李佳琦の封殺事件から3ヶ月。中国で切り抜き動画ECビジネスが流行しつつある
ライブ販売時代に突入した中国のEC市場の象徴ともいうべき不動のトップツーだった薇娅と李佳琦。ただその栄光は永遠には続きませんでした。薇娅が2021年の年末に脱税により全面的な露出禁止となりました。
そしてもう一人の李佳琦も“例の事件”が起きてから3ヶ月以上ライブ中止になっています。
このnoteを見ている中国ウォッチャーのみなさんはご存知かと思います。李佳琦が今年の6/3 にライブ配信を行っていたのですが、そのライブ配信が途中で突然放送が中止させられました。最初は技術問題だと主張しましたが、どう見てもライブ中にスタッフが持ってきたお菓子がタンクの形をしていて、6月4日の前日なので天安門事件を連想させるものだという声がほとんどです。
ただ本人の反応からみて全く意識していなかったようで、一つの説としては、スタッフが裏切ってはめられたとの意見も。その他にもこの衝撃的な事件には様々な憶測がありますが、事実としてはこの後、李佳琦は一度もライブをやっていないのです。
こんな事件が起き、2人が消えた後もみんなは相変わらずライブECを利用していますが、この2人ほど寡占できるスターセールス配信者は現れていません。ただその中で、ライブECに関するちょっとした変化が生まれてきてます。それがライブ中継映像の”切り抜き動画EC販売化”です。
ライブ中の商品についての説明や展示映像を切り出して、ライブが行われていない時に商品情報ページにアーカイブできるようなやり方です。最初はタオバオでたびたび見かける程度だったんですが、李佳琦のライブがなくなって以降、彼の過去のライブ動画のダイジェストを切り抜きでたくさん見かけるようになりました。
日本でもYouTubeではひろゆきさん中心に切り抜き動画で溢れてますが、こっちのは再生数広告収入目当てな単純な動画の切り抜きではない、ECサービスと連動した切り抜きだということ。動画にはECへのリンク誘導が入っていて商品購入サービスにユーザーを誘導するのです。
特集されていた記事によると、タオバオとTmallが李佳琦のライブを全面的に封殺してから抖音(tiktokの中国国内サービス)では、少なくとも30個以上のアカウントが「李佳琦おすすめ」「李佳琦ライブセレクト」などをキーワードにして李佳琦のライブ切り抜き動画をアップロードしています。
↑フォロワー数が数千から数万までとけっこう異なりますが、共通しているのはみんな販売ルートに直接アクセスさせているという点。また、関係者への取材では、「動画に出る中継主については、ある程度ファンがいればそこそこ売れる」とのこと。
李佳琦が封殺されてから、彼の運営社であるMCN「美One」による商業行為なのか、無断利用なのかはまだ判明していません。ただ、新しいEC販売ビジネスとして既にどんどん拡大されてきています。
あのライブ事件があった直前の今年の5月ころから、TiktokやKwaiで切り抜きEC専門のアカウントが現れはじめあっという間に量産されていきました。また、紹介画面では「中継主本人ではありませんが、オフィシャルライセンスはもらってます」と明記するアカウントも多数あります。
ご察しの通り、最初は無断がほとんどでしたが、告発されて削除されてもまたすぐ新しいIDで登録すればいい話になりますので、新しいビジネスモデルとして提携すると選ぶ会社が増えました。オフィシャル認定された方はアカウント側もコミッションがもらえるし、中継主側も販売自体はより多くの人に見られるからむしろWinWinとなっています。
そしてここまでのところ、切り抜き動画販売で最も成功したのは「疯狂小杨哥」という人物(アカウント)。
↑既にMCN会社を設立してこの”切り抜き動画EC”ビジネスを展開し、コミッション収入だけでも月1600万元(3億円以上)が入るとの情報もありました。ネット情報では、販売額が10万を突破できれば50%のコミッションが払われるとも言われています。
これに対して中国ネット民の意見はさまざま。新しいビジネスとして、評価できないという声もありました。「このような形は既に物販ビジネスじゃなくなり、ファンビジネスになっちゃうからだ」という意見も。
また、限られたコンテンツ源からのものなので、どうしてもコンテンツの同質化が回避できず、同じ商品を宣伝するモノもすでに多数。今後ますますディストピア化が進んでいく予想です。
それに、李佳琦や薇娅がなぜみんなから支持を集めスーパースター配信者だったかというと、彼らの値段交渉力がすごかったから。彼らがライブした商品は定価よりも遥かにディスカウントされた値段で買えたのですが、切り抜きの動画ではその交渉力が発揮されないので価格に敏感なライブEC消費者は魅力を感じない可能性が高い。切り抜き動画EC販売はライブECの新たな発明で成長していくかはまだしばらく注視する必要がありますね。
(参考資料)