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コロナ以前に回帰する欧米経済~取り残される日本~

米国は名実ともにコロナ以前の水準に回復
7月末、米国およびユーロ圏で4~6月期GDPが立て続けに公表されています。実質GDP成長率(%、前期比年率)に関し、米国は+6.5%、ユーロ圏は+8.0%と極めて高い伸び率を実現しました。米国に関しては市場予想の中心(同+8.4%)を下回ったものの、金額ベース(実質)では19兆3582億ドルと2019年10~12月期の19兆2023億ドルを突破しています。名目ベースでは既にそうした状態に至っていましたが、これで名実ともにコロナ以前の水準を回復した格好です:

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成長率の下振れは在庫取り崩しや純輸出のマイナス(≒内需が強く輸入が増加)になったことの結果であり、肝心要となる個人消費は前期の+11.4%という極めて高い伸びから+11.8%へとさらに加速しています。そもそも全体の成長率を見ても昨年10~12月期から「+4.5%→+6.3%→6.5%」と順当に加速しているので、過度に悲観する必要はないでしょう。FRBの正常化プロセスを阻害するような材料とは言えず、今は低下基調にある米金利も反転を念頭に置き、ドル高地合いが定着すると筆者は考えています。

ユーロ圏も年内にコロナ前の水準へ
片や、ユーロ圏も力強い動きを見せた。上述の通り、前期比年率+8.0%の成長率は米国よりも高いもので、3四半期ぶりのプラス成長復帰となります。4月以降、域内各国ではワクチン接種および行動規制の解除が順当に進み、恐らくは7~9月期も同様の軌道を辿ることになりそうです。需要項目別の動きは2次速報値(8月17日公表)を待つ必要がありますが、行動制限解除に伴ってサービス消費を中心として個人消費が伸びたことは想像に難くありません:

ちなみに最新のECBスタッフ見通し(6月改訂)およびIMF見通し(7月改訂)によれば2021年は+4.6%であり、それが現実になれば、今年末には2019年10~12月期の水準を回復することになります。米国もユーロ圏もGDPという象徴的な計数において名実ともにコロナ以前の水準を回復する2021年は1つの節目と言って差し支えないでしょう

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メリハリのある欧米経済
もちろん、欧米共にデルタ株(やこれに追随する各種変異株)の感染拡大がリスクであり、予断を許さない状況にあることは確かです。しかし、感染が落ち着いているタイミングを捉えて行動規制を解除し、その上で消費・投資意欲をふんだんに発露させるというメリハリの利いた実体経済状況はコロナ禍ではあるべき姿ではないでしょうか。いつ何時の変異種拡大の影響から行動規制を強いられるか分からない情勢であるからこそ、「成長できる時にする」というのが最も合理的な行動に思えます。

片や、日本の4~6月期GDPは8月16日まで発表されませんが、日本経済研究センターの「ESPフォーキャスト調査(7月分)」によれば前期比年率+0.19%の横ばいが予想されています。1~3月期も4~6月期も緊急事態宣言(もしくはまん延防止等重点措置)で内需が抑圧されているのだから、横ばいというのは腹落ちする結果である。

しかし、横ばい済むかどうかも怪しくなってきています。既報の通り、日本政府は8月2日から緊急事態宣言の対象に埼玉、千葉、神奈川、大阪の4府県を追加し、飲食店の酒類提供を一律停止とした上、北海道、石川、京都、兵庫、福岡の5道府県には宣言に準じる「まん延防止等重点措置」を適用しています。その後、対象地域はさらに増えました。

7月分のESPフォーキャスト調査の回答期間は「2021年6月28日~7月5日」であり、感染急増を受けた規制対象地域拡大は織り込んでいませんが、調査段階でも回答者37人中14人がマイナス成長を見込んでいたことを踏まえれば、4~6月期も日本だけがマイナス成長(2四半期連続なのでテクニカル・リセッション)に陥るという可能性は否めません。

欧米対比でみすぼらしいとしか言いようがない構図です。同調査では7~9月期は同+4.9%まで成長が戻ると予測されていますが、最低でも同期の3分の2が緊急事態宣言期間になることが確定である中、これも幅をもって見ておく必要があるでしょう。今の流動的な政策対応を見る限り、9月も緊急事態宣言期間になる可能性は否めません。

資産価格の見通しは「日本の弱さ」が自明の前提に
 繰り返しになりますが、海外事例を見ても分かるように、いくらワクチン接種を進めても感染それ自体を防ぐことはできません。しかし、重症者や死者を減らすことはできます。欧米はそれで行動制限を解除して経済を走らせる決断をしており、これが上半期の高い成長率に繋がったのは明らかです。日本も類似の方向性を目指す論調が見え始めていることは心強いですが、人口1400万人を擁する首都東京の医療体制が100人も満たない重症者で崩壊する(らしい)ので、欧米路線の踏襲は難しそうに見えます。医療体制の効率的な活用は1年前から叫ばれていることですが、何故か改善しないことが既定路線になっています。筆者はこの点に関する議論は明るくないので、他の諸賢の論考に任せたいと思います。

しかし、もう医療体制の拡充は無いのだとすれば、「日本だけコロナが終わらない」は絵空事ではないという覚悟は必要だと思います。それは既に成長率の現状と展望に表れています。かかる状況を認識した上、為替や株といった資産価格の見通しは「日本の弱さ」を自明の前提として策定すべき局面に入ってきたように思います。

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