いま、18歳に必要なリーダーシップとは?
この10年で、リーダー像やリーダーシップの意味合いは、大きく変わってきた。すでに社会人である皆さんにお聞きしたい。「もしあなたが、今の時代の大学一年生だとしたら、18歳でどんなリーダーシップを学びたいだろうか?」
明らかに変わってきたリーダー像
リーダーという言葉でまず思い浮かぶのが、カリスマ型のリーダー像だろう。しかし、最近のリーダーシップ研修でも、リーダーシップのこの10年の変化について尋ねてみると、多くの社会人が口を揃えて、「私についてこい型のリーダーから、みんなの後押しをするリーダーが求められるようになった」と答える。前者は、一歩間違えばパワハラになってしまうとも言う。
私たちは、「強いリーダー」のイメージにしばられてきたのではないだろうか。リーダーは正しい目標を設定し、メンバーに正しく指示し、大きな影響を与えていかなければならない、という固定的な認識。実際は、不確実な時代となり、正しい目標や指示を与えることよりも、状況に応じた判断がリーダーには求められている。
リーダーとリーダーシップの違い
リーダーシップの議論の難しいところは、「リーダーシップについて語ろう」と言っていても、ふとしたきっかけで「リーダーについての議論」が始まっていることだ。リーダーは目に見えるが、リーダーシップは目に見えないからかもしれない。
先のリーダーシップ研修で、「リーダーという役割の話ではなく、誰もが発揮できるリーダーシップというものについて語るとどうだろう?」と問い直すと、参加者たちとの対話から、「リーダーシップは自分自身の魅力を発揮すること。また、他人の魅力を引き出すこと。そして、自分と他人の魅力を引き出すリーダーシップのある人が、実際にプロジェクトを始めると、役割としてのリーダーになる」という意見がまとまった。
18歳の若者の未来
現代はグローバル資本主義の弊害が語られ、多様性の包摂や持続可能性を前提とした、新しいビジネスの可能性が広がる面白い時代になった。一方で、先の見えない時代でもある。単純に大企業に入社することが、将来の安定やキャリアの可能性を開くわけでもないということを18歳のみんなが知るようになった。
18歳のリーダーシップを考えるうえで、政治に対する関心を無視することはできない。18歳が50%強であるのに対して、19歳の投票率が30%程度であるのは、大学進学で都市へ移住しても住民票を移さない学生が多いから、と言われている。
10代学生に対して、政治に関心をもってもらう取り組みも始まっている。高齢者の有権者の数が若者を大きく上回り、さらに投票率も70%に達することを考えると、若者が政治に無視されてしまう構図が理解できる。無視されるので、関心が下がり、投票率が下がるという悪循環が起きている。
その一方で、学生の起業家を支援する取り組みは増えている。クラウドサービスの進歩によって、個人や小さなチームでも、大きなコストをかけずに、大企業に負けないサービスを開発し、マーケティングできるようになったからだ。
しかし、どれだけの18歳の学生が、その人らしいリーダーシップを発揮できているだろうか。多くの18歳は、いわゆる役割としての「リーダー」ではない。彼ら彼女らにとっての、今の時代に求められる「リーダーシップ」とは、どんなものなのだろうか?
リーダーではない大多数の人のリーダーシップが必要
リーダーシップとは、「リーダーの役割にある人に必要な力」だと考えてしまいがちだ。そのため、「リーダーではない人のリーダーシップ」について語られることは少ない。
少数のリーダーが発揮するリーダーシップならば、レバレッジが必要だろうが、大多数の人がリーダーシップを発揮するならば、それぞれは小さな変化をつくるだけで十分である。
スローリーダーシップという形
「スロー」とは、たんに「遅い」という意味ではない。スローフードから始まった、時間をかけて、人との関係性を大切にしながら、本質を深く掘り下げることを意味するムーブメントだ。
「スローリーダーシップ」とは、効率とは無関係に、目の前のことにじっくりと取り組む力である。関わるすべての人の自分ごとを引き出すことで、本質的な変容を生み出す力ともいえる。目の前の人の話を偏見なしに丁寧に聴き、その人の想いを理解し、その人のやりたいを真ん中に置いて面倒がらずに支援する力が必要なのである。
そして、答えのない課題に直面したときに、解決策に安易に飛びつくのではなく、目の前の人、目の前のことに丁寧に取り組み、小さな成功を喜べる力でもある。
現代社会の問題の多くは、社会システムが先にあって、そこに人を当てはめる考え方に起因する。スローリーダーシップは、目の前の一人の人のやりたいことを真ん中に置いて、それを実現するために360°のすべてをひっくり返す。つまり、「一人ひとりのやりたいことが真ん中の社会をめざす」のが、スローリーダーシップの世界観である。
「子どものやりたいことを真ん中に置く子育てや教育」、「社員のやりたいことを真ん中に置く働き方のデザイン」、「おひとり様の高齢者のやりたいことを真ん中に置く医療や介護」など、すべての社会課題はスローリーダーシップを発揮する人が増えることによって、課題が生まれる原因そのものが取り除かれるようになっていくのではないだろうか。
18歳の若者たちが、「リーダーになりたいか」という議論を超えて、「目の前の人をほんとうに大切にする」スローリーダーシップを発揮することで、「社会全体の深い変容が起きる」ことを期待してやまない。