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テック業界の重鎮に忍び寄る、権力者としての自覚を憂う
こんにちは、電脳コラムニストの村上です。
米トランプ氏が2回目となる大統領に就任するやいなや、矢継ぎ早に大統領令を連発するなどして改革を進めています。スピード感のあるリーダーシップ自体は良いことでしょう。しかし、十分な検討がなされない、もしくは限定的なバイアスのかかった情報に依存して拙速な意思決定がされていないかはよくよく監視する必要があるでしょう。
特に最近大きな議論を読んでいるのが、反DEIの動きです。行き過ぎた点を是正する方向での揺り戻しというのは当然あるでしょうが、リベラルな価値観を根こそぎ全部否定するような動きは恐怖すら覚えます。
気候変動問題に取り組むパリ協定からの離脱、海外開発援助を担う米国際開発局(USAID)の閉鎖、さらには紙ストローの廃止。就任1カ月余りの米トランプ大統領のやりたい放題ぶりが加速している。世界一の経済大国はトランプ色に染まり、民主党的なリベラルな価値観が根こそぎ否定されつつある。
女性や少数民族などに配慮するDEI(多様性、公正性、包摂性)への風当たりも強烈に激しい。1950年代の米国で猛威をふるった反共産主義運動、マッカーシズム(赤狩り)さえ想起させる。
トランプ氏は大統領就任演説で「米政府の公式方針として、性別には男性と女性の二つのみとする」と発言。大統領令でトランスジェンダー選手の女子競技への参加も禁止した。こうした流れに呼応し、採用や人事評価、昇進などの面でDEIへの配慮を停止、縮小する米企業が目立つ。
特に顕著なのは、比較的リベラルな考えが強いと思われてきたシリコンバレーのテック企業が、トランプ氏に呼応するように相次いて施策の見直しを表明したことです。
だが、ビジネス上のタクティクス(戦術)とばかりは言えない気配がある。10日、ザッカーバーグ氏はポッドキャスト番組でこんな発言をしている。「企業の世界が文化的に中性化、去勢されているように思う。(中略)攻撃性を称賛するような文化にはポジティブな独自の長所がある」
「女性的なエネルギー」も大事としつつ、企業は「男らしさ」は悪という考え方に偏りすぎていると話した。同氏は格闘技の愛好家としても知られ、「対戦する私を見た人は『あれこそ本当のマークだ』と思う」とも述べた。
Metaの前身であるFacebookの原点は、ザッカーバーグ氏が通うハーバード大学の女子学生の写真を勝手に流用した美人コンテストサイトFacemashです。当時であれば学生の悪ノリで済まされたものでしょうが、月間40億人あまりが利用するグループのトップである現在では通じません。そもそも、男らしさ・女らしさとは何でしょうか? 多様な文化が存在する現代社会において、単一文化的な考え方をベースにした意思決定は暴走リスクが高まります。
このような変化は、ファッションとしても現れているという指摘をしているのが以下の記事です。
テック業界の新たな「オリガルヒ(少数の支配者層)」は、トランプ政権時代の混乱のるつぼの中で鍛えられた末に、パタゴニアのベストやAllbirdsのスニーカーに象徴される“見せかけの謙虚さ”を超えた領域への移行を果たした。彼らがいかにも大物、強者、帝王らしい身なりをしているのは、心のなかで本当にそう思っているからだ。彼らの服装は単に財力をひけらかすものではない。「わたしは権力をもっている。この力を存分に行使するつもりだ」との宣言なのだ。
元々のテック業界のファウンダー達は、ファッションや流行には距離を置くのが「クール」と見なされる風潮がありました。これはテック業界のカリスマであるスティーブ・ジョブズ氏の影響が大きいでしょう。彼は旧来のステータスシンボルを嫌うことで知られ、黒いタートルネックにジーンズ、スニーカーという出で立ちを崩さずにいました。ザッカーバーグ氏も当時は同じグレーのTシャツを何枚も持ち、それを毎日着ていたことで有名です。その理由について「自分の暮らしに関するつまらないことにエネルギーを使うより、自分がすべき仕事(Facebook)に集中したいから」と語っていました。
いま、その彼の左腕には自身の富と権力と影響力を祝福するように、1億円をゆうに超える希少な腕時計が光り輝いています。SNSの帝王としての権力に自覚を深めるのはよいですが、その力を世の中がよくなる方向に使っていただきたいものです。
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タイトル画像提供:tarasdubov / PIXTA(ピクスタ)