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「ジョブ型」感覚をコミュニティ活動で私たちが磨くべき理由

 Potage代表 コミュニティ・アクセラレーターの河原あずです。コミュニティの専門家ですが、個をいかして価値創造するコミュニティづくりのノウハウを生かして、企業の人材育成や組織開発のお手伝いもしています。

 さて、富士通や日立製作所がジョブ型の人事制度の導入を発表し、ヤフー、ライオンなどの大企業が複業のスペシャリスト人材を雇用するとリリースを出したのを皮切りに「ジョブ型雇用」というキーワードが広まりつつあります。新しい働き方像として注目している方も多いのではないでしょうか。

 ただ、このキーワードに飛びつく前に、ビジネスパーソンのみなさんに試して頂きたいことがあります。それは、地域コミュニティ、ボランティア、NPO、子どもの野球チームの運営でもなんでもいいのですが「自分が関わりたいと思う"コミュニティ活動"を通じてジョブ型の感覚を磨く」ことです。

 なぜかというと、ジョブ型雇用の本質は「特定領域でリソースを借りたいチームと、専門の知見を提供したい個人のマッチング」にあるからです。そして実はこのマッチングの図式は、ジョブ型雇用というキーワードがあふれる前から、日本にも存在しています。その1つが私が専門にしている「コミュニティ活動」なのです。

コミュニティ活動がもたらす2つの「ジョブ型感覚」

 コミュニティ活動では以下の2つの感覚が磨かれます。そのいずれも、急激な環境変化が起きるであろう今後のビジネスパーソンの働き方選択において、とても役立つのです。順番に解説していきます。

①仕事ありきのコミットメント関係のつくりかた

 コミュニティ活動は、基本的に報酬が発生せず(もしくは少額の謝礼で)「このコミュニティに自分はこういう価値を提供できる」という感覚を前提に参画するものです。仕事でのプロジェクトマネジメントの経験を活かしてボランティアチームをまとめる人もいますし、ITの知識を活かして地域の活動のブログやSNSを運営する人もいるでしょう。これらのかかわり方では、自然と「仕事ありきのコミットメント関係」が成立しています。

 ポイントは、コミュニティ活動においては「時間単位のコミットメント」が基本的には求めらず「業務単位のコミットメント」が求められる点にあります。自分の隙間の時間を上手につかって、自分で計画を立てながら仕事をマネジメントし、コミュニティ活動に貢献することが必要なのです。

 これは、勤務時間単位の拘束を前提に契約が成立する、従来型の「時間管理型」日本企業では磨かれない感覚です。極端な話ですが、仮にいきなり明日から会社がジョブ型の雇用体系に切り替わったとしても、コミュニティ活動に慣れて免疫をつけておけば「ああ、〇〇コミュニティでの活動を応用すればいいんだな」と自分の中で合点がいきやすくなるでしょう。

②自分で優先度をつけて「かかわるべきチーム」を選ぶ

 もう一つ大事な点は、コミュニティ活動においては「活動に向かうモチベーション」が、より求められることです。報酬ありきではないコミュニティ活動は、自分がコミットするチームへの共感や、貢献したいという情熱、愛情がより強く求められます。平たく言うと「この人たちにかかわりたい!」「この人たちと一緒に○○を形にしたい!」という強い気持ちがないと、続かないのです。

 結果、限られた時間を有効に使うために、自分の中で優先度を決めて、コミットする活動を選ぶ感覚が培われます。

 この「優先度を決めてコミットする先を選ぶ」という発想は本来、コミュニティ活動に限った話ではありません。私たちは、自分の時間という限られたリソースを投資して、企業に雇われたり、自分で事業を立ち上げたりしています。貴重な時間を割いている以上、よりかかわりたい活動に目を向けて、優先してコミットするのは、当然のことではないでしょうか。

 長きにわたる終身雇用制は「採用されてからいろいろ我慢していると昇進や退職金により将来リターンが返ってくる」モデルで設計されてきました。「自分でかかわる先を決める」という自由と引き換えにです。もちろん、明確にリターンが約束されてあれば悪い選択肢ではないですし、実際、高度経済成長期の日本企業はこのリターンを約束することで、雇用側と被雇用側の間に共存関係を築いてきました。

 しかし、不確実性が年々高まる今、このリターンを約束できる企業はほとんどありません。

 そのような時代においては、自分の「こういったチームや活動にかかわりたい!」という気持ちをベースに自分の時間の使い方を決めたほうがよっぽど合理的です。いきなり今いる会社を飛び出すのもとても勇気のいることですし、万人に勧められることではないですが、コミュニティ活動の時間を使って「自分で居場所を選ぶ」という感覚を磨いておけば、いざキャリアチェンジのチャンスが来たときに、自分の価値がより活きそうな環境に飛び込むための免疫力も身についてきます。

