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 変化の時代です。
 このコロナ禍によって、「変化に立ち向かうこと」こそ、組織にも、個人にも最も重要なテーマであることがますます明らかになりました。
 それでは、変化に立ち向かうためには、大改革が必要なのでしょうか。実はそんなことはないのです。人も組織も、ちょっとしたことで大きく変わるのです。一日たった1分で人も組織も変わるのです。
 
 日立は売上の大部分をBtoBの法人向け事業から得ています。この幅広い顧客や商材をカバーする様々な法人向けの営業部隊があります。その中には、金融、公共、産業、電力に関するシステムや機器、自動車部品から家電までの幅広い顧客や商材担当が含まれます。
 我々は、この中の26部署の法人営業部署で、従業員600人の行動データを取得し、それに基づき働き方に関するポジティブな示唆を、スマートフォンに日々自動で提示するアプリを開発し、これらの組織に適用しました。
 このポジティブな示唆というのは、「Aさんに話しかけましょう」「部下の相談をオープンに受けましょう」などです。それ自体はほんの小さなことです。おそらくこれに注意を向ける時間は1分程度でしょう。
 しかし、驚くべきことに、このちょっとしたことが心も行動も大きく変えたのです。

 数字を見てください。このスマホへの小さな示唆を見せるシステムを約4ヶ月続けたことで、この示唆をよく見ていたチームとそうでないチームでは、翌クォーターの受注達成率が27%もの差がついたのです。
 データをさらに分析すると、この小さな示唆により、従業員間の「信頼できる関係」の客観指標である「ハピネス関係度」が平均で54%も向上していたのです(標準偏差を100%としました)。

 すなわち、職場の信頼できる関係は、ちょっとした声かけを増やすことでつくれること、そして、それにより業績が大きく改善することが分かったのです。

 この信頼できる関係の重要さについては、経営学では「心理的安全性」と呼ばれて注目を集めています。特に、グーグル社での大規模な組織調査研究によって高パフォーマンスなチームに共通に見られる特徴として注目されるようになりました。
 「心理的安全性」とは、率直にアイデアやミスを言い出せる関係性が組織にどれだけあるかを指すものです。単純なことに聞こえますが、組織には、上下関係があり、常に評価される場であるため、悪い評価を避けるため、人はあえて言い出さずに「沈黙する」という選択をしがちになります。「沈黙する」ことの方がリスクがないと思ってしまうのです。この結果、組織には、必ず「心理的安全性」が低くなる構造を持っているのです。
 しかし、この「心理的安全性」が低いことは組織の病です。生産性を下げ、不具合や事故を起こし、そして従業員の心身の健康を脅かし、離職を起こす最も大きな原因なのです。さらに、この病は、周りに伝染し、拡大するので、企業が意識的にこれを向上させる取り組みを行わない限り、心理的安全性は低くなってしまうものなのです。
 我々は、この心理的安全性の度合いはが、行動の特徴に現れることを大量データから見出しました。我々は、多様な組織の客観的な行動データを、センサを使って過去14年に渡り大量に収集し、パフォーマンスや従業員のハピネスとの関係を解析してきました。
 この結果、「心理的安全性」の高い、即ち信頼できる関係のある組織には、従業員の行動に4つの普遍的特徴が表れることを大量のデータから発見しました。その中の一つが、

 5分ぐらいの短い会話の頻度が多い

ことです。ハピネス関係度の高い組織では、5分から10分程度の短い会話の頻度が多かったのです。
 これに対して、心理的安全性の低い組織では、このような短い会話が少ないのです。
 ここで大事なのは、週次の1時間の会議は、5分の会話の代わりにはならないことです。そして、5分の会話を毎日行った方が、1時間の会話を毎週行うより遙かに重要なのです。
 大事なのはタイミングです。短くて良いので、会話したいと思ったとき(例えば確認したいことや質問したいが生じた時に)、そのタイミングで気楽に聞ける関係が大事なのです。気楽に聞いても、悪い評価につながらないという相手や組織の風土に対する信頼があるかどうかがここで試されるのです。すなわち、この5分の短い会話がどれほどの頻度で行われているかは、組織の中に信頼できる関係があるかを示す大変重要なバロメータなのです。

 そしてなによりも、このような信頼できる関係のある、心理的安全性の高い職場は、幸福度が高く、生産性が高いことが分かったのです。

 この変化を生んだのは、たった1分スマートフォンのポジティブな示唆に注意を向けたからなのです。
 我々の心は、注意(アテンション)をどこに向けるかによって決まります。昨日、100個の経験をしたとして、99個のことがポジティブな経験だったとしても、1個のネガティブな経験にアテンションを向けたら、「昨日は最悪の日だった」という評価になります。よほど意識しないと、このたった一つのネガティブなことにアテンションを向ける悪い習慣がつきやすいのです。
 一日たった一回でよいので、ポジティブなことにアテンションを向けるだけで、見える世界は全く異なるものになります。この事例はこのポジティブなアテンションの威力を示しているのです。

日立ニュースリリース
https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2017/06/0626.html


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