地方自治体主催のふるさと納税型クラウドファンディングの可能性
(Photo by Micheile Henderson on Unsplash)
コロナ禍で、日本でも寄付文化が根付き始めている。市民の意識も変化し、クラウドファンディングのプロジェクト数も、寄付額も急増している。一方で、税収の減った地方自治体はふるさと納税のスキームを使い、新たな取り組みを始めている。このムーブメントは、どこに向かうのだろうか。
地方の文化を守るために
地方自治体は、税収の大幅減少に加え、コロナ禍対応予算の積み増しにより、深刻な財政悪化に苦しんでいる。
来年度に向けて、地方自治体は財政を切り詰めるため、緊急ではない事業予算をカットすることになる。そうすると、人の命に直結しない、文化的事業はカットの対象になりやすい。地方自治体の事業予算はどうしても単年度主義になりがちで、長期的視点で取り組むべき事業が削られ、結果として地域の将来価値を下げてしまいかねない。
このような状況の中で、行政に頼らず、クラウドファンディングを使うことで文化を守ろうというプロジェクトも増えてきている。コロナ禍によって昨年は多くのイベントが中止に追い込まれたため、今年こそはという市民の想いがそのムーブメントを牽引する。
市民の意識:クラウドファンディングの急増
2020年は、クラウドファンディングが社会インフラとしての存在感が大いに増した一年になった。プロジェクト件数は大幅にアップし、クラウドファンディングという言葉を誰もが知ることになった。
クラウドファンディングが普及した一つの要因は、コロナ禍によって格差が分かりやすく見える化したことではないだろうか。こども食堂の運営や学習支援をしている団体に多くの寄付が集まっていることからも、身近な格差を自分ごとで感じやすくなったことがうかがえる。
行政の意識:ふるさと納税はどこへ向かうのか
このような寄付文化の拡大は、地方自治体にとっても朗報だ。独自の発展を遂げてきたふるさと納税も、地方自治体にとって貴重な財源となっている。発足当初は返礼品目当てのふるさと納税が目立ってしまっていたが、返礼品の上限設定などにより、本来の地域を応援するためのふるさと納税が増えてきている。
ガバメントクラウドファンディングという言葉を作ったふるさとチョイスは、個別の自治体のふるさと納税の支援を超えて、同一テーマに取り組む自治体を集め、ふるさと納税を集める社会課題解決型のアプローチもとる。
東日本大震災から10年を迎える釜石市の挑戦:ふるさと納税によるSDGs推進
2021年2月24日。釜石市主催の「ふるさと納税によるSDGs推進」のイベントが開催された。ふるさと納税を通して、日本各地の市民が、釜石市内でSDGs推進に取り組む団体に対して、団体指定寄附を行うためのイベントであった。
詳しくは次のリンク先を見ていただければと思うが、海の未来、教育の未来、まちの未来に関する6団体がふるさと納税型クラウドファンディングに手を挙げ、この日のイベントにも参加した。
筆者はこのイベントのファシリテーターを務めていたのだが、常識がひっくり返るような体験をした。
それぞれの団体の活動は素晴らしく、震災後の10年の試行錯誤は、多くの示唆に富み、参加者の強い共感を得た。そして参加者から「各団体の活動の成果指標を明確にして、社会インパクトを可視化することで、もっと寄付が集まるのではないか」という素晴らしいアイデアが提案されたのだが、これに対する回答がとても秀逸だったのだ。
「指標は大事かもしれないけど、効率を上げようとか、成果をもっと上げようとか思っていない。」
「非効率にしていくことで、関わる人が増えて、仕事が生まれてくる。
手をかけるほど美味しくなる。
半日田植えしたら、もう午後はしない。
効率を上げすぎないことで、豊かな時間を楽しむ。
つまり、非効率は価値になる。」
「こういう価値観で生きている。
だから、無理に都会の人に応援してもらわなくていい。
そういうことが、本当に楽しいと思える人。
そういう人にだけ応援してほしい。
そして、釜石にきてほしい。」
この価値観は、誰もが今すぐ同意できるものではないかもしれない。だが、経済一辺倒の価値観に対するもやもやを誰もが持っていた。それに対する一つの対案であり、釜石のSDGsに取り組む団体のリーダーたちが信じて実践してきたことである。これこそが、スローイノベーションの本質なのかもしれない。
東日本大震災から10年。釜石に日本の未来の価値観を見ることができた。地方自治体主催のふるさと納税型クラウドファンディングは、都会から地方に寄付をすることが本質ではないと知った。寄付やふるさと納税の本質は、お金の流れではなく、想いの流れを生み出すことにあるのではないだろうか。
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