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オンラインで済むことと、済まないこと

このところのコロナウイルス問題で私が関係しているスタートアップでもリアルイベントをオンライン開催に変更して実施しました。その準備から実施に至る過程で感じたことがあったのでここにまとめておきたいと思います。そもそも私たちはなぜ、どのようにオンラインとオフラインを使い分けているのでしょうか。

ひとつのポイントは、私たち人間が歴史的にこれまでずっとオフラインの世界で生きているということです。例えば人間の体は、今現在の先進国であれば飢え死にをするということがほとんど考えられない状態で生きているにも関わらず、飢餓が当たり前の時代の記憶があって、栄養に余裕があれば体に溜め込もうとする、つまりは肥満になってしまいやすい、そういう体質を歴史的に引きずっていると言われています。
これは飢餓の時に栄養を体に貯められない人達というのは私たちの先祖の代で絶滅をしているということ、今生き残っているのはその頃に体に栄養を貯められた人たち、つまりは肥満体質の人たちの末裔が私たちである、という見方です。

そう考えると、オンラインとオフラインの使い分けというのもこれまでオフラインだけがずっと当たり前だった世界から、前世紀末に入って初めてオンラインの世界というものができてきて、実際にオンラインでのミーティングなどが簡単にできるようになったのはここ数年のことですから、こうしたものにすぐに私たちが慣れるわけではない、ということはよく考えてみれば当たり前のことかもしれません。

そうであるなら私たちは改めてオンラインとオフラインの違いが何なのか、オフラインでしかできないことは何か、ということをきちんとここで考える必要があると思います。今回のコロナウイルス問題はその良い機会になるのではないかと私は思っています。

改めてオフラインのイベントにどのような機能があるかということを考えると、

1)誰かの話を聞くという情報収集(講演など)
2)参加している人同士で個人的に会話をする情報交換
3)懇親会等で( 2)に加え)新たな人と知り合うネットワーキング

これらが主な機能と考えられます。オフラインのイベントはこうした異なる機能を同じ場所と時間の中で実現している、複合的なものであると言えます。

これがオンラインイベントの場合には、それぞれの機能が別の機会あるいは別の機能によって補われなければならない、少なくても現時点では複合的に扱うことは難しいということができるでしょう。

例えば1番目の情報収集をするという機能に関しては、今のオンライン配信やオンライン会議といった方法でも十分にその機能を果たせると思われます。ただし、その情報収集の間に参加者の間で、例えば講演会に参加した隣の知人と小声で話をする情報交換であるとか、そこで偶然隣同士だった人と会話をしネットワーキングするといったことは、このオンライン情報収集のやり方だけでは十分ではないかもしれません、

また、オフラインのイベントの最後に行われることが多い懇親会や懇談会といった、軽い飲み物や食事を伴う交流会というのは、今のところおそらくオンラインではなかなか果たし得ない機能ではないかと思います。もちろん、オンラインでも1対1のやりとりというのはできますが、オフラインの時のように偶然に疎遠だった人と顔をあわせてそれで急に話が深まるであるとか、誰かと1対1で話をしていた時に別な誰かが通りかかって、その人が合流して3人で新たな関係ができるとか、そういったものについてはなかなか今のオンラインの仕組みの中では十分に生み出せないかもしれません。

そして、もしオンラインでそういった機能を備えるサービスが出てきたとしても、「同じ釜の飯を食う」という言葉があるように、人間が食事をしながら仲良くなり関係が深まるといったことを、オンラインでどのように実現していくかということは、まだまだ考える必要があると思います。

この「同じ釜の飯を食う」こと、食べ物を分け合うことによって関係が深まるということも、実は我々が長い歴史の中で習慣的に続けていることでしかなくて、実際にはオンラインでも同じようにできるのかもしれません。ただ、先に述べたように人間の体は飢餓の時代にあわせたものであり続けているのだとすれば、私達の意識の深いところにも食を分かち合うことの重要性が残り続けている可能性もあり、意識がそのように変わっていくには多少なりとも時間はかかるだろう、と思います。

とはいえ、全体としては、今回のコロナウイルスをきっかけに、今後オンラインで出来ることはオンラインでやり、オフラインはオフラインでしかできないことに集中していくように、世の中全体の仕組みが変わっていく可能性は十分にありますし、またこのコロナウイルス問題をプラスに転換していくために、私たちはそのような新しい方法、新しい人との出会い方や新しい情報の収集の仕方を学んでいく必要があるでしょう。

どうしてもネガティブな面だけに目がいきがちな今回のコロナウィルス問題ですが、私はこの問題によって、これまでなかなか普及してこなかったオンラインの取り組みが一気に加速しているという実感を持っています。例えば在宅勤務やテレワークの重要性について、日本では2011年の東日本大震災の直後から言われ続けてきたことですが、なかなかそれが実際に本格実施されるということはありませんでした。

また BCP という言葉も2011年以降非常に一般的になったかと思いますが、これについても実際に活用する機会は、幸か不幸かここしばらくなかったと思います。それが今回のコロナウイルスの問題で実際にそれを活かせた企業とそうでない企業というのが、はっきりしてきているのではないでしょうか。

また個人のレベルでもこうしたオンライン会議とか、面会をしない形での営業活動などを、うまく出来る人とそうでない人の差が、はっきりと目に見える形で出てきているように思います。とても厳しいことではありますが、オンラインであるだけに、その経緯や結果というものが記録に残っているというところが、この状況に対応出来ない人にとっては非常に辛い状況ではあります。私たちは、こういった状況でもきちんと仕事の成果を残せる、そういう働き方にアップデートをしていく必要があるということです。

これは単に、ここしばらくの「働き方改革」という名のもとに労働時間を抑制するということだけではなく、いかにしてオンラインで有効に短い時間の中でも必要な成果を出していくのかという、スピードアップし続けている現代社会おいて必要とされるスキルを身に付けるいいチャンスでもあるはずです。

オンラインとオフラインそれぞれの役割が何なのか、特にオフラインの役割で最後まで残るものが何なのか、というところについては引き続き考えていく必要があると思いますが、私たちはオンラインとオフラインそれぞれのメリット、そしてデメリットというのを改めてこの機会に考えながら、未来の働き方について、もっと言えば社会のあり方について、考えていく必要があるのではないかと思います 。

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