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ビジネスパーソンになぜ美意識が必要なのか

© yamadayutaka

東京とミラノを拠点に活動するビジネスプランナーと、「美意識」をテーマにした話題の本の著者が、「ビジネスパーソンになぜ美意識が必要なのか」を考える……。東京・大手町ファーストスクエアのLIFORKで23日、COMEMOイベントが開かれました。場所柄かテーマのせいか、いつものCOMEMOイベントよりもネクタイ姿の男性の姿が目立ちます。

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登壇者の1人は、山口周さん(写真中央)。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)でビジネス書大賞2018準大賞を受賞されています。應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループを経て、組織開発・人材育成を専門とするコーン・フェリー・ヘイグループに。現在は同社のシニア・クライアント・パートナー。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成、キャリア開発です。

もう1人は、安西洋之さん(写真右)。東京とミラノを拠点に活動するビジネスプランナーさんです。ビジネスと文化の関係をビジネステーマとし、新しいコンセプトや考え方を作ることに注力されています。また長年、デザインマネジメントに関わられ、2017年、共著で『デザインの次に来るもの』(クロスメディアパブリッシング)を出すなど「意味のイノベーション」へのコミットを増やしています。COMEMOでは欧州文化とビジネスをテーマに連載中です。

進行は日本経済新聞の桜井陽(写真左)。

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美意識を失ったリトアニア人

ビジネスパーソンになぜ美意識が必要なのか。安西さんが発見したヒントはバルト3国のリトアニアにありました。旧ソ連の共和国だった時代に、美しさを自分で判断する自由を徹底的に奪われてしまったのです。ソ連崩壊後、晴れて独立を果たしたものの、自分たちの美意識を失い、文化的なアイデンティティーがなく、新しい社会を作るのに苦労しているリトアニア人の姿を目の当たりにしたといいます。リトアニアのこのエピソード、個人的には非常に心に残りました。

では、美意識はどうしたら得られるのか。安西さんは、「単純な話だが、まずは"好き嫌い"を表明することが大事だ」といいます。 「イタリアの自動車メーカーでは、社長がいても、新入社員が『これはぼくが好きなデザインだ』と言える。言える土壌があるのは非常に大きい」と安西さん。しかし、翻って日本はどうか。マーケットやユーザーに聞こうとする姿勢はいいが、データや数値を重視するあまり、自分を出発点として考えることを忘れてしまっているのではないか。日本のビジネスパーソンは美意識を失っているのではないかという問題意識です。リトアニアのように、1度失った美意識を取り戻すのは並大抵のことではないのです。

山口さんも、自分で好き嫌いが判断できるのが第一歩、との考えです。ドイツの作家・ヘルマン・ヘッセも「わがままは美徳だ」といっていたそうです。仕事の場でも、自分の好き嫌いをきちんとマーケットに出して、世の中から学習することが大事だといいます。とはいえ、でもビジネスにおいて”好き嫌い”を言うのは難しいもの。 しかし、好き嫌いを言わずに忖度をすれば、マーケットに対して自分が「美しい」と思うものをぶつけて、フィードバックを受け「学習する」という貴重な機会が失われてしまいます。

美意識とは何か? 常識、コモンセンス……

山口さんはまた、美意識は、審美眼とは別だといいます。「映画をみて、主人公にこれをやらせたいか?やらせたくないか?そこには美意識が働いている」。さらに、美意識=常識(コモンセンス)とも。ある局面において何をすべきか、すべきではないか。自分なりの判断基準として美意識があるといいます。

山口さんはさらに、狭い空間、短い時間軸でのいわゆる「常識」とコモンセンスは違う感覚だと説明します。コモンセンスとは、人間自然の本性に照らして正しいかどうか。「組織のなかの常識」は果たしてコモンセンスなのか。そこが、ずれてしまっていることが多いと指摘します。

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美意識を貫いた会社

一方、安西さんは再びビジネスの話に引き付けて、イタリアの高級ブランド、ブルネッロ・クチネッリを引き合いに出します。エルメスと同等ともいわれるブランド価値がたった20数年ぐらいでできたのはなぜか。理由の一つが、「西洋哲学で、長く支持されている言葉を使ったから」。景観のために他社の工場を買い取って壊してしまうなど、ブランドの美意識を貫いたことが消費者に評価され「いかにも勝てている雰囲気を醸し出している」

山口さんが取り上げた企業はグーグル。人工知能を武器に搭載する可能性があるプロジェクトには関わらない、という署名が現場から集まりました。短期的には期間損失となる可能性が大きい意思決定が、現場から出てきたところに注目しています。「哲学・倫理感をもってる会社は、長い目でみれば強い会社なのではないか?」

美意識で課題を提起

昔は世の中に、不安、不便、不満があふれ、それを解決することがビジネスにつながりました。現在はさまざな解決方法があって、もはや課題がないともいえる時代。そこで山口さんが注目するのが、「こうありたい姿」と現状のギャップ。こういうものが世の中にあるべきだ、と考えるのに必要になるのが、美意識であり、コモンセンス。そこから課題が提起され、プロジェクトが生まれるといいます。これからは「アジェンダシェイパー」が必要になる、との発言が印象に残りました。

https://comemo.io/entries/10419

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