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企業内スタートアップの罠とジレンマ② 〜事業ミッションと赤ちゃんへの期待〜

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こんにちは。uni'que代表若宮です。

前回の記事が割と好評で、温かい応援の声も頂けたので、引き続き企業内新規事業について書いていきたいと思います。

前回は、

・「企業内スタートアップ」といっても企業内新規と起業は明確に違う
・企業内新規は「他由」なのでミッションのすり合わせするのが大事

ということを述べました。

https://comemo.io/entries/10700

今回は、ミッションが違えばどのように事業が違うか、ということ、そして事業のミッションを定めるにあたり、僕がもっとも重要と考える「ならでは(unique)」という観点を導入して、次回のコアバリュー論につなげたいと思います。

様々な事業ミッション

前回、企業の新規事業には様々な目的があり、にもかかわらず、それらがないまぜのまま漠然と共通理解とされていると先々不幸になりますよ、という話をしました。

これは例えるなら、「よーいどん!」と言われてとりあえずスタートして走っていったら、実はゴールテープが5箇所くらい別々のとこにあったみたいなもので、進んでから「え???どこにゴールしたらいいの!!!???」ってなるので最初からちゃんとゴールを決めていかないといけない。

そして、新規事業が会社にとってどのような貢献をするか(=本連載では「事業ミッション」と呼びます)に応じて事業立ち上げのタイプもちがいます。

復習となりますが、新規事業のミッションには以下のようなものがあります。

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そしてこれらのミッションは同時に叶えられないことがあるばかりでなく、時に背反するのです。

イノベーションジョーク(そんなジャンルない)に下記のような小噺があります。

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部長「まだ世の中にない、見たこともないような革新的なサービスを頼むぞ」

担当「かしこまりました! 〇〇なんてどうでしょう、どこもやっていません!」

部長「おお、そうか! では会議にかけるから大成功する根拠を出してくれ」

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「世の中にないもの」に根拠を求める、それを皮肉ったジョークですが、これに似た企業内新規事業のありがちな罠に、

1) 「新規事業をつくれ」と言われ、

2) 0→1型の新規事業を始めたら、

3) 半年後くらいに「売上はいくらになった?」と聞かれ

4) 「なに?そんな規模か。それやってる意味あるのか?」と激詰めされる

というのがあります。これは本当にあるあるなので、企業内新規の経験者でしたらきっとブンブンと頷いていると思います。

赤ちゃんは2千万プレーヤーになるか?

前回「事業は生き物だ」という話をしました。この「事業の時間軸=事業フェーズ」というのもとても大事なのですが、また後の連載で書くとして、一つ喩え話をします。

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あるお金持ちのところに赤ちゃんが生まれました。父親は外資証券会社に努めるニューヨーカーでお金はうなるほどありました。そして息子にも自分と同じような成功者の金融マンになって欲しかった。彼は金の力にものを言わせ、ハーバードやウォートンのMBAで教鞭を取るスター教授を何人も個人教師として雇い、最先端の理論をみっちり一年間、英才教育しました。

さて、赤ちゃんは2千万プレーヤーになったでしょうか?

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↓↓↓ 正解はこちら ↓↓↓

「赤ちゃんは残念ながら2千万プレーヤーにはならず、1歳児になりました。」

何を当たり前の話を、と思われるかもしれません。ですがほとんど同じことが、企業内新規事業では起こると信じられています。

誤解のないように言っておきたいのですが、ここで言いたいのは「1年で2千万プレーヤーなんて無理」ということではありません。赤ちゃんが育つまで20年も待ってられない、というのは企業にとっては当たり前の要求ですし、実は1年後でも子供を2千万プレーヤーにすることは可能です。

どうするか?というと、今すでに証券会社で働く社員か、もしくはハーバードで主席を走っているような若者を養子に迎え、金にモノをいわせて促成栽培すればいいのです。この場合スター教授陣を呼べる財力はとても有益です。ですが、赤ちゃんにとっては全くブーストにならない。

事業に関して言えば、すでに市場が立ち上がっており、もう売上が立っている事業をコピーしたり、M&Aしたりして、自社のアセットでそれをブーストする、そういう戦い方であれば、1年後に2千万プレーヤーの子を持つことも可能です。

事業ミッションと事業のタイプ

ドコモにいた頃、モバイルヘルスケア事業の立ち上げをしていました。2011年頃「モバイルヘルスケア」はちょっとしたバズワードとなっていて、googleなど OSレイヤーの企業から携帯3キャリア、富士通やパナソニックといったメーカーまでが競ってこの領域を狙ったのです。ですが実際には、どの企業もその時大した売上を立てることはできませんでした。

もともと、ヘルスケア・メディカルの市場が10兆円以上の超巨大産業であり、IT化・モバイル化が進んでいないことからみんなそこを狙ったわけですが、実際にはニーズもまだなく、規制も多く、健保などプレーヤーにはお金はなく、市場としては0歳どころか妊娠すらしていない状態だったのです。

もし早期の「売上規模」が事業ミッションの場合だとこれは辛い。なんせドコモの売上は4.5兆円です。ここで認められる規模としては少なくとも500億ー1,000億の規模は出なければならない。「赤ちゃん」には荷が重すぎます。

では早期に規模が必要な場合、どういう新規事業がありえるでしょう?

