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ひろしまをつなげる30人の挑戦 〜 観光のオープンイノベーションをめざして

2021年の夏、広島県観光連盟(HIT)主催で「ひろしまをつなげる30人」が始まった。目的は、観光を観光産業だけで考えるのではなく、行政・企業・NPOの幅広いプレイヤーが、広島の未来につながるイノベーションに幅広く取り組むことで、結果として多様なプレイヤーが観光に関わり、長期的には広島の観光産業のイノベーションにつながることである。


コロナ後の観光産業

日本の観光産業は、例えば訪日観光客を年間3000万人、4000万人など、数値目標で語られることが多い。次の記事は、このコロナ禍を経て、今でも30年には6000万人をめざすと鼻息が荒い。

一方、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて、観光が与える影響はとても大きい。海外旅行をすればCO2の排出は増えるし、オーバーツーリズムと呼ばれる観光客の集中する地域では、地域の生活や文化、自然環境を脅かすことになる。訪日客の数値目標は、例えば島に数千人規模のフェリー寄港を誘致することを推進しているようだが、一方で、島の暮らしや自然環境へのネガティブな影響が懸念される。

奄美・沖縄の世界自然遺産の登録で、環境保全と観光振興の両立がふたたび大きな議論を呼んでいる。「持続可能な観光」をめざすのであれば、まず地域の幅広いプレイヤーが連携し、環境保全のための仕組みづくりと人材育成に取り組む必要がある。

次の記事は、「政府は今後、やみくもに訪日者数の増加を目指すのではなく、消費への効果などを見極めた緻密な誘致活動へと方針を転換すべき」と、コロナ後の「脱・薄利多売」型の観光の準備の必要性を指摘する。

観光のオープンイノベーション

観光は、産業革命により大量に生まれた中流階級の人たちのレジャーとして、急速に広まった。稼いだお金を使って、観光地で「消費」をするのが観光となったのである。そして、観光地は観光客に「お金を落とす」ことを期待してきた。その結果、観光地の自然や文化を切り崩しながら、観光産業は発展してきたのだ。それがいま、曲がり角を迎えている。

観光を「産業」として捉えている限りは、「観光客数を増やす」か「観光客の単価を上げる」という商売の手段から抜け出せない。このままの発想では、観光は「消費社会の権化」であり「持続可能な社会のお荷物」になってしまう。いま、観光を私たちの「持続可能な社会をつくる解決策」にするためのオープンイノベーションが求められているのだ。

オープンイノベーションとは、開かれた場において、多様なプレイヤーが協働して新たな価値を生み出すことである。観光を切り口にすることのメリットは、外からの目線で「街のブランド」を再定義することができることだ。そして、新たに定義された「街のブランド」は共通アジェンダにしやすく、直接的な観光産業のプレイヤーにとどまらず、シビックプライドを持つ多様なプレイヤーが協働するオープンイノベーションの場をつくりやすくなるのだ。

つまり、旧来の閉じた観光産業のタコツボを脱して、観光を「外部目線で再定義した街のありたい姿」に皆で向かっていくプラットフォームと捉えなおすことである。それによって、地域に関わるさまざまな企業が協力しあって長期的な「街のブランド」を実現するためのSDGs活動を進める機会を生み出すことができるのだ。

次の記事は、中国地方の企業の「SDGsへの取り組み意向」を調査したものだ。40%の企業が、SDGsに対して取り組みたいと考えている。このような40%の企業に対して、SDGs活動に取り組む機会を観光は提供することができるはずだ。

次の記事で、沖縄県の玉城デニー知事は、「登録を契機にSDGsを推進する上でも、多様な関係者が参加するプラットフォーム(基盤)をつくることは重要だ。SDGsは学術やエコツーリーズムなどテーマが広範で、間口を広げていくことが大事になる」と述べている。まさに、観光を「持続可能な社会をつくる解決策」として捉えているからこその発言である。

広島県の各地域を「食の街のブランド」に

「ひろしまをつなげる30人」で検討されているテーマの一つが、「食」である。広島は、豊かな海と豊かな山を身近に持つ食の宝庫であるが、お好み焼きともみじ饅頭のイメージがあまりに強く、「食の街のブランド」としての伸び代を30人のメンバーが感じている。

ピュアにSDGsから食に取り組もうとすると、「食品ロスをなくす」、「地域の農業や漁業を守る」など、良いテーマなのだがどこから取り組めば良いかわかりにくいものだ。そこに「観光」という切り口を持つと、「食のブランドづくり」や「食の街としてのブランドづくり」など、発想が広がりやすくなる

例えば、もし和牛の街というブランディングをしようとするならば、「牛が排出するCO2をオフセットした高級牛肉」を売り出すのもいい考えだろう。さらに、地元の焼肉やステーキのお店で、店員さんがそのメカニズムの意味をきちんと説明できるようにしたり、ついでに使い捨てプラスチックを一切使わないお店づくりをしてみてもいい。もう一歩進めるならば、地域の牛肉関連産業のサプライチェーン全体で、地球環境やアニマルウェルフェアの改善に取り組むことも、可能なはずだ。その結果、この街に訪れた観光客は、「和牛を食べるなら、この街を選ぶのがSDGsの推進につながる」と思うに違いない。

ひろしまをつなげる30人では、県内の地域ごとに異なる「食の街」としてプロデュースしていくアプローチも議論されている。それぞれの地域ユニークな食のコンテンツを発見し、その食にまつわる社会問題を解決するSDGs活動に企業が取り組む。その食のコンテンツと、持続可能にする取り組みを全体で「食の街」としてブランディングしていく、という流れだ。その結果、観光の成果が上がれば、自ずとSDGsの取り組みが進むようになる。

こうして、「食のイノベーション」に多様なプレイヤーが乗ってくることができるようになる。そして、街のブランドをつくっていく活動が、観光のコンテンツになっていく。「その活動をすればするほどSDGsが推進される」というメカニズムになるのだ。

美味しいものを食べにいくことで、「その街の経済を潤すだけの旅」と、「その街のSDGsも推進できる旅」があるとしたら、あなたはどちらを旅の目的地にしたいですか?

観光が「お金を落としてもらう装置」から「SDGs推進のプラットフォーム」に変わるためには、需要側の観光客の意識と行動が変わること、それが何より大事なのではないだろうか。

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