脱炭素という社会変革の意味をちゃんと理解しよう
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脱炭素という社会変革の意味をちゃんと理解しよう

菅政権の長期的な目玉政策として、2050年の脱炭素化が掲げられて以降、霞が関もてんやわんや。毎日のようにいろいろな委員会が開かれていますし、報道でも(観測記事も多いのでしょうが)様々なニュースが流れてきます。

そんな中、日経新聞の「複眼」というオピニオン欄でインタビュー記事を掲載させていただきました。字数の関係でどうしてもお話したことがすべて載る訳では無いので、若干補足の意味を込めて解説を書いてみたいと思います。

タイトルが「低炭素投資進まぬ恐れ」だったのは意外でしたが、でも大事なポイントでもあるので、もう少し言葉を足したいと思います。

低炭素化と脱炭素化(=ゼロにする、しかも30年後にゼロにする、ということ)は、やり方が大きく異なります。
例えば同じ火力発電でも、石炭火力から天然ガス火力に転換すれば大幅なCO2削減効果はあるものの、大規模な設備投資が必要ですから、30年後にゼロと言われればそこに投資する事業者は基本的にはいないでしょう。低炭素投資と脱炭素投資はやり方が異なることに留意しないと、インタビューでも申し上げたように、地道で着実な削減が進まない恐れがあります。

「ゼロ原理主義」に陥らずに、とは言え、ゼロを目指すというのは、多分一般の方が思う以上に複雑なバランスを要します。「冷静と情熱のあいだ」という小説がありましたが、「現実と理想のあいだ」をどう埋めていくか。

エネルギー転換を進めるには、既存の雇用をどうするかにも配慮しつつ、「移行プラン」を描く必要があります。そうした意味で、補足をしたいのが下記の部分。
「化石燃料の直接利用を減らしすべて電化していくと、地方のガソリンスタンド、ガス事業者などの雇用、サプライチェーンが維持できない。災害へのレジリエンスも低下しないか。」

温暖化対策を進めるには、電化と電源の低炭素化の同時進行がセオリーです。「地方の」ガソリンスタンドや、とありますが、すべての化石燃料に関わる雇用やサプライチェーンは徐々に先細りになり、2050年には基本的にはゼロにするということ。あと30年です。
雇用や経済、災害へのレジリエンス(この点はむしろ電化して分散型技術で供給する仕組みにしてしまった方が上がる場合もありますが)など多岐に目配りしながら、それでもそちらの方向に行くという方針が示された以上、やるしかない。
ただ、少なくともこの話は、再エネを増やす、といったような問題ではなく、現在の化石燃料に関わる雇用やサプライチェーンは維持されなくなるということを、政治は説明すべきです。

そうした事業に関連する方たちだけではありません。こうした社会転換が進むためには、CO2の排出にコストをかけて(炭素税など)、旧来型のエネルギーや技術を利用していることが高コストであるという状態を作らばなりません。それが政府が今後導入を検討するという炭素価格です(正確にはわが国にも既に炭素価格はあり、石炭石油税や温暖化対策税と言われる税やその他の税金、規制などもあるので、1tあたりのCO2で約4,000円のコストを負担しているとも言われます)。
これをさらに引き上げていくことになるでしょうから、我々の生活にも直結します。
特に影響が大きい、地方で公共交通機関が無くマイカーに依存する生活になっている方たち、北国で灯油系の暖房に頼っている方たちなどへの打撃を可能な限り緩和しつつ、ただ、そのスタイルを変えていかねばなりません。

インベンションが問題なのではない、というのはちょっと表現が過ぎるところがあり、インベンションは必要・必須ですが、あと30年で社会実装ということを考えると、いま既にある技術の弱みを克服し、利便性を向上させるという努力の重要性は大きいということを指摘した次第です。よく「日本の技術でリードする」というのですが、技術開発で先行しても、先行者利益がいつまでもあるものでもありません。技術の社会実装段階で、大量に安価に製品を作れなければ結局勝てません。例えば日本はオイルショック以降莫大な研究開発コストを費やして太陽光発電の技術開発を進めました。2000年代太陽光発電システムの世界シェアでトップを占めていたものの、あっという間に中国や台湾に抜かれ、今や見る影もありません。このあたりの反省をどう活かしていくかで、2050年に日本が食べていかれる国になるかどうかが決まってくるでしょう。2050年、日本は何で食べていく国になるんだろうなぁ・・。


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竹内 純子(国際環境経済研究所 理事・主席研究員)
温暖化・エネルギー政策の研究をしています。現実的な移行とサステナブルな未来を考えています。 国際環境経済研究所理事・主席研究員/筑波大学・関西大学客員教授/U3InnovationsLLC共同創業者・代表取締役。