 ※日本を代表する大企業トヨタ自動車ですらも、終身雇用を守るのが難しいと表明するのが現状。コロナ禍においてこの傾向は加速しています。

 ※この記事にもあるように、仕事で培った自身のスキルや経験を活かしたコミュニティの活動は私が書いた他にも、本業へのいいフィードバックをもたらします。特に、自身の時間の使い方に関して「投資先を選ぶ」という感覚を持つことは、生き方全体に大きなリターンをもたらすでしょう。

「ジョブ型」か「時間管理型」を選べる感覚を身につけよう

 コミュニティ活動を通じてこれらの感覚を身につけておくと「ジョブ型」か従来の日本企業の「時間管理型」か、ビジネスパーソン自身が、より合う働き方を選べるようになります。

 大前提として、いきなり流行りのキーワードに飛びついて、自身の働く環境を変えることほど危険なことはありません。「ジョブ型」の働き方は、外資系企業やスタートアップは別として、日本の大企業サラリーマンの労働環境にはもともとなじみのない文化です。しかも実力主義がベースになるので、丸腰で飛び込むと、大きな傷を負う可能性もあります。

 そのような実力主義は合わない人は、時間管理を敷いている組織の中から、人間関係や会社との相性を基準に居心地のいい職場を「意図的に」選んで、報酬を得ていけばいいのです。時間管理型の働き方をしながら自分がどうしても実現したいことがあれば「課外時間」を使ったコミュニティ活動で実現するのも手です。

 しかし、いずれの働き方を選ぶにせよ、両方の働き方を理解しておかないと、いざ「さあ選びなさい」と突きつけられるような局面が来た時に、自身の判断を間違えてしまうことになりかねません。自分自身がより活きる働き方を理解した上で、より最適な選択肢をとる。そのために感覚をコミュニティ活動を通じて日々磨いて、その時に備えればいいのです。

ジョブ型雇用の大企業導入トレンドが招く分化

 「さあ選びなさい」という局面なんて本当に来るのか? と思われる方もいらっしゃるかもしれません。日本社会は保守的で、変わることはないという意見も見られます。これはこれで一理あります。

 ただ、私見ではありますが、今後、日本人の働き方は、「ジョブ型」と「時間管理型」の2つのスタイルで激しく分化していくのではないかと考えています。

 一部の大企業が「ジョブ型」に移行を進めていることは、ジョブ型雇用の広がりを間違いなく予見しています。一方で、すべての企業がジョブ型に移行していくかというと、それはとても難しいでしょう。

 法制度などの問題も大きいですが、最も大きい要因は、ビジネスパーソンや管理職、経営者の多数が「ジョブ型」のワークスタイルに感じる「居心地の悪さ」です。

 ちょっと話をずらして「ジョブ型」の働き方は実際どのようなものなのかを具体的に説明するために、私のアメリカでの体験談をお話します

 私は2013年から2016年の間、ジョブ型雇用大国であるアメリカのサンフランシスコで日系企業の現地法人に出向し、現地の働き方を目の当たりにしてきました。サンフランシスコ市内に住むアメリカ人の同僚は、渋滞の激しい朝夕のラッシュを避けるため、車で渋滞時間になると90分かかるシリコンバレーのオフィスには週2~3回程度しか顔を出していませんでした。出社する際も、渋滞時間帯を避けるため、10時半くらいに出社し、やはり渋滞を避けつつ15時くらいにはオフィスを出ていました。日系企業でしたが、誰も咎める人はいません。なぜなら、アメリカ人の働き方としては当たり前のことだからです。(ちなみにオフィスに遅くまで残るスタッフの大半は日本人スタッフでした)

 では、彼が仕事をしていなかったかというとそうではありません。出勤しない際は、自宅や、近所のカフェ、コワーキングスペースなどで仕事をし、むしろ日本人スタッフより仕事への反応は早かったのです。子供の送迎が済んで、食事が終わった後も、自宅で夜遅くまで仕事をしています。

 もちろんタイムカードは存在しません。現地採用のスタッフは「Job Description」と呼ばれる職務内容記述書を元に給料が決定され、会社と契約しており、記述された仕事の内容をこなしさえすれば、基本的に働き方は、個々人の裁量に任せられるのです。

 私もアメリカで実際体験してみてわかりましたが、ジョブ型の働き方にははっきりと「向き」「不向き」があります。端的に言うなら、仕事に対して自分なりの強い目的意識があり、裁量を求める人には向いているし、与えられた仕事を与えられた範囲で淡々とこなしていたい人には向いていません。

