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オフィスの「意味」が問われる時代へ。そしてはじまる都心離れ。

いま、世の中の最大の関心事が「新型コロナウイルスはいつ収束するの…?」または「外出自粛はいつになったら終わるの…?」であることに異論はないだろう。

それに付随して、「どうやって今の苦境を乗り切れば良いのか?」「感染リスクを最低限に抑えつつ収益を生んで経済的損失を減らすか?」という目先の課題に執心する必要に迫られている。

と同時に、やはり考えなくてはならないのが「新型コロナウイルスが収束した後の世の中はどうなるのか?」という点だ。

大別すると、

『アフターコロナは、ビフォアコロナとは全く違う世の中になる』勢と

『震災の時がそうだったように、コロナが落ち着いたらたちまちビフォアコロナと同じ状態になる』勢

に二分される。

確かに、震災のときも節電を目的に大手企業を中心に各社一斉に在宅勤務に移行した記憶がある。以下は2011年夏の記事だ。

ところが、その後在宅勤務が定着することはなく、あっという間に元通りになった。

理由はいくつかあるだろう。

一つは、期間が短く、在宅勤務を実践した企業が一部にとどまり限定的だったこと。

もう一つは、現在に比べて在宅勤務に適した環境が整備されていなかったこと。9年前はZoomもSlackもなかった。Chatworkは2011年3月にリリースされたばかりで今ほど普及していなかった。

今回はどうだろうか。

一点目の期間と対象についてだが、「対象」についてはかなり広範囲に渡っている。

大企業の若手有志団体のコミュニティ「ONE JAPAN」が大企業の若手中堅社員1400名を対象に実施した「働き方意識調査」によれば、9割もの社員が「在宅勤務・テレワーク・リモートワークを推奨された」という。

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一方、中小企業ではわずか26%の導入率にとどまるという調査結果もあるが、いずれにせよ多くの企業が在宅勤務を行っていることがわかる。

「時期」については何とも見通しが立てづらいのが正直なところだが、仮に超楽観的なシナリオで5~6月に緊急事態宣言が解除されたとしても、ワクチンが完成されるまではしばらく断続的に自宅勤務を余儀なくされる期間が続く可能性が高い。

この記事によれば、MERSの教訓を活かし、いち早く感染増加を抑え込むことにしているお隣韓国ですら、「生活の正常化に向けた今後2年間のガイドラインの草案を発表」しているそうだ。

裏を返せば、少なくとも向こう2年間は例えば冬が来てウイルスが活発になるシーズンになることによって、いつでも再び厳戒態勢が敷かれるリスクがある、ということだ。

これは韓国、日本に限らず世界中の国々に同じことが言える。

つまり、東日本大震災の時とは比べものにならないくらい、在宅勤務体制が長期化する可能性がある、ということだ。

加えて、2011年当時と比較して格段に在宅勤務がしやすい環境が整っている。ZoomやSlackといったオンラインコラボレーションツールは、この数ヶ月で一気に普及したし、SNSを中心に在宅勤務を快適に過ごすためのノウハウやコツはまたたく間にシェアされるようになった。

そうして僕らは気づいてしまった。

「在宅勤務でも、オフィスに出社しなくとも、十分仕事はできる」

という紛れもない事実に。

スマートフォンの便利さに気づいてしまった僕らが、もうスマートフォンがない生活に戻れないのと同様に、在宅勤務の快適さに気づいてしまった僕らは、「毎日満員電車に揺られてオフィスに出社する生活に戻れない。戻る必要がない。」と感じるようになっても何も不思議ではない。

事実、先にご紹介した「働き方意識調査」によれば、95%以上の社員が「在宅勤務・テレワーク・リモートワークが定着・一般化することをのぞむ」と回答している。

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そう考えると、

『アフターコロナは、ビフォアコロナとは全く違う世の中になる』

可能性は十二分にある。

僕らはもう気づいている。

これまでは「出社して仕事をするのがメインで、オンラインはあくまでサブ(補助)的な位置づけ」だったところが、

今では「オンラインで仕事をするのがメインで、出社して仕事をするのはあくまでサブ(補助)的な位置づけ」に見事に逆転してしまった。

契約書のハンコの押印などどうしても出社しないとできない仕事がある場合のみやむなく出社する、という風に。

もちろん、オンラインだけでは限界がある。顔を合わせ、膝を突き合わせて会話する方が、オンラインでの会話と比べてもはるかに情報量が多く、共感を得やすいし、アイデアが出しやすい。気がする。

