間の延長を申し入れると思われる。国民投票の法制化には最低でも約6カ月を要するためだ。延長にはEU27カ国の全会一致の承認が必要とされる。

こうしたイベントの進展過程の中で、「残留」、「合意ある離脱」、「合意なき離脱」の3つのシナリオを織り込みながら市場の動揺が続くだろう。流れとしては、「協定案の否決」→「政府不信任投票」→「協定案見直しや国民投票といった選択肢を検討する議会の審議」→「英国の交渉期間延長要請とEUの反応」と続き、その後に「国民投票実施の発表」になる公算が大きい。この結果に行き着くタイミングは予測が極めて困難だ。

世論調査で「残留」支持が増えているのは知られているところだが、議会の審議が国民投票に向けて円滑に進まない場合は、不透明感から英国の資産価格は低迷が続こう。「国民投票実施」が確定する時点で、とりあえず市場は安堵感からリスクオン方向に向かうと思われる。それまでは全般的に不透明感が存続し、イベントを1つクリアするたびに安堵感から反発し、その後再度価格低下となるというパターンが続こう。

今回の国民投票の難しさはその質問形式にある。前回2016年6月のような「残留」対「離脱」の二者択一とはならないだろう。なぜなら、メイ首相がEUと合意した離脱協定案という新たな要素が加わるからだ。具体的には、「残留」、「メイ協定案に基づく離脱」、「合意なしの離脱」という3つの選択肢が存在する。理論的には、「総選挙を経て新政権が協定案を修正してEUと交渉に臨む」という選択肢もあるが、EU側はこれ以上の協定案修正を認めないだろうし、それを理由に交渉期間延長を認めることはありえない。これら3つの選択肢を、国民に上手に理解させるのは非常に手間のかかる作業となる。単にこれら3つの中で三者択一の投票となると、合意つき離脱と合意なし離脱の支持票合計が残留の支持票を上回る可能性もあるからだ。従って、国民投票実施が確定しても、質問形式に関する疑問点が解消されるまでは、英国資産価格の伸び悩みは続くとみられる。

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