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小泉演説はなぜ批判されたのか-COP25参戦記-

スペイン・マドリッドで開催されている、国連の気候変動枠組み条約締約国会合(COP25)において、小泉進次郎環境大臣の行った演説に対して、国際環境NGOが「化石賞」を贈ってその消極的な姿勢を批判したと報じられています。国内のメディアでも小泉演説に対する失望や批判が多くみられるようですが、小泉演説は、誰に、なぜ批判されたのか考えてみたいと思います。

化石賞

【“化石賞”の実態】
化石賞とはそもそもどのようなものなのでしょうか。NHKニュースの言葉を借りれば「化石賞」は世界各地のおよそ1300の環境NGOでつくるグループ」が「温暖化対策に消極的な国に贈る賞」だとされています。国際的な批判に敏感な日本の皆さんがこのニュースを聞けば、「あぁ日本は情けない」「やはり日本は孤立しているのか」となるのは当然のことでしょう。
ただ、毎年COPに参加する筆者が撮影している動画をご覧いただきたいのですが、化石賞とは、国連の正式なイベントなどではもちろんなく、会場の片隅の通路で若者が学園祭のようなノリで行っているものです。若者の声を軽んずるわけでは決してありませんが(今回のCOPの特徴は、若者の声を積極的に聞こうという風潮が高まっていることも感じます)、受賞理由などを聞いても、あまり論理的ではないと感じることが多いのも確かです。

温暖化は基本的に先進国の責任と考えられているので、先進国がやり玉に挙がることが多いのですが、とは言え、環境NGOの多くは欧州orientedなので、欧州の国が入ることは少ない。勢い、アメリカや日本あたりが頻繁に受賞することになります。もちろん新興国や産油国も批判の対象ではありますが、中国のように批判されても動じない国は批判されづらいようです。

そもそも今回、小泉演説に対して化石賞を贈られた理由として、「石炭火力発電からの脱却を明示しなかった」ことと、「温室効果ガスの削減目標を引き上げる意思を示さなかった」ことが挙げられています。確かにそうですが、例えば、2038年までの石炭火力発電からの脱却を表明したとされるドイツは、来年、新しい石炭火力発電所の運転開始を認めたらしいと報じられています。ドイツの脱石炭委員会は、今年1月に、石炭火力発電所は2038年までに廃止&今後の新設は認めないこと等を政府に提言したので、これをもって「ドイツは石炭火力からの脱却を明らかにした」と認識されていましたが、ことはそれほど単純でもないわけです。
古い効率の悪い発電所よりは、新しく効率の良い発電所にした方が出るCO2は減りますので、ドイツが新しい石炭火力を稼働させることを批判するわけではありません。雇用の問題もありますし、早期閉鎖に向けて補償することも含めて議論されていくことでしょう。ただ、言っていることとやっていることが違っても、ブランディングができている国は批判されないというダブルスタンダードが気持ち悪いのです。

そして実は日本は2018年度まで5年連続でCO2排出量を減らしています。2018年は前年比なんと▲3.6%の減少です。欧州などより、足元の削減はよほど進めています。小泉演説でもその点も言及されていましたが、環境NGOも、メディアも、誰も取り上げもしません。長期的な、しかも大幅な削減が必要な事はもちろんですが、足元を軽んじていきなり減らせるわけでもないでしょう。

今回のCOPでつくづく感じたことは、気候変動問題においてイメージ戦略の重要性がますます増してきているということ。
COPの場は、すっかりPR合戦の場になっています。
これまでもそうでしたが、若者や金融分野の方という、CO2削減という観点からはニューカマーが増えたこともあり、(言葉が適切ではないかもしれませんが)「素人受けするブランディング」が必要になりました。過去どれくらい減らしたかや現状をデータに基づいて評価するのではなく、「どれだけ前向きなことを言うか」で評価されてしまうという、「政治ショー」になった感があります。

気候変動問題に幅広い層が関心を持つのはとても大切なことで、ある程度政治ショー化することを否定するものではありません。ただ、やはり温暖化に真面目に取り組むことがバカバカしくなるようなことになる会議にはなってほしくないと思います。

【日本の石炭に対するスタンスの何が問題なのか】
日本の石炭利用に対する批判としては、大きく、国内のエネルギー供給のために利用していることへの批判と、海外へのプラント輸出に対して公的支援を行っていることへの批判の2点があります。

まず前者ですが、石炭の使用量について言えば、中国やアメリカ、インドの方が日本とは比較にならないほど多いです(エネルギー白書2013を見ると、2011年のデータですが世界の石炭の6割を米中の2か国で消費していることがわかります。)

