「WHY YOU?」に答えよ!~社内起業家が大事にしたい3つのこと~
Potage代表取締役コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。新規事業をつくるために、駐在員としてサンフランシスコにいたこともあります。
というわけで今回は「社内起業家」をテーマに書きたいと思います。私は2013年に新規事業創出のミッションを背負ってサンフランシスコにいって以降「会社がそれまでに形にしていないふわっとしたお題を形にして突破する役割」を課されることが多く、新規事業をつくりやすくするための環境づくりや、つながりづくり、それに付随するブランディングやPR施策などなどを7年ほど行ってきました。その結果、イベント事業部署で新しい企業ソリューションのビジネスを立ち上げて、事業過去最高利益と会社(関連会社含む)のブランディングにそこそこ貢献して今に至ります。
この7年で「社内起業家」と呼ばれる方の数はどんどん増えてきましたが、自分が見てきた中でも、うまくいって様々な価値を形にできている社内起業家もいれば、そうでない社内起業家もたくさんいました。それぞれ頑張ってはいると思うのですが、けっこう前者と後者は歴然とした差がある気がしています。(身も蓋もなく厳しい表現をあえてすれば「形にできない社内起業家」はもはや「ただの会社員」なのですが……)
今回のお題をCOMEMOで頂いて改めて「うまくいく社内起業家とそうでない社内起業家は何が違うのだろう?」考えてみたところ、少なくとも自分が尊敬できる社内起業家のみなさんには、3つの共通点があるように見えます。以下、その共通点を示しながら、社内起業家に求められる資質やマインドセットについて考えていきます。最後までぜひお読みくださいませ。
社内起業家が大事にしたいこと①「会社を利用する」のその次を言語化しよう
大企業で新規事業をやっていたり、スタートアップ界隈や社内起業家界隈と交流していると、様々なイベントに顔を出すことになります。そこで、決して少なくない登壇者や参加者が口にしていたのが「会社を利用する」という言葉でした。
さて、私が尊敬する、様々な社内起業家のみなさんは、この「会社を利用する」という言葉を軽々しく使わず、しっかりとその底にある意味を言語化できています。
一方で、私がイベントなどで、この「会社を利用する」という言葉に出会う際に、少なくない違和感を感じることも正直ありました。一部の方のその言葉には「会社を踏み台にしている」というニュアンスを、どこか感じていたためです。
もちろん、本当に「踏み台にすればいい」という意図で「利用する」と言っている方は少ないと思います。しかし、だとすれば、違和感を与えてしまった方は、ちょっと言葉足らずだったかもしれないし、私以外の方にもそのような印象を与えているとすれば、それはすごくもったいないことだと思うのです。
自身の経験から、社内で新規事業をつくる上で大事なのは「自身が会社と共に描くビジョンを実現するために、会社の持つヒト・モノ・カネのリソースを利用して、まだ見ぬ新しい価値を創出する」という意識を、愚直なまでにピュアに持ち続けることだと私は思っています。
私が新規事業をやっていた頃は、自身の活動が会社にどのようなプラスの影響を与えるかを考えてから施策化していました。特に駐在員時代は、会社は少なくない金額を私に投資していたわけで、その投資に見合うようなリターンを出さなくてはと、日々試行錯誤していました。
そのためには、自分のやりたいことや、思いついたことだけをやっていても意味を成しません。利害関係者のことを把握しながら、あるいは会社のマクロな状況も把握しながら、どのようにふるまうことが求められるのかを意識し、会社のメリットもしっかり言語化しながら、様々な施策を実践する必要があるのです。
一方で「会社を利用する」という言葉は、使い方によっては、企業内で新規事業をやること自体が目的化しているようなニュアンスが響きとして残ることがあります。これがちゃんと、言葉の裏に隠れた「自身が会社と共に描くビジョンを実現するために、会社の持つヒト・モノ・カネのリソースを利用して、まだ見ぬ新しい価値を創出する」という文脈がきちんと意識され「新規事業はあくまで事業成長の手段。利用する、というのは、会社を踏み台にするということではなく、会社の持っているリソースを的確に運用していくことだ」と周りにも適切に説得力ある形で伝わっているといいのですが、きちんと伝わらないと、ちゃんと理解できていない相手から「会社の金を使って好き勝手やっているなー」という誤解を受けても、しょうがない部分は正直あると思うのです。
