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リモートワークは組織体制をアップデートする契機【日経テーマ企画】

COVID-19 という黒船で、半ば強制的に推し進められたリモートワークだが、一時的な対処策ではなく半永続的に付き合い続ける新しい働き方と捉える見方が強まっている。COVID-19 の対策については、感染症の専門家から早い時期から、完全な根絶は難しいのでうまく付き合いながら新しい生活様式(New Normal)を創り出すことの重要性が主張されてきた。それが、6月に入ってからようやく本腰を入れて考えられるようになってきたように思う。

中にはリモート疲れで、元の生活様式に戻りたいという声も聴かれるが、恐らくは元の生活様式に完全に戻ることはないだろう。それほどまでに、社会は既に大きく変化してしまったし、完全に戻るにはCOVID-19のワクチンができる必要がある。ワクチンはそう簡単にできないし、ワクチンがないということは元の生活様式に戻った途端にパンデミックが再発するリスクは依然として存在する。悲鳴は悲鳴でしかないので、どれだけ泣き叫んでもスーパーマンが存在しないことには誰も助けてはくれない。そして、残念なことに現実社会にはスーパーマンは存在しないことのほうが圧倒的多数だ。

嫌だと声をあげるよりも、元の生活様式に戻ることを諦めて身の振り方を改めたほうが生産的だ。尚且つ、精神衛生上も良い。それでは、新しい生活様式の中、どのように考え、立ち振る舞うことがより良い未来を呼び込むことができるのだろうか。

今回は、日経新聞連動テーマ企画として募集されているテーマ『#リモートワークで成果を出す組織とは』と絡めて考えてみたい。


リモートワークと「バーチャル・チーム」

リモートワークで職場の仲間全員が遠隔にいる状態で働くことは、なにも突然出て来た話題ではない。このような構成員全員が遠隔にいる状態で、どのように協業するかという研究は、高速インターネットが普及し始めた00年代初頭から「バーチャル・チーム(Virtual Team)」研究として多くの知見を積み重ねてきた。

バーチャル・チームの議論は、特にグローバル企業における協業の文脈で検討されてきた。なぜなら、欧米企業によく見られる機能別のグローバル・モデルを採用している場合、同じ部署のメンバーが世界中に飛び散っていて、誰一人として物理的に接触することができないことも珍しくない。そのため、物理的に一緒にいないメンバーとの協業やマネジメントに関するノウハウの構築が実務面と学術的関心の双方から求められていた。

機能別のグローバル・モデルとは、国という概念にとらわれず、組織内における機能や専門性、効率性によって組織を設計しているケースだ。例えば、グローバル人事部に所属していたとすると、その総責任者が南アフリカにいるフランス人だとすると、日本にいる日本人の人事部長のレポートラインは南アフリカであり、業務上の報連相は南アフリカにいる上司と行うことになる。このモデルの詳細についてもっと知りたいという方は、株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員の有賀 誠氏のコラムを参照いただきたい。

日本企業と欧米企業で組織形態や文化の違いはあるものの、遠隔にいるメンバーとどのように協業するかについて、参考となる知見は多い。それでは、バーチャル・チーム研究ではどのようなことが明らかになっているのだろうか?


リモート・ワークは準備が大事

リモート・ワークに関しては、様々な懸念を耳にする。「従業員がちゃんと働いているか、わからない」「顔と顔を合わせないと信頼関係が醸成出来ないのではないか」このように、対面ではないと協業ができないという現場からの声は多い。クラウドベースの人事労務システムを構築しているミナジンの野崎 友邦氏は、「本当に仕事をしているのかどうか?」を確認したいという顧客からの声は多いと述べている。

それでは、学術的にはこの問題について、どのように検討されているのかというと、この件についてはほぼ確定した結果が出ている。信頼関係の醸成も帰属意識も、仕事へのエンゲージメントも、ホワイトカラーの仕事で重要視されている働きぶりを評価する指標のほとんどにおいて、バーチャル・チームは優れた効果を生み出している。つまり、確率論的には、かなりの確率でホワイトカラーの業務はリモートワークでも問題ないということだ。

もちろん、対面ならではの良さもある。ノースカロライナ州立大学のブラッドレイ・カークマン教授らのチームによると、対面でのミーティングの機会を設けることで、バーチャル・チームのパフォーマンスが高まるという研究成果をまとめている。対面に意味がないわけではない。ただ、なくても成果を出すことができるということだ。

しかし、成果を出せるバーチャル・チームには但し書きがある。それは、しっかりとバーチャル・チームとしての設計がなされていることだ。具体的には、3つの論点があるように思われる。