 おそらく、ジョブ型に移行する大企業の中でも「居心地の悪さ」ゆえに、社内でそれなりの反発や反動が起きることは容易に想像できます。ハマる人間はますます活躍し、ハマらない人間は不遇な目にあうか、時間管理を維持する会社に移っていくことも想定できます。ジョブ管理のやり方を知らない管理職も戸惑いますし、かつて流行した目標評価制度やフレックス制度が一部の会社で形骸化しているように、現場裁量という名目で事実上の時間管理を維持する抵抗勢力も社内で出るかもしれません。

 一部の大企業がジョブ型雇用を推し進め、ジョブ型人材の雇用数を増やしていくことで、このような分化はますます激しく進んでいきます。ジョブ型組織にはジョブ型人材がどんどん集まり、時間管理を望む人たちははじかれていくでしょう。

 そのような大混乱が想定できる中、大事なのは、自分自身が自分の適性をしっかりと知り、状況の変化に対して柔軟に対応していくことです。具体的には、大きく周辺環境が動きそうなタイミングまでに、ジョブ型の働き方についても実体験ベースで知見を蓄えておき「このやり方は合いそうだ」「ここは従来の働き方がやりやすそうだ」という判断軸を持っておけばいいのです。そうすれば、判断を大きく間違える可能性は、だいぶ減るでしょう。

コミュニティ活動を通じてジョブ型の働き方への免疫をつけよう

 もう1つ「分化が進む」と書いた根拠を示します。「ジョブ型雇用」についての議論が再び沸き起こり、一部企業が導入を急いだ背景には、この数年の「働き方改革」というキーワードに象徴される地ならしと、新型コロナウイルスによるトドメが影響しています。この数年に起きたことを冷静に観察してみれば、少なくとも、働き方を見直す動きは、加速することはあれ、巻き戻ることはないとみるのが自然でしょう。

 特に2ヶ月にわたる非常事態宣言下のStay Homeの日々は、多くのビジネスパーソンに、仕事への価値観の問い直しを迫りました。会社にいってタイムカードを切っていれば仕事をしたことになっていたのが、目に見える仕事を形にしないと、成果として認められない状況に陥ったからです。

 一方で、多くの日本のビジネスパーソンが「在宅勤務で生産性は落ちた」と回答しています。海外の各国との比較グラフが上の記事には出ていますが、日本は「生産性ダウン」と答えた割合がダントツトップです。さまざまな理由が考えられますが、最も大きい理由の一つが日本独特の「時間管理文化」にあると考えてます。

 ジョブ型雇用大国のアメリカでは、記事によれば11%しか「在宅勤務で生産性は上がらない」と回答しませんでした。実際、このような働き方に慣れていればコロナ禍においても、近所のカフェが使えなくなるくらいで、仕事の進め方に大きな変化はありません。会社とコミットした仕事を形にするための行動を自分で考え、自分で決めることができます。そのような人間にとっては、リモートワーク環境は「あって当たり前の環境」なのです。

 一方で非常事態宣言中に周囲の会社員のみなさんをみると、非常に窮屈な仕事を強いられている方もいらっしゃったようです。在宅勤務なのに勤務時間内は厳密に管理され、日報などの報告も義務付けられ、自由に休憩をとることも(建前上)はできない。自由裁量が与えられて然るべき環境であるにも関わらず、オフィスと同じ働き方を強いられているのです。これではパフォーマンスも上がりようがありません。

 日本で今起きているのは、このような「ジョブ型がよりはまりやすい環境への変化の中、時間管理をやめようとしない」ことによる生産性の低下です。このような状況が長く続けば続くほど、この矛盾を解消し、より生産性を上げるために、ジョブ型への移行を検討する会社は増えてくるでしょう。

 今後、コロナ禍の動向がどのように進展するかは誰にも予想がつきません。管理がしやすいからと再びオフィスに社員を戻している大企業も多いですが、政府から経済界への要請も起きている中、果たしてそのようなスタイルはいつまで継続できるでしょうか。

 社会情勢の急激な変化がますます見込まれる中、好むと好まざるとにかかわらず、ビジネスパーソンの1人1人が不確実性の高い時代に適応していく必要があります。コミュニティ活動を通じてジョブ型の働き方への免疫をつけ、この急速な分化に対して自衛していくことは、手近にできる対応策として、とても有効ではないかと考えています。

 もちろん自分が取り組みたいテーマがある方は「自分でコミュニティをつくる」という選択肢もあります。ジョブ型の働き方のみならず、プロジェクトマネジメントや経営の感覚も身に付きます。ハードルは高いかもしれませんが、このような変革期だからこそ、新しい挑戦をしてみるのも、プラスになるでしょう。様々な方法で、自分に合った働き方を見直してみてはいかがでしょうか。

※こちら共著書です。コミュニティ活動の教科書としてぜひ活用下さい!

#COMEMO #ジョブ型雇用で変わることは

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