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NYタイムズに選ばれた富山の可能性〜文化とグルメの街からウェルビーイングな循環都市へ
近くて遠い、富山県。東京からは、新幹線開通によって、かなり近く感じるようになりました。今は京都に住んでいるので、現在のところ、敦賀までサンダーバード、そこから新幹線に乗り換えで、結構時間がかかります。富山大学のCOI-nextで、富山の地域未来ビジョンを描くファシリテーションを担っていた関係で、富山、高岡に頻繁に行くようになりました。そんなさなか、ニューヨークタイムズが、富山を「行くべきところ」として選びました。富山の魅力と可能性を考えたいと思います。
2025年に行くべき52ヶ所
次の記事は、NYタイムズが富山の魅力を「混雑を回避しながら、文化的な感動とグルメを楽しめる」と評価したことを伝えています。
この発表を受けて、富山県の新田知事は記者会見で、「富山市の活況を県内全域に波及させるように努めていきたい」と述べたと、次の記事は伝えています。同時に、新田知事は「オーバーツーリズム(観光公害)の懸念」についても触れ、「生活に支障が出てくるようなことは、行政として防いでいかなければならない」と語ったと言います。そして「対応策として、客単価を上げて少ない人数でも経済効果を得られる『高付加価値化』を進めていくとした」と報じています。
移住者増加の可能性
ちょうど一年前、NYタイムズ記事で選ばれ、同じくてんやわんやになったのが、盛岡です。次の記事は、盛岡が「欧米からの旅行者に加え、記事を知った国内からの観光客も増えている。さらに、移住への問い合わせの増加という思わぬ効果も表れている」と報じています。
このことを踏まえると、富山はインバウンド観光に舵を切るよりも、海外からの注目を梃子に、国内の移住や関係人口づくりに注力することを考えてもいいかもしれません。
ウェルビーイング先進地域
そしてさらに、富山には良いニュースが続きます。
次の記事は、「富山県は17日、パーソルホールディングスが主催する『はたらくWell-being AWARDS(ウェルビーイングアワーズ) 2025』を受賞したと発表した。働くことを通して感じる幸せや達成感を指す『はたらくWell-being』を体現した人や組織の表彰で、地方自治体での受賞は富山県が初となる」と報じています。
続けて、「富山県は成長戦略のビジョンとして『幸せ人口1000万〜ウェルビーイング先進地域、富山〜』を掲げるほか、県独自の指標を政策形成に組み入れるなどして県民の幸福度の向上や関係人口創出に取り組む。県職員の行動指針にも取り入れ、やりがいや自己成長を感じながら働ける職場づくりも進めている」と述べています。
まずは富山県という行政組織がウェルビーイング経営をしているという評価が得られた形ですが、これが幸せ人口1000万人につながるならば、ほんとうに素晴らしいことです。でも、幸せかどうかは個人の認知なので、どれだけ行政が旗を振っても、一人ひとりが幸せになることを保証することは難しいですし、そもそも把握することすらできないことかもしれません。
そうすると、それぞれの地域の解像度をもっと上げて、町内会単位くらいで、この町の課題は何か、どういうことで幸せを感じるか、その居場所や共助の仕組みを作っていくための原資をどう準備するかなど、しっかりと考えていく必要があると思います。
アルミからはじまる循環経済型イノベーション都市
冒頭で、富山大学のCOI-nextの地域ビジョンづくりに関わっていると書きましたが、これが「リサイクルアルミ技術」の研究拠点になります。アルミは、ボーキサイトから精錬して輸入されてくるのですが、精錬のプロセスで大量にCO2を排出します。だからこそリサイクルが大事なのですが、強度によって他の物質と混ぜたりするため、リサイクルの際に純度を上げることが難しいという技術的課題があります。これを富山大学は克服しつつあります。
このブレークスルーを梃子に、少なくとも富山県内で使われたアルミは、クルマでもサッシでも、アルミフォイルでも、冷凍食品やスナック菓子の袋であろうが、薬のパッケージであろうが、すべてリサイクルアルミの原料として、つまり資源として循環させるライフスタイルに転換したいというのが、このCOI-nextのリーダーの想いです。
富山県にはアルミ関連産業がたくさんありますが、その一つの三協立山の業績発表が記事になっています。記事によると、「三協立山は9日、2025年5月期の連結最終損益が2億円の黒字(前期は10億円の赤字)になる見通しだと発表した。従来予想は15億円の黒字だった。国内は建設関連の資材高騰や人手不足で住宅市場が冷え込み、建材の販売が伸び悩む。景気が低迷する欧州で電気自動車(EV)向けアルミ型材の販売も振るわない」とあります。
つまり、富山県のアルミ産業の課題は、リサイクルアルミ率を高め、カーボンニュートラルを実現することに加え、自動車や建材だけではなく、持続可能な未来社会に向けた「安定的な高付加価値のリサイクルアルミ用途」を見つけることにもあると言えるでしょう。
消費者から循環者へ
話を市民のウエルビーイングに戻しましょう。
近い研究拠点として、鎌倉市と慶應大学のCOI-nextがあり、そこではプラスチック循環都市の実現をめざしています。そのため、鎌倉市民の「消費者から循環者へ」のシフトを支援しています。市民は自分たちが使った使い捨てプラスチックを捨てずに持ち寄り、それを集めて3Dプリンターでまちのベンチを作る、ということを始めています。まちなかにプラスチックベンチが増えることが良いことかはさておき、市民が「社会課題は自分たちの力で解決できる」という自信を持つことにつながっていることは確かです。そして、誇りを持って「自分たちは消費者ではない、循環者だ」と言っているのです。
アルミは、プラスチックほど日常的に廃棄するものではありませんが、よく見ると、それぞれは少量ですが、あらゆるところに使われています。
次の写真は、高岡市のどまんなか、御旅屋通りに置かれた、アルミ専用のリサイクルボックスです。右端のボックスはアルミ缶の回収ですが、面白いのが真ん中で、「アルミ箔回収ボックス」です。中をのぞいてみると、あらゆるレトルト系の食品の袋が入れられています。え、これもアルミ?というほど、多くの袋が入っていました。
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まちじゅうのアルミを回収しようと思うと、できない理由がどーっと押し寄せてきます。それがどのくらいのインパクトがあるの?というシニカルな声も耳に響いてきます。
だからこそ、インパクトや成果に目をむけるのではなく、「自分自身」に目を向けてみてはどうでしょうか。「私は、アルミを資源として富山で循環させる人です。ほんのちょっとでも廃棄したくないんです」というライフスタイルで生きられたらいいな、と思いました。自治体や大学は、そのライフスタイルへの想いを応援する。つまり、市民が循環者として生きていけるよう、そのための仕組みを作る役割なのではないでしょうか。
さぁ、私は何を循環させる人になれるだろうか。