第1の論点は、管理ではなくマネジメントがなされていることだ。管理とマネジメントは似ているようで全く異なる概念だ。

管理とは、管理者が従事者の労働状態を逐次監視し、最適な状態を維持することだ。このことは、最も古典的なマネジメント手法であるフレデリック・テイラーの「科学的管理法」に端を発する。科学的管理法では、組織的怠業を防ぐために、労働者の課業を管理し、作業を標準化し、作業管理のために最適な組織体制を作った。組織的怠業とは「生産性が高まると仕事がなくなり、自分たちの職が無くなるのではないか」という思いから発する組織立ったサボタージュだ。そのため、管理は怠業の防止と切っても切れない関係にある。

マネジメントは、ここでは俗にマクロ・マネジメントと呼ばれるものだ。マクロ・マネジメントは、上司が部下の業務管理を行うマイクロ・マネジメントの対となる用語で、部下の自習性を重んじてやり方を任せ、生み出された成果を基に組織運営をする手法だ。Googleが自社のマネジャーに求める10の行動に数えられている。マクロ・マネジメントは言うほど簡単ではない。実現のためには、マネジメントに関する理論や知識を十分に身に着け、優れたコーチであり、他者を尊重し、多様性を受け入れるなどの様々な素養が求められる。つまり、管理職のマネジメント能力が十分に訓練されていないと機能させることができない。マクロ・マネジメントが行きつくところまで行くと、ノー・レーティングのように業績や成果の評価すらしなくなり、上司の役割は部下育成と部署全体の方針決めと軌道修正が主なものになる。

第2の論点は、メンバーがプロフェッショナルであることだ。相手に仕事やタスクを依頼した時、定められた期限までに確実に成果物が届けられるという信頼性が担保されていない状態で、メンバー全員が遠隔で仕事をすることは難しい。特に、新卒で入ってきたばかりの新入社員のように、メールの書き方も電話の仕方も知らず、パソコンもろくに使ったことがない状態だと、対面に比べて遠隔の方が指導に時間と手間がかかり生産性を落とすことになる。また、ジョブローテーションで異動してきたばかりで、まだ仕事のスタイルが確立していないメンバーもプロフェッショナルとしての動きができないために生産性を低下させる要因となりうる。

第3の論点は、対等でロー・コンテクストなコミュニケーションができることだ。ロー・コンテクストとは、異なる文脈にいる個人(例えば、別組織や異業種の人など)に対しても直感的に理解できるように噛み砕いたコミュニケーションがとれるかということだ。阿吽の呼吸のように、話さなくてもわかるというコミュニケーションは、ハイ・コンテクストという。直接顔を合わせないコミュニケーションでは、ハイ・コンテクストなコミュニケーションはほとんど機能しない。また、遠隔での協業では、自分からクラウドの共有フォルダやチャットでの履歴を確認するなどして、仕事に必要な情報を個人が自分で探し出す必要がある。部下や後輩、派遣社員が資料を準備して、情報収集を自分からしなくても良いようにお膳立てしてくれるような忖度はない。こういった、情報収集に関するフラットな関係性ができておらず、自分から情報収集ができないメンバーは管理職やリーダーであっても使い物にならない。


まとめ

これら3つの論点に共通することは、リモートワークが決まってから、突然やろうと思ってもできないということだ。部下がサボらないか管理することがマネジャーの仕事だと思っている管理職に対して、リモートワークになったから行動変容しろと突然言ったところで対応することは難しい。同様に、自分から情報を収集することを忘れてしまい、部下や後輩がお膳立てすることになれたコミュニケーションに慣れていると、リモートワークによって入ってくるはずの情報が入ってこなくなる。その結果、「俺は聞いていない」という状態に陥ってしまう。つまり、リモートワークを成功させるためには、管理職のマネジメント手法や部署内のコミュニケーション、構成員のキャリアなど、事前に組織体制が整備されていないと機能しにくいのだ。

このことから、リモートワークは理論的には全てのホワイトカラーで有効に機能するが、現実問題として全ての企業や従業員に適用できるかというと難しいと言える。組織体制が整備されていない企業があるためだ。また、同じ企業内ではあっても、本社だけは適用できても、末端の組織では満足に運用できないというケースもあるだろう。

カルビーは、無期限テレワークを辞め、単身赴任をなくすと発表した。しかし、その適用範囲は全社員の中で約2割に留まる。

同様に、デニーズも従業員の在宅勤務を常態化させると発表したが、その適用範囲は本社勤務の従業員のみだ。

リモートワークを成功させるために、従来のマネジメント手法や組織体制の在り方を見直し、アップデートする必要がある。

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