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涙もろくなった中年は、今日も美術展を目指す

涙もろくなった。

確かにそうだと思ったのは、つい最近のことかもしれない。これまではどうってことなかったできごとに、いちいち目をうるませる。再開した海外出張中の機内で見ていたPerfumeのドキュメンタリービデオ。ひたむきに頑張る姿に号泣してしまう。通りかかったCAさんの怪訝な表情が痛い。慌てて手元の毛布で顔を覆う。Netflixで世界デビューを果たした「はじめてのおつかい」なども、かなりくるものがある。

40歳も半ばとなり、確かに若い頃とは違うのだという現実に直面する機会も増えた。幸い健康ではあるものの、朝起きたときの腰のこわばり。小走りしたときの足のもつれ。体は正直とはよく言ったもので、認めざるをえない。

年をとって涙もろくなったというのは、要するに脳機能の衰えということらしい。

「年をとって涙もろくなったことで、感受性が豊かになったと思うのは大きな勘違い」。高齢化社会について研究する東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターの村田裕之特任教授は指摘する。

「涙もろい」も「キレやすい」も、感情抑制が利かないということでは同じ。実は、脳の機能の衰えが原因という。

日経電子版

科学は事実を容赦なく突きつけてくる。そうですか。

脳は衰えど、感受性は保ちたい。昔から美術展やアートは好きで、週末に出かけることも多い。知識や経験が増えたせいだろうか。同じものをみても違った印象を持ったり、新たな発見があったりする。アートも情報も生み出された瞬間からそれ自身が変化することはない。変化しているのは、受け手である自分自身なのだ。

この週末は東京都美術館で開催中の「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」 を鑑賞してきた。実に30年ぶりのシーレ展。前回東京では渋谷のBunkamuraで行われたようで、今回一緒に行った人がそのときの様子を教えてくれた。

エゴン・シーレ《吹き荒れる風の中の秋の木》
筆者撮影(撮影OKポイントにて)

その前の週は、東京国立近代美術館に「大竹伸朗展」を見に行った。これも16年ぶりの大回顧展ということで、充実のラインナップ。前回、東京都現代美術館で開催された「全景 1955-2006」は広大な美術館すべてを使い切る圧巻の展示。いまでも克明に記憶しているが、今回はインスタレーションや音の展示をうまく組み合わせた素晴らしい企画だった。

筆者撮影

自分にとってのアートとは、自身にない新しい視点を提供してくれるものであり、また自身の変化に気づく羅針盤でもある。その意味で、常設展示や直島のようなアートサイトは大変貴重である。

長引くコロナ禍の影響を受け、大量動員で収益をあげていた特別展は厳しい状況にあるという。また、物価高の影響がここにもきており、海外からの輸送費はもちろん、美術品のコンディションを保つために必須の空調に必要な電気代の高騰も課題だ。

「ボストン美術館展 芸術×力」は、2020年春のコロナ感染拡大による延期を経て、22年7月に東京都美術館(同・台東)で開幕にこぎ着けた。しかしコロナ前に1600円と発表していたチケット代は2000円に値上げせざるを得なかった。国立新美術館(同・港)で開催された「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」は2100円。18年に同館が会場となったルーヴル美術館、オルセー美術館の所蔵品展がいずれも1600円だったのに比べると、3割高い。

チケット代値上げの理由の一つが輸送費の高騰だ。「コロナ前に比べて3倍に跳ね上がった」。来年、欧州の主要美術館のコレクションによる展覧会を準備中の主催者は頭を抱える。海外美術展の航空輸送費は、規模にもよるが一般的に数千万円程度。ところが運送会社から提示された見積もりは、およそ1億7千万円にのぼったという。

日経電子版

ときに、産業資本と社会文化資本は対立構造となる。しかし、多くの人々に門戸を開き続ける努力を続け、多様な視点に触れる機会をつくり続けることが、特に不確定な今の世の中には大切なのではないかと思う。

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※ タイトル画像は筆者撮影


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