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コロナを潮時に廃業するクリニックの価値と事業承継の形

コロナ禍では、持病で通院する患者数が減少していることから、今後は廃業するクリニックも増えることが予測されている。厚生労働省が定期的に行っている月間患者数の調査によると、全国の病院におけるコロナ後の外来患者数は、コロナ前と比べて2割近く減少している。

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病院報告(令和2年4月分概数)

同じく厚生労働省の調査によると、開業医の平均年齢は2018年の時点で60歳なっており、70歳を過ぎても現役を続けている医師も2割を超している。彼らにとって、新型コロナによる患者数の減少は、引退を考える潮時となっているようだ。

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一方、勤務医が独立開業する時の平均年齢は41.3歳で、賃貸物件でもクリニックの新規開業には5000万~1億円以上の資金がかかる。その中の1~2割は自己資金で賄い、残りは銀行融資で調達するのが一般的な開業プランである。

勤務医が独立を希望するのは、収入を伸ばしたいこともあるが、それ以上にワークライフバランスの面が大きい。医師の平均寿命は、一般人よりも10年程度短いことは複数の調査で報告されているが、これは勤務医時代の過酷な働き方が原因とみられている。こうした勤務体系から離れるためにも、3人に1人の割合で勤務医は独立開業を目指している。

【医療クリニックの売買価値】

最近は、医療法人が複数のクリニックを分院展開することで、スタッフの採用を効率化させたり、医療機器や薬剤の購入コストを下げる経営手法が確立してきたことから、院長が高齢の診療所を買収して系列化する動きも加速している。それに伴い、会計事務所などが母体となった、第三者への医療継承を仲介サービスが全国的に広がっている。

クリニックの譲渡価格は、売上高(医業収入)から経費を差し引いた利益の実績をベースに交渉されることになるが、これは院長の年間所得に相当する。つまり「院長年収の何年分か」をみると、案件の優劣をおおよそ判別できる。

院長年収の1年分に相当する「1,000~2,000万円」で売りに出ている案件は、現院長が70代後半で高齢のため、既に患者数が減少して、院内の設備も老朽化しているケースが多い。その点からすると、第三者への医療継承は、院長の気力、体力が充実して経営状況が良好なうちにハッピーリタイアをしたほうが譲渡金額は高くなる。院長年収が3,000万円、その3年分なら「9,000万円」が営業権の譲渡金額だ。

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市場動向として、少子高齢化により患者の総数は減る中で、開業医同士の競争は厳しくなるため、今後は新規でクリニックを開業するよりも、高齢の開業医と新規開業者(勤務医)との間で、事業承継型のM&Aが増えることが予測されている。ただし、クリニックのM&Aは金銭的な取引だけでは上手くいかない面がある。

売買されるクリニックの価値は、固定の患者数をベースにして買収後も期待できる営業収益によって算定するのが基本になっている。しかし院長が突然替われば、患者からの評判も変わり、固定客が離れることもあるため、後継候補の医師は、非常勤医として週に数日の診察で患者との信頼関係を築いた上で、事業承継をするような仕組みが求められている。

開業医にとって最大の悩みは、経営者で院長でもある自分自身が、すべての職務を背負っており、急病で診察ができなくなった時に、代役を任せられるパートナーが存在しないことである。もしも、自分が体調を崩して長期入院ということになれば、クリニックを廃業するしかないと考えている開業医は多く、非常勤医師の派遣でピンチを回避できるような、院長だけに依存しないクリニック経営の支援することが、新たなビジネスチャンスとして浮上している。

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