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地方都市は外国人受け入れの基本方針をどう設計すべきか?

人手不足と外国人受け入れ

労働人口の減少からくる人手不足は深刻だ。特に、地方部における中小企業や農水産現場の人手不足はまったなしの状態に陥っている。「人手不足倒産」という、仕事はあるが、従業員不足から業務遂行が困難になる事例も珍しいものではなくなってきた。
人口減少からくる人手不足は採用活動をいくら頑張っても解消しない。そもそもない袖は振れないためだ。そこで、業務の担い手として外国人の受け入れをしていきたいという自治体は増えている。日経新聞の記事にもあるように、人手不足による外国人の受け入れに肯定的な反応を示す首長は6割以上に上る。

「人手不足だから」と外国人受け入れをしてよいのか?

人手不足の対策として外国人を受け入れてきたのは、欧州や米国では古くからとられてきた施策だ。特に、地続きの大陸では国を超えた労働者の移動にコストがそれほどかからないことから頻繁に行われてきた。その結果として、労働力の充足はできたが、同時に社会的に望ましくない課題も数多く噴出している。つまり、人手が欲しいからと頭数をそろえることばかり意識していると、社会的に問題が起きることがわかっている。
また、企業経営の目線からも安易に外国人を受け入れるべきではない。そもそも、企業活動において多国籍状況というのは高度なマネジメントの知識と技術が求められる状況だ。多国籍なビジネス環境で、雇用する企業と先輩従業員となる日本人、新しく入ってくる外国人、サービスを享受する顧客といったビジネスに関わる人びとが win-win の関係性を構築することは非常に難しい。
うがった言い方をすると、正直、オペレーションをこなすだけであるならば、そこまで高度なマネジメントはいらない。徹底したマニュアルを作成し、働く外国人労働者の個人の事情は脇に置いて、黙々と言われた仕事に従事させればよい。ただ、そのような外国人労働者のマネジメント方法は、国際社会では「現代の奴隷制」と呼ばれ、蔑まれるものだ。

「戦略的」であるためにバックキャスティングを覚えよう

それでは地方自治体はどうすべきかというと、地元住民と外国人が同じコミュニティの一員として共生していくためのビジョンとロードマップを描くことだ。ビジョンとロードマップということは、それは「ビジョン」を達成するために、解決すべき問題と達成すべき成果指標を設定し、具体的な実行施策まで一気通貫して整合しているということだ。このように、ビジョンから計画、施策と上流から下流までが整合している状態を「戦略的」という。
何か新しいことを行うときに、多くの組織がビジョンとロードマップを設定する。しかし、ほとんどの組織が打ち出すビジョンとロードマップに対して、経営戦略論の研究者などの専門家からの評価は芳しくない。私が大学院時代に講義を受けた戦略論の教授陣の多くが、「日本企業に戦略なし」と嘆いていた。
だが、翻って企業や自治体に赴くと、自信満々に「私たちのところには、ビジョンとロードマップ、戦略がしっかりと作られています」と胸を張って言われる。自己評価は高いのに、専門家からの評価が低いという状況は悩ましいものだ。

これは、作られたビジョンとロードマップに対して、現場レベルの施策や運用が整合していないことからくることが多い。例えば、「学生に起業家精神を啓蒙したい」と言っているのに選抜方式のビジネスプランコンテストをやっているのは、目的とやってることが一致していない。
受賞した一部の学生の起業家精神は啓蒙できるだろうが、落選した9割の心を挫いている。実は、ビジネスプランコンテストをやればやるほど、多くの学生にとって「あれは一部の意識高い系のためのものだ」と冷えた目でみられる逆効果が起きている可能性だってあるのだ。
実際にコンテストの審査員をしていると、ピッチイベントに落選した学生が最終プレゼン大会に見学者として来ることはほとんどない。主催者は「本気なら落選した時に審査通過した学生はどんなものか気になってみにくるはずだ」という自分たちに都合の良い学生像を想像してしまうバイアスにかられる。実際に落選した学生に話を聞くと「落とされたものなんて二度とみたくない」という答えが返ってくる。
加えて、ビジョンとロードマップがそもそも上手く設計できていないこともある。とある自治体の首長とパネルディスカッションをしたときに「ビジョンはなにか?」と聞いたところ、「新幹線を通すことです」と言われた。それは政治家個人の夢としては問題ないのだが、自治体のビジョンにはなり得ない。「新幹線を通すこと」はビジョンを達成するための手段であって、目的となるビジョンではない。
このことは外国人受け入れにも同じことが言える。つまり、外国人受け入れによって、どのような街作りをしたいのかというビジョンを描き、そのビジョンを達成するためのロードマップと、具体的な施策を逆算しながら考える必要がある。このような思考を「バック・キャスティング」という。論理的思考能力のテクニックの1つだ。
テクニックということは、訓練次第で身につくものだが、訓練しないとできないものでもある。ボール投げをしたことがない人が野球選手のような球筋で投げることができないことと似ている。そして、残念ながら、学校教育で「バック・キャスティング」という論理的思考力を学ぶ機会はほとんどない。
学校教育で教わるのは、現状からの積み上げで今後どうなるかを予測する「フォアキャスティング」という論理的思考力のテクニックが主であるためだ。「フォアキャスティング」と「バック・キャスティング」は、現在からの積み上げか、未来からの逆算かという点で方向性がまったく正反対のものだ。そのため、互換性があまりない。

外国人受け入れの話に戻ろう。
人手不足のために外国人受け入れをしようというストーリーには、それによってどのような将来を創り上げたいのかというビジョンが存在しない。それでは、スタート地点がないので「バック・キャスティング」ができないし、戦略的に実行施策を作ることができない。
外国人受け入れを本気で行うのであれば、各自治体と外国人受け入れ企業は、ビジョンから戦略的に実行施策を考える「バック・キャスティング」を身につけることが肝要だ。それは、地元住民と外国人住民の win-win な共生関係を構築するために大切なことだ。

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