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オープンソースで世の中を引っかき回す【複業にトライ②】

複業を始める目的は人によって様々だろう。お金がほしい人、自分の夢を実現したい人、趣味の延長で始めた人……。今回紹介する五十嵐康伸さんは、複業を始めた理由ついて「お金もうけのためではなく、データ可視化という社会貢献を実現するため」と断言する。

五十嵐さんは、パーソルキャリアという会社でデータサイエンティストとして働いている。その一方、データ可視化の研究者という顔を持つ。100人の複業メンバーで構成するデータビジュアライゼーション(データ可視化) チーム「E2D3.org」 の代表を務める。

E2D3は、データ可視化を誰もが簡単にできるようになるツール、E2D3(Excel to D3.js)を開発するチーム。開発したコードはオープンソースで公開している。例えば学生が実験データをわかりやすく可視化したり、企業のマーケティング・リサーチ担当者が視覚に訴える資料を作成したりするのに利用されている。

五十嵐さんは、東北大学や奈良先端科学技術大学院大学で研究者として働いた後、オリンパスソフトウェアテクノロジー(現オリンパス)などを経て2016年にインテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社。データサイエンティスト学習支援プログラム「Data Ship」の立ち上げを行い、現在はエキスパートとして転職サービス「doda」のデータ分析に携わっている。

五十嵐さんはオリンパス時代、1年間に200近い事業化のアイデアを思いついたという。そのなかで最も高い評価を得たのが「データ可視化」だった。アプリを開発し、当初は起業を試みようとベンチャーキャピタル(VC)を回ったが、獲得できそうな資金は200万円前後に過ぎなかった。このため仲間と相談し、起業は取りやめ「データ可視化をオープンソースにして、世の中を引っかき回す道を選んだ」。こうしてE2D3は企業でもNPOでもない非営利の団体として活動を始め、五十嵐さんの複業もスタートすることになった。

「E2D3.org」はアプリ開発のほか、メディアからの依頼を受けてウェブサイトの特集ページなどを制作する。これがメンバーの複業収入となっている。

上の画像は「Yahoo!みんなの政治」から依頼を受けて作成した作品。上段真ん中と下の画像は、千葉県白井高校の学生が挙げた社会課題の「鉄道の運賃の高さ」をデータビジュアライズした作品だ。グラフは生徒たちが普段利用する北総線に加え、千葉県内を東西に走る京成本線、JR総武線、つくばエクスプレスなどを表示して、1㌔㍍あたりの運賃を比較している。右下の「+」ボタンを押して1㌔㍍ずつ距離を進めてみると、生徒たちが見せたかった「北総線の運賃の高さ」が客観的なデータの比較で読み取ることができる。

こうした仕事を、五十嵐さんが窓口になってE2D3のメンバーに振り分ける。「みんなの複業の仲介を私が複業としてやっている」というわけだ。受注額は1作品あたりおよそ40万円前後。仲介はお金にならないが、五十嵐さんはE2D3を通じた講演や大学での講義などで年間20万円程度の複業収入を得ているという。

五十嵐さんが勤務するパーソルキャリアでの複業の位置づけはどうなのか。同社では

副業:定められた就業時間をパーソルキャリアにて勤務した上で、個人事業主等として就業する
複業:パーソルキャリアでの雇用+他社雇用や、パーソルキャリアでの就業時間を減らした時間を別の勤務に充てるなど、上記以外の就業方法

と、副業(サブワーク)と複業(パラレルワーク)を分けて考えている。副業は以前から一部の社員には認められており、五十嵐さんも会社に申請の上、E2D3の活動を始めた。パーソルキャリアはその後「もっと多くの社員に多様な働き方を実現してもらうため今年10月に副業を全社員に解禁し、改めて社内に広報し直した」。その結果、現在20人近くが副業に取り組んでいる。複業についても2019年度の制度導入に向け検討中だという。

データ可視化の注目度が増すのにつれ、E2D3の活動は勢いを増している。

「Power BI を使ったビジュアルを紹介します」「世界の健康データをビジュアライゼーションするとこんな感じです」

週末にメンバー達とイベントスペースに集まる「もくもく会」。11月下旬に開催されたもくもく会には、所属が大学、WEB会社、リース会社、ポイントデータ会社といった多彩なメンバーが集まっていた。プレゼンテーションしていたのは、分担して執筆する本「データビジュアライゼーション ツールカタログ」の内容だ。来年4月の発売に向け、ディスカッションにも自然に力が入るようすだった。

来年春の統一地方選も、E2D3の活躍の場を広げそうだ。「Yahoo!みんなの政治」もそうだが「選挙・政治」は特に重要視しているテーマ。これまでにも米大統領選や2012年衆院選などのデータ可視化を手掛けた実績がある。「統一地方選ではぜひデータ・ドリブン・エレクションを実現させたい。選挙と政治をエンターテイメントにするのが夢」と五十嵐さん。データ可視化という社会貢献の活動はますます活発になりそうだ。


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日本経済新聞社のCOMEMO担当。日経記者、デスクをへて2017年10月からCOMEMOスタッフ。※投稿する内容は個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
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