ドコモの新規事業の例で言えば、たとえば「dマガジン」のような形でしょうか。電子書籍市場はすでに立ち上がっている。iモード時代から各出版社ともコンテンツを出している。「電子版雑誌」は決して革新的な驚きはありませんが、それをまとめてパッケージにして、ドコモショップで携帯と一緒におすすめする。すでに立ち上がっているものを自社アセットでブーストするわけです。

事業のミッションによって、適した事業立ち上げのタイプはいくつかあります。たとえば「先進性」をPRするのが大事であれば0→1型事業が向いていますが、赤ちゃんなのですぐ規模は出ません。逆に10→100型をアセットを使ってブーストできると、規模は出ますが先進性は少ない。あるいは急がず時間はいくらでも待つから、どこにもない事業をつくって将来市場を独占するのだ、という経営戦略もあるでしょう。

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この表は、新規としてどれが理想でどれがイマイチ、というようなものではありません。新規事業をする上でどれが一番大事な目的か?は企業によって違うからです。

企業に対して事業ミッション定義のお手伝いをすると、最初はみなさん「売上ですね」とおっしゃいます。じゃあ売上が出れば利益率が低くてもいいです?と聞くと、「いや、利益率が低いのが課題だから高利益率の事業が欲しい」となったりする。売上優先なら労働集約で勝てるようなレガシーな販売業でもいいですが、利益が優先なら1→10くらいの新しいニーズを捉えている事業が良い。

そしてさらに、じゃあ利益が出なかったら事業疂みます?と聞くと、「いや、利益が出なくてもアクティブユーザーが多ければコア事業にプラスになるからいい」と別の指標になったりする。もしそれが利益以上に大事なのだとしたら、事業ミッションは「アクティブなユーザーの獲得」です。

そこからさらに突っ込んで、そのユーザーはコア事業ユーザーと被ってる方がいいですか?被っていない方がいいですか?と問うこともできます。コア事業の「ユーザー拡大」が目的なら被らない方がいいですが、「リテンション強化」が目的なら被っている方がいい。そしてその場合KGI(Key Goal Indicator=目標指標)は「(コア事業ユーザーと重複する)アクティブユーザーの数」になる。売上でも利益でもなく。

一般論ではなく、その企業”ならでは”の KGIを

前回も書いたのですが、企業内新規事業で一番大事なのは「ほかでもないその企業の中で、新規を立ち上げる目的」です。「目的」とはGoalですから、その企業ならではのKGIを定義できる事業ミッションが据えられなければならないことになります。

最悪なのはKGIが全く定められていないケースです。(残念ながらこういうケースも少なくないのですが・・・)

そして次に悪いのが、KGIが定められていても、3つも4つも並存していて優先順位がついていないケース。

理想は、優先順位がしっかりして「第一指標」が選ばれ、しかもそれがuniqueな指標になっている、という状態です。

第一指標が「売上」や「利益」など、一般的でどこの企業でも最初に出てくるようなgeneralな指標になっている場合、実はまだまだ事業ミッションの明確化が不十分なことが多いです。なぜなら、たとえ売上が立っていても、先々「それ"うち"でやってる意味ある?」というのは起こるからです。反対に、その企業ならではの事情から出てくるuniqueなKGIを設定できていれば、それを達成している限り(その会社のアキレス腱である、特別な課題に刺さっているので)「うちでやってる意味ある?」とはなりません。

「なんか新規やって」というざっくりお題をもらう新規事業担当者は結構多いものです。完全にフリーハンドで「よろしく」と言われても、果たして無限にある事業領域やアイディアの中からどれを選んだものか・・・そんな風に頭を悩ましている新規担当者もいるでしょう。

そういう時、事業ミッションが明確ならだいぶふるい落とせます。そして、他社ならこの事業を選ばないかもしれないが、うちならやる意義がある、そういうものを選べれば、先々「やってる意味ある?」とならないだけでなく、「借り物」である人的リソースやアセットを使うときにも社内で納得してもらいやすくなり、ブーストとして使える武器になるのです。

さて、事業ミッションについて書いてきました。上に述べたような”ならでは”の事業ミッションが定まったら、次は、”ならでは”のコアバリューについて考える時です。

「なぜこの会社の中で新規事業をするのか?」の次の問い。それは、「なぜそれをほかでもない自分たちがやるのか?自分たちなら成功できるのか?」ということです。

起業家ならば必ず答えを持つべき、WHY ME?/WHY US?という問い。

その答えはuniqueなコアバリューに他ならないのですが、それはまた次回に。

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