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新型コロナは、ベンチャー企業の資金調達にどんな影響をもたらしたのか?〜英国データからの検証〜

 新型コロナウイルス(COVID-19)の変異株、オミクロン株による社会・経済への影響が懸念されています。こちらの記事にあるように、オミクロン株の影響によって経済への影響が懸念されているだけでなく、既存のワクチンがそれほど期待できないのではないかとの疑念から日本株は下落しました。この記事を書いている時間帯に取引が行われているヨーロッパ市場での株価も下落しています。ただし、市場に上場しているような企業は、中小企業や未上場ベンチャー企業に比べると、相対的に体力や信用力もあリマス。新型コロナによる経済ダメージは、中小企業や未上場ベンチャー企業の方が深刻かと思います。今回は、新型コロナによる感染拡大は、ベンチャー企業の資金調達にどのような影響をもたらしたのかの学術研究を紹介します。オミクロン株による経済ダメージへの予測や備えに活かしてもらえたらと思います。もちろん毒性が全然なく、悲観マインドも杞憂に終わってくれたら良いですが・・。


COVID-19による資金調達環境への影響

 学術研究の世界では、金融危機や経済ショックが起きたときに、中小企業やベンチャー企業(スタートアップ含む)の資金調達にどのような影響をもたらしたかについて多数の研究が蓄積されています。例えば、5800社のアメリカの中小企業データを用いた研究では、COVID-19の影響から60%の中小企業が現預金を使い果たすリスクに晒されたとのことです。その他の研究では、金融危機の時に影響が出やすいのは、銀行借入などの負債による資金調達以上に、株式による資金調達の方が影響が出やすいことが指摘されています。経済危機が起こると、長期視点を持つことが必要になる株式出資を行おうとする投資家が減少するのかもしれません。


COVID-19とベンチャー資金調達環境

実は、上述した株式による資金調達の難しさは、COVID-19によって更に悪い方向に増幅されたようです。それについて詳しく検証したのが、下記の研究です。学術研究では、ベンチャー企業のようなアントレプレナーファイナンスや、シードステージのベンチャー企業には、経営者と投資家の密なコミュニケーションの重要性が指摘されています。それだけ、不確実性が高いベンチャー企業だからこそ、経営者の潜在力を測るためにも、投資家の目利き力が試されるようです。潜在力は、必ずしも過去の実績や、数字だけをみていても分かりませんからね・・・この研究では、イギリスのベンチャー企業の資金調達の変化を見ています。対象となっているのは、ベンチャー企業による400億ドルを超える規模の大規模資金調達と、シードファイナンスと呼ばれるスタートアップほやほやのベンチャー企業の動向まで検証しています。前者は2019年比で2020年は31%の減少で、後者は39%の現象となったようです。それだけ、シードファイナンスという不確実性の高い株式出資の方が悪影響が大きかったようです。この論文ではこうしたことが起きた理由を以下のように推測しています。COVID-19により、リモート面談が当たり前になったことで、ベンチャー経営者と投資家の密なコミュニケーションが減ったことで、投資家の目利き力の壁になったのではないかと・・。確かに、考えられそうです。


Brown, Rocha, Cowling, "Financing entrepreneurship in times of crisis: Exploring the impact of COVID-19 on the market for entrepreneurial finance in the United Kingdom", International Small Business Journal: Researching Entrepreneurship, July 6, 2020,


今のベンチャー資金調達環境は?

しかし、上述の研究では、2020年後半にかけてシードファイナンスは徐々に回復傾向を見せていることも報告されています。考えられ理由は、シードファイナンスの多くがSaas、AI、クラウド、DX、HRテックなどなど、デジタルビジネスというCOVID-19が追い風になる業種が多かったからかもしれません。オミクロン株によって、オンラインありきの生活に戻り、シードファイナンスへの影響が再び出てくるのか、それともデジタル投資の加速に賭ける展開になるのか。今後の影響に注目です!

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

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崔真淑(さいますみ)

*冒頭の画像は、崔真淑著『投資1年目のための、経済・政治ニュースが面白いほど分かる本』より抜粋。無断転載はおやめくださいね♪


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