それはきっと誤解なわけですが、誤解されるのは本当にもったいないことですし、誤解される言葉を使い続けたままだと、後進の人たちにも誤解を与えたまま広がっていき、結果、本当の意味で会社を利活用できる社内起業家もなかなか育っていかない気がしています。そういうわけで、社内起業家には「会社を利用する」という言葉で片さないように、もっと社内起業の持つ本質を、丁寧に言語化していく必要性を私は感じています。
社内起業家が大事にしたいこと②「なぜあなたがやるのか?」の問いに的確に答えよう
社内起業家が自身の持っている意図や目的、ビジョンを言語化する上で大事なのは「WHY YOU?」という問い、すなわち「なぜあなたがその事業をやっているのですか?」という問いかけに、真摯に的確に答えていくことだと思っています。
私が尊敬する社内起業家の皆様は「なぜ自分がこの事業をやっているのか」を、いつも的確な言葉で表現し、周りを上手に巻き込んでいます。
この大事さを私自身が思い知ったのが、私が新規事業創出のミッションを背負ってサンフランシスコに駐在していた3年間でした。現地の人は「WHAT DO YOU DO?(あなたはどんな仕事をしているのか?)」という質問を初対面の相手にほぼ必ずします。そこで「I do Business Development」などと答えるわけですが、それだけでは終わってくれません。どんな領域で、どのような規模のビジネスをやろうとしていて、その会社と一緒にやるメリットはどんなことで……などと、興味を持たれたらどんどん深掘りされます。そして、時にこのように聞かれるのです。「WHY YOU?」
この「WHY YOU?」には様々な意味が含まれます。あなたの持っている専門性はなんなのか?なぜ新しいビジネスを立ち上げたいのか?なぜサンフランシスコに来ることになったのか?そして必ずといっていいほど問われるのが、どんなモチベーションで、どんな価値観を大事にしながら仕事をしているかです。
世界中から革新的なビジネスをつくりたくて集まってきている起業家たちに慣れているサンフランシスコでは「配属されたから」とか「会社からつくれと言われたから」とかいう半端な言葉は通用しませんし、まして「勉強しにきたんだ」などいう事業をつくる当事者とは思えない発言は口が裂けても口にできません。
相手は、その人が実際に新しい事業をつくれるかどうかの実現可能性を測るために、経験や専門技術、何よりも、その人が秘めているモチベーションを引き出そうとしていますし、きちんと具体的にその問いに答えていく必要があるのです。
(この問いに真摯に答えられないと、結果、事業創出を志す人たちのコミュニティの中に入れてもらえなくなります。しかし多くの日本人駐在員が、このような問いに対して平気で「新規事業の"リサーチ"のためだ」と発言し、現地の方のひんしゅくを買ったりすることが、少なくとも当時はありました)
この洗礼を浴び続けたので「なぜあなたはこのような活動をしているのか?」という問いに対して、かなり自分の言葉で説明できるようになって日本に帰国できました。
しかし、その後に様々なビジネスコンテストでメンターや審査員をやって気が付いたのは、少なくない新規事業プランに「なぜその人がやるのか?」という意図が見えないという事実でした。わざわざ「なぜこの事業をやるのですか?」と聞いても「会社はこういうリソースを持っていて、市場があるから」というニュアンスの答えが返ってくることが少なからずあったのです。
起業家と大企業の社内起業家は、立場、立ち位置が違います。しかし、この「なぜ自分がやるのか?」という問いかけに、自分の言葉で答えられることの重要性においては、起業家も社内起業家も大差がないと私は考えています。
現実には、政治力などを駆使して社内を根回し+説得する能力を高めて、それに慣れ切ってしまうあまりに、「なぜ?」という外部からの問いかけに、会社都合文脈でしか答えられず、外部の共感を呼べないという方は、それなりの人数いらっしゃるのではないかという印象を持っています。
