カンヌ広告祭の「ポリアモリーセミナー」で語られたこと。
フランスのカンヌでは、映画祭が終わると広告祭がはじまる。
正式な名称はCannes Lions International Festival of Creativity(カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル)。
ざっくり言えば、世界中から出品された広告やマーケティング、ブランディング、SGDsなどの事例から「世界一のアイデア」を決める場だ。
先日、僕も5年ぶりに参加してきた。
広告祭のメインは授賞式とセミナー。参加者たちは世界中の事例を研究しつつ、Apple、Google、LEGO、BURGER KINGなど世界有数の広告主やクリエーターが主催するセミナーに参加し自己研鑽に励む。
今日はその中で僕が参加したセミナーの1つを紹介しよう。セミナーのタイトルはThe Joy of Polyamorous Creativity.
そう、僕が兼ねてからテーマにしているポリアモリーをテーマにしたセミナーだ。
ポリアモリーとはお互い合意の上で複数の人と同時に恋人的な関係を築く恋愛スタイル。対義語はモノアモリー。過去のシリーズはこちら。
■クリエイティブなチームをつくるための9つのルール
開始時間に会場に向かうと、まさかの超満員。わずか30分のセミナーに立ち見も出るほどの賑わいだった。
登壇者は、ポリアモリーに詳しい(実践する?)クリエーター3人。
Is creative team monogamy dead?
(クリエーティブチームにおいて、モノガミーの価値観はもう古い?)
を導入とし、うまくいっているポリアモリーから着想を得たクリエイティブなチームをつくるための9つのルールを紹介した。
今日はその9つすべてを私見を踏まえながら紹介する。日本語はセミナーを聞いた僕の意訳で、そのまま訳しているわけではない。
あたかも英語ができるような書きっぷりだが、僕はまったくできない。同じポリアモリー仲間で、自らを言語オタクとも称するけっけさんに翻訳を手伝ってもらった。
ちなみにそれぞれの紹介動画がとてもユニークだったので、それも合わせてお楽しみいただきたい。
1. Everyone must be into it.
全員が関係者であるという認識を持つこと。
1つ目はこれ。要するに「部外者、仲間外れをつくらない」ということ。ポリアモリーの前提は「合意」で、ポリアモリーであることを隠されている人がいてはならない。クリエイティブなチームもまた、これは○○さんだけ知らないということが合ってはならない、ということだ。
2. Respect all members of the relationship.
関係者全員の意志・意向を尊重すること。
2つ目は(と言うかすべてが)1つ目と連動するが、関係者全員が平等で尊重されるべきという内容。ポリアモリーもハーレムのようにボス猿がいるわけではなく、皆の意見が尊重されるべきコミュニティーをベースとしている。
3.Make space for someone new.
新しい人が関係性に加わった場合は、その人の居場所をつくってあげよう。
3つ目は「新メンバー」について。ポリアモリーでも仕事でも新メンバーが加入することはある。その時は排除しようなんてせず「その人の居場所」をつくるように周囲が働きかけるべきだ、という内容だった。
4. Communicate openly.
常にオープンなコミュニケーションを心がけること。
4つ目はコミュニケーションについて。ここで言うオープンとは、例えば全ての予定を開示しろというよりは「嘘をつかない」に近い意味だと思う。相手が「聞きたい」「知りたい」と思った時には変な嘘をつくことなく、正直に答えるのがポリアモリーの基本だ。
5. Expect it to be hard.
それが困難な道であることを、しっかりと認識すること。
5つ目はドキっとさせられる内容だ。ポリアモリーには典型的なモデルケースなどない。それは正解のない課題に挑むクリエーティブチームと同じだ。だからこそ喜びも、難しさもある。それを全て受け入れる覚悟で臨むべきだ。簡単にうまくいく、なんてことはない。
6. If it doesn't work as two it won't be work as ten.
まずは1対1の信頼関係をつくること。
1対1もできずに複数との関係など到底つくれない。
6つ目はベースとなる関係性について。複数人の恋愛関係となるポリアモリーと言えど、あくまでベースは1対1だ。1対1でしっかり向き合わないと、チームでそれを保つことなどできない。
7. Don't keep score.
関係性を数字で捉えないこと。
7つ目もまた興味深い。ポリアモリーを実践していると「何人いるの?」、「月に何回会うの?」など数字を聞かれることが多い。
しかし、そもそも愛情は数字で計れるものではない。クリエーティブもまた3回話し合えば良いアイデアが出る、なんてものはない。関係性において数字の概念は一旦捨てた方がいい。
8. Remain flexible.
常に柔軟な姿勢を保つこと。
8つ目は「柔軟性」。状況もメンバーもコロコロ変わる。自分の考え方も相手の考え方もコロコロ変わる。それを受け入れる姿勢がないと、ポリアモリーもクリエーティブチームもうまくいかない。
9. Don't be jealous.
他者に嫉妬心を抱かないこと。
最後は永遠のテーマとも言える「嫉妬」について。ポリアモリーもクリエーティブも自分の嫉妬心とどう付き合っていくかは大きな問題だ。ただ両者とも他者と比較して良いことはあまりない。自分たちだけの関係性、自分たちだけのアイデアに辿り着くには、周りより自分と向き合うことが大切だ。
以上9つがポリアモリーとクリエーティブチームの共通点。当たり前のようで改めて気づかされることが多い内容だった。
これをきっかけに、日本の同業者の中でもポリアモリーについて語る人が1人でも増えればと思う。