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ジョブ型雇用は社内起業を活性化させるか

なぜ社内起業制度が設けられるのかと考えると、自社の中から新たな事業が生まれることが期待のひとつとしてあげられるのかもしれない。

日本の伝統ある企業の多くが、現在のビジネスモデルの将来に何らかの問題があると認識し、新たな事業構造に転換しなければいけないと経営陣が考えていることが背景にあるのだろう。

一方で、昨今言われている人事制度のあるべき変化は「ジョブ型雇用」とよく言われるようになった。具体的なジョブ型雇用の中身については色々な捉え方があるかと思うが、一般的には外資系のようにいわゆるジョブディスクリプション(職務記述書)を明確化して、会社が求めるスキルや能力を明示したうえで、それにふさわしい人材を募集・採用し、そこに定められた仕事の内容を社員にしてもらうという考え方といえるだろう。

これまで、多くの日本企業は特定のジョブディスクリプションをもとに採用するのではなく、主に新卒一括採用によって、総合職と一般職といった区別はあったかもしれないが、求めるスキルや能力を特定せずに募集・採用し、社内で研修や OJT を繰り返しながら求める人材に育ててきた。

別な言い方をすれば、企業が特定の仕事をしてもらうために、それにあった人を採用するということではないから、必ずしもその会社の中で活かせない余剰な能力、「遊び」の部分を持った社員がたくさんいたのが、これまでの日本企業のあり方だったのではないか。

これが、ジョブ型雇用が進むことによってこうした「遊び」の部分が社内の人材から失われていく可能性はあるのかも知れない。もちろん、人間はそんなに単純なものではないので「遊び」の部分が実際には減ることはないと思う。しかし、雇われる側の意識として自分に求められるものがジョブディスクリプションにあるスキルや能力と特定されて雇われると、それ以外のものを会社の中で発揮する必要はない、あるいは出してはいけないものだと考えるなら、社内で実質的に活用できる「遊び」は、これまでの、いわゆるメンバーシップ型の人事スタイルよりは減ってしまうかもしれない。

社内起業制度が、既存事業にはないものを生み出すことを目指すものなら、社員の「遊び」の中から生まれてくることが期待できるのではないだろうか。そうなると「ジョブ型雇用」が進んで社内に「遊び」が少なくなった状態で社内起業制度を創設することが、制度の活性化あるいは有効活用につながるのだろうかということが懸念材料にはなる。

一方で、新卒一括採用が当たり前であった今のミドルからシニア層の社員が会社に入った頃と比べれば、今はスタートアップなど起業家の存在も社会で広く見られるようになり、起業家を支える仕組みもある程度整い始めていることから、少なくても学生から若手の社会人の層には、起業を是とし当たり前と考える雰囲気が生まれてきているように思う。

こうした中で就職した社員は、仮にジョブ型の採用をされたりあるいはジョブ型の働き方の志向を持っていたとしても、起業に対する考え方は上の世代に比べればはるかに積極的で、身近なのではないかという期待もある。

このように社内起業の観点では、世の中全体の流れにプラスとマイナスの両面があるが、果たしてどちらが強く作用するのだろう。

「遊び」が多かったはずのメンバーシップ型人材採用の時代にも、社内起業に関する取り組みはなかったわけではないはずだが、そこからどんどん社内起業による新規事業が生まれていたかといえば、そうともいえないだろう。もしそうであれば、今になって改めて社内起業を取りざたするまでもなく、根付いているものになっていたはずだ。

社内起業を制度化する企業の側からすれば、採用のジョブ型雇用導入とは相反するようだが、社員にジョブ型雇用で求めたジョブディスクリプションには収まりきれない「遊び」の部分をいかに引き出せるのか、そのような社内の制度づくりや、「遊び」の部分を認めて評価する雰囲気作りが成果の大小に繋がるように思う。

#日経COMEMO #社内起業家になってやりたいこと

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