エスカレートする米中貿易戦争(1)やはり買い場

8月になり、会社に来る通勤電車に、いかにも遊びに行く風情の人がいっぱいでやになるなぁと思っていたところへ冷や水。8月1日、トランプ大統領は、米国の中国からの輸入に対して、既存の2500億ドル対象品目(25%)に続き、残りの3000億ドルについて10%の関税率を9月1日から適用すると発表した。

いつものように、これも単なる交渉戦術上の威嚇かもしれない。というのも、その言い分がいかにも“小さい”のである。7月末に米中貿易協議が再開されたばかりであることに加え、「中国は米国の農産品大量購入に同意したが実行していない」、「フェンタニル(鎮痛剤)の米国への売却停止を約束したのみ実行していない」などと言う。中国が容易に受け入れられそうなこと、に見えてしまう。

だが、実際に発動された場合には、関税引き上げによる貿易量減少および生産コスト上昇に加え、不透明感増大による景況感と設備投資の低迷から、当然ながら米国と中国の成長率には下押し効果となろう。それも輸出依存度が相対的に高い中国のほうで効果が大きいのは確かだ。その心配こそが、金融市場の混乱を招いている。

これまでにも関税引き上げ(昨年の500億ドルと今年5月の2000億ドル)をしてきたが、その時との相違点を三つ指摘したい。第一に、グローバル成長の悲観論がピークに達すること、である。すでにIMFは世界成長率を2019年3.2%、2020年3.5%に引き下げているが、関税引き上げが最終段階に達すれば悲観論はピークになる。第二に、しかしながら、輸出圧迫度合はこれまでよりは小さい。今回の3000億ドルは消費財が中心となる。輸出量に対する弾性は消費財のほうが低いため、中国の米国向け輸出にはこれまで程の圧迫にはならない。一方、米国の消費財価格には上昇圧力がかかる。ただし、関税引き上げ合戦は内需が強い米中より、貿易依存度の高い国(韓国やドイツ)に深刻な影響をもたらしかねないことは踏まえておきたい。第三に、結局こうした不透明要素が続けば、先進国中銀は金融緩和を続けざるを得ない。すでにFedは7月に利下げを実施済み。累積した関税引き上げにより、世界的な低成長の長期化は避けられない。だからこそ、先進国中銀の金融緩和サイクルもまた長期化せざるを得ないというロジックだ。

ここから何が言えるかと言うと、金融市場の混乱は早晩収束に向かうであろうということである。米中貿易戦争のエスカレートは金融市場を動揺させるが、だからこそ、買い場を作ってくれるとも言えるのではないか。

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