エネルギー白書石炭消費量

とはいえ、石炭の利用をどう低減させていくのかの道筋はもっと示すべきであることは確かでしょう。ただ、それは再生可能エネルギーの普及だけでなんとかなる訳でもありませんし、ましてやそれが今すぐできるわけでもありません。
天然ガスへの切り替えか、原子力の再稼働を進めるかという話も避けて通れないわけです。前者の天然ガスへの切り替えは、既にこうした気候変動の会議の場では、「天然ガスに切り替えても約半分になるだけ」として批判の対象になっています。石炭も天然ガスも同じく憎むべき化石燃料、という訳です。低炭素化を積み重ねることも大事だと思うのですが、今や脱炭素でなければ認めないという風潮です。こうした原理主義的な考え方はかえって脱炭素社会への移行(トランジション)を阻害してしまう可能性がありますが、演説の中で天然ガスへの転換に言及したなら、さらに集中砲火を浴びたでしょう。
そして原子力の活用を言えば国内からの反発を受けることは自明です。
両方言えない、言わないのであれば批判されても仕方のない部分はあったでしょう。とは言え、それは小泉演説の問題ではなく、日本のエネルギー供給の課題です。

後者の海外にプラント輸出をすることへの批判も真剣に議論されるべき課題ですが、どのような技術を欲するかはそれぞれの国が決めること。日本が押し売りしているわけではありません。
日本がその技術を売ることをやめたら、その途上国は石炭火力発電の代わりに、再生可能エネルギーを導入するでしょうか?もしそうなるのであれば、日本が石炭火力発電の輸出をすることに私も断固反対しますが、現実的には他国がその技術を売るだけです。中国の技術が代替する可能性が高いでしょう。現在、海外に石炭火力発電の技術を最も多く売っているのは中国であり、石炭火力発電技術の輸出に対する公的支援も中国が最も多い訳です(ちなみに、2013年までのデータですが、ドイツも海外への石炭火力発電技術輸出への公的支援で世界4位なんですね)。

石炭公的ファイナンス

出典)「Quantifying Chinese Public Financing for Foreign Coal Power Plants」
Takahiro Ueno, Miki Yanagi, and Jane Nakano

「日本もやめるから、中国もやめようよ」と抱きついて説得することでもしないと、結局、日本のレピュテーションは守られたとしても、温暖化には何の効果もない、ということになるでしょう。
中国はOECD加盟国ではありませんし、説得するのは至難の業と言うか不可能に近いことは重々承知です。しかしながらそれを諦めるのであれば、結局日本のレピュテーションのために石炭火力の輸出をやめるということになります。

なお、環境NGOの中には、「いくら売ってくれと言われても、途上国に対して麻薬は売らないでしょう。それと同じく、石炭火力の技術を売ることは許されない」とまで言う人がいますが、麻薬という使用する人の体をむしばむだけのものと、エネルギーを供給する手段としての石炭火力発電技術を同列に語ることが本当に正しいのでしょうか?金融の世界にもこうした考え方が増えつつあるようですが、「石炭悪魔論」がある種の宗教になっている印象すら受けます。

【“小泉演説”だったのか】
国内からの小泉演説に対する批判も多く寄せられているようです。ただ、演説したのは小泉大臣であっても、当然、その中身は日本政府の公式スタンスとして了解された内容しか話すことができません。もちろん事前の調整ができるポジションにはおられるわけですが、これまで述べてきたとおり、日本のエネルギー政策そのものに直結する話なので、温暖化の会議で受けることを言うにも限界があります。
こうした事前調整なく、すなわち、裏付けもなく勝手な約束をした例としては、民主党政権時代の鳩山元首相が、首相就任後すぐに国連でぶち上げた「2020年には、1990年比で▲25%」という破格の削減目標がありますが、裏付けなくこうした花火をあげることが良いことだとは決して思いません。小泉演説を批判する前に、鳩山元首相のああした行動をどう考えるべきかもあわせて思い出し、考えてみていただければと思います。

私が小泉演説について残念に思ったのは、日本がイノベーションで貢献しようとしていることに一言も言及がなかったことです。イノベーションに期待することを、ある種の逃げのように感じておられるのかもしれません。でも、これから大幅なCO2削減を進めるためにはイノベーションが必要不可欠であることはパリ協定にも、パリ協定の下に各国が提出した長期戦略にも多く言及されているところです。そして、ただ口を開けてイノベーションを待つのではなく、昨日Japan Pavilionで開催された「Innovation Challenge towards Net Zero-Carbon」のように、どうすればイノベーションを引き起こせるか、近づけるかも真剣に議論しています。
日本の貢献は、やはりイノベーションとテクノロジーだと考えている立場からすると、その点は残念ではありました。ただ、全てを3分の演説の中に入れ込めるものでもなく、これから引き続き、日本のスタンスの発信役を担っていただく中で、イノベーションにも積極的にコメントをいただけるよう期待したいと思います。

そして、私たちもこの問題が私たち自身のエネルギー利用の問題であることを認識し、どうやったら少しでも変えていけるかを真面目に議論できればとっています。もう少しでCOP25も閉幕です。

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温暖化・エネルギー政策の研究をしています。現実的な移行とサステナブルな未来を考えています。 国際環境経済研究所理事・主席研究員/筑波大学・関西大学客員教授/U3InnovationsLLC共同創業者・代表取締役。