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潜在成長率を押し下げる国民負担率上昇

国内需要不足5兆円、1〜3月 前期から2兆円縮小 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

国民負担率(税・社会保障負担の国民所得に対する割合)の上昇により可処分所得が減少すれば、消費支出が削減されるほか、貯蓄の減少ももたらすことになります。一般に経済成長を供給側からみる場合、①労働、②資本、③全要素生産性(TFP、技術進歩や人的資本の向上等)の3要素に分解し、それぞれの経済成長への寄与を求める成長会計という分析手法が用いられます。こうした成長会計の観点から考えると、国全体としての貯蓄率の低下は、中長期的に資本ストックの減少をもたらし、潜在成長率の低下につながることになります。

事実、2010年以降の国民負担率の上昇幅をG7諸国で比較すると、日本が断トツで上昇していることがわかります。このため、これまでの国民負担率の上昇は、供給面においても日本経済の大きな制約となってきた可能性があるといえるでしょう。

そこで、G7諸国に関するパネル分析を行うと、国民負担率と潜在成長率には有意に負の相関にあり、国民負担率+1%ポイントの上昇に対し、潜在成長率が▲0.11%ポイント低下する関係があることがわかります。経路としては、家計貯蓄率の低下が考えられます。というのも、設備投資の源泉である貯蓄が減少すれば、資本ストックの蓄積が阻害され、中長期的な経済成長率が抑制される可能性が高いからです。つまり、国民負担率上昇→家計貯蓄率低下→資本蓄積阻害→潜在成長率下押し、という経路が推察されます。

これに対して、全要素生産性を高めれば、潜在成長率の低下は避けられるという意見もあります。しかし、投資と技術進歩が互いに影響を及ぼす関係にあることを考えれば、資本の蓄積が生産性の向上のために重要な役割を果たしていることも見落としてはならないでしょう。
 
推計結果(サンプル数:252、自由度調整済み決定係数:0.2695)
潜在成長率=5.593-0.109*国民負担率
 (t値)  (5.363)(-3.566)

国民負担率の上昇を抑制するためには、国民所得を高めることが必要となります。拙速な増税を通じた家計部門から政府部門への所得移転では、国民の被る痛みは大きくなるでしょう。少なくとも総需要不足の状況、すなわちGDPギャップがマイナスを続け、実質GDPが潜在GDPを下回っているような状態では、景気を引き締めるような政策は控えるべきといえます。国民の負担感を和らげるためにも、賃金の持続的な上昇を図ること等によって名目GDPを拡大することが重要になるでしょう。


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