しかし、大前提として、社内に存在しない価値をつくりだす新規事業は、1人ではつくれませんし、外部のプレイヤーを少なからず巻き込みながらつくりあげることがほとんどです。そこで大切なのは、一緒に仕事をしてほしい相手に強く共感してもらい「一緒にやりたい!」と思っていただくための能力なのです。
社内起業家が大事にしたいこと③「自分自身+会社=YOU」だという意識を持とう
もっとも、この「WHY YOU?」という問いに社内起業家が的確に答えるには、やや複雑な言語化が必要とされます。社内起業家においては、この「YOU」に「あなた自身」と「あなたの会社」という2つの存在が含まれるためです。
この「WHY YOU?」に社内起業家が答えるときは「自身がやりたいという強い動機を持つこと」と「会社(特に経営)もその事業をやることへの強い動機を持つこと」の両側面のバランスがとれている言葉で説明する必要があります。そして、尊敬する社内起業家の皆様は、本当にこのバランスに長けていることが多いのです。
これが自分自身のモチベーションを強調するあまり「自分がやりたいから」という印象を周りに与えると、趣味案件で会社を私物化していると、仮にその意図がなくても誤解されますし、自分の言葉を裏に隠しすぎて「会社がやるべきと思っているから」「会社にとって必要だからだ」などと表現すると、自分の意思がなく、上司から言われて仕方なく新規事業をやっているように、仮にそうでないとしても誤解されてしまいます。
自分で自分の会社をつくった起業家であれば「やりたいから」「面白そうだから」と「自分がこうしたいから」というニュアンスの一言で片づけることもできます。しかし社内起業家は、同僚、上司、役員、経営者、株主など様々な人たちに「会社がやる理由」を説明する責務を負うことになります。
そして同時に、自分がそれができることを経験やスキルなども含めてきちんと説明し、それをやる必要がある、自分にしかできないと熱意を示して説得していく必要があるのです。過去の経験上、これがいちばん骨の折れ、同時に、逃げてはいけないプロセスだったと、社内起業家だった頃を思い返して改めて感じます。
社内起業家が描きだすのは、未来の会社のあるべき姿です。この種を形にしていく社内起業家は、ある種、会社の未来を映す鏡のような存在です。その姿が軽薄だと、多くの人たちに、その会社の姿が軽薄に映ることになりますし、また逆に重すぎても、その会社は環境の変化においていかれるのではないかという違和感を与えることになります。
そして自分のことばかり語っていたら結局「自分の名前を売りたいのだな」と誤解されますし、会社のことばかり語っていても「ただの会社員だな」と誤解されるのです。
公私のバランス、なんていう表現もありますが、主語は自分でありながらも、その背中には公的な、会社の代表者だというイメージを背負っていくことが大事だと思いますし、そういう意識を持つことによって、社内起業家自身も成長していくのではないかと私は考えています。
というわけでいかがだったでしょうか。自身が新規事業をやる中では、そこそこ形になったこともあれど、基本的には失敗だらけでした。社内起業には無数の落とし穴があり(人事異動/社内政治/既存事業との対立/社内の連携がまったくとれてない/社内起業家が直上司から評価されなくて辞める/つぶしにくる人がいる/なぜか嫉妬をうけて障壁になる/やってみてもすぐにつぶされる/それっぽい人がそれっぽいカタカナを並べて終わる/誰かが連れてきた言うだけコンサルのキレイな資料に振り回される などなどなどなど)そこを回避しながら案件を形にしていくのは苦労ばかりでした。
そんな経験を活かしながら、社内新規事業創出の伴走支援などもやっていますので、もしご興味ある方はいつでも上のホームページからお問合せくださいませ。やってはいけないことや、落とし穴の回避方法、隙間を縫って新しい事例を産み出す方法は割と熟知しているつもりです。
というわけで結局大事なのは「新規事業」「社内起業家」というどこかキラキラした響きに惑わされずに、これらの無数の落とし穴に対して諦めずに泥臭く向き合えるかどうかなのですよね。ともあれ、大企業から新しい事業が生まれないと、本当に日本は変われないと思っています。未来を創るために、頑張っていきましょう!