中には、これを機にオフィスを手放し、フルリモートワーク体制に移行する意思決定をした会社もあるが、すべての会社が同じようにフルリモートワーク体制に移行するとは思わない(が、スタートアップを中心にこの流れが加速する可能性は十分にあると思っている)。

その結果、

・通常勤務は在宅勤務もしくはリモートワークで通勤レスに。
・チームビルディングを目的に、週に1~2回は出社して顔をあわせてミーティングをする

という、「ハレの日」(非日常)と「ケの日」(日常)で在宅勤務とオフィス出社を使い分けるハイブリッドスタイルが広まるかもしれない。

このハイブリッドスタイルは、社員にとって快適なだけではない。

例えば、出社日は週に1度にして、部署ごとに出社する曜日を分散させれば、単純計算してオフィスの規模を5分の1に縮小することが可能になる。

1000人規模の会社であれば、200人規模のオフィスで十分になる、ということだ。これによるコスト削減効果は計り知れない。

「週4自宅勤務/週1オフィス出社」は極端な例だが、「週1自宅勤務/週1オフィス出社」は十分有り得る話だ。

オフィスは最大の固定費の一つだ。固定費を大規模に削減できる、というのは経営的には非常に大きなインセンティブになる。

働き方改革の一環で、フリーアドレス制への移行が一時期流行ったのは、明らかにオフィスコスト削減効果が見込めるから、だった。

「週4自宅勤務/週1オフィス出社のハイブリッドスタイル」というのは、ビフォアコロナの常識すれば荒唐無稽で、ありえない話だっただろうが、「在宅勤務の快適さ」を知ってしまった今、「100%ありえないとはいいきれない」ところまでは来ているはずだ。

わざわざオフィスに出社してまでするべき仕事は何か?

オフィスでないとできない仕事は何か?

オフィスの存在意義が問われる時期が、遠からずやってくるに違いない。

「職住近接」から「職住一体」へ

在宅勤務が進む中、起こったもう一つの変化が「職住近接」から「職住一体」へのシフトだ。

これまでは、ワークライフバランスを成立させる上では、高い家賃を払ったり、多少狭い家だったとしても、片道30分以内で通えるような、職場の近くにすむべき、という「職住近接」の考え方が有力だった。

ところが、在宅勤務体制になると、職場と自宅との距離は一切の関係がなくなる。なぜなら、自宅=職場つまり「職住一体」だからだ。

そうなった瞬間に、一つのことに気づく。

「田舎や郊外なら、もっと安くて広い家がたくさんあるのに、なんでわざわざ高い賃料を払って、狭い家に住んでるんだ…?」

当然の疑問だろう。

既にこの疑問に気づいた人の中からは、都心に借りていた自宅を引き払い、実家に戻っている人も出てきている。

昨日、こんな記事を読んだ。兵庫県豊岡市の中貝市長のインタビュー記事だ。

「昨年は市内で約87万人の観光宿泊者があり、外国人宿泊者数も過去最高だったが、21日時点で城崎温泉の5月の宿泊予約は前年比で9割減少。休業する旅館が多い。進学・就職時期に売れるカバンも、百貨店休業などの影響で前年同期比6割減という状況だ。政府の緊急事態宣言が全国に広がったので、さらに厳しくなるだろう」

と、当面は厳しい状況が続く見通しを語りつつも。

「もっと『疎』な生き方が注目されるだろう。地方に有為な人材が広がり、多様性が光るようになる。ただ日本人はすぐ忘れるので、結局変わらないこともあり得る」

コロナが終息後は、都心や首都圏で暮らすような『密』な生き方ではなく、都心の喧騒から離れた『疎』な生き方が注目されるだろう、と語っている点は注目に値する。

「働き方」が変われば、自ずと「生き方」も変わる。

期せずして、コロナによって「地方で、生きる」という選択をする人が増える未来が、ありうるかもしれない。

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