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企業自身も副業の時代、従業員の副業から本業へナレッジ還流を

新型コロナウイルス(COVID-19)の影響を受けて、企業の事業に大きな影響が生じている。

本業であるビジネスの需要の大きな落ち込みに直面している業種、例えば航空業界や観光関連産業などがある一方で、マスクや人工呼吸器をはじめとする医療向けの各種機器や消耗品は需要増に生産が追いつかず、どこでも品薄が続いておりこういった製品へのニーズが世界的に大きくなっている。

こうした需給のアンマッチにこたえて、一部の企業が、本来その企業の本業ではない、いわば「副業」ともいえる商品作りを始めている。こうした動きは世界中で見られるようになっているが、身近なところでは日本のシャープがマスクを作り出したことが典型例と言えるだろう。これはシャープがもともと持っているクリーンルームとそのノウハウを衛生的で安全なマスクを作るために活用しているものだ。

このほかにも、ニュースになったものだけでも枚挙にいとまがない。


このような「企業自身による副業」とでも言うべき動きが見られる一方で、日本の企業は、まだまだ従業員に対する副業が十分に解禁されているとは言い難い。昨年12月のこの記事の調査によれば、まだ半数の日本企業は副業を禁止しているのだ

副業禁止は、終身雇用で長く安定的に勤められていた時代の名残であるということができるだろう。禁止する代わりに従業員に終身の安定した雇用を提供する約束を暗黙のうちにしてきたからこそ成り立っていたバランスである。それが、終身雇用をはじめとした(戦後)日本型雇用慣行の行き詰まりが兼ねて指摘されてきたところにもってきて、今のCOVID-19に起因する経済状況である。現状では多くの企業の業績に関して先行きが不透明であり、その従業員が十分な収入を本業の会社からだけで賄うことができるのかということに懸念が生じている。レナウンのように、直接にはCOVID-19が原因とは言い難いものの、COVID-19が引き金となって倒産する大企業も出始めた。

従業員の立場からは、休業や業績の低迷により不足する分の給与を副業で穴埋めをしていくことは今後現実的な選択肢になっていくだろう。それと同時に、その従業員が本業として属する組織の立場からは、生き残りのためのあらゆる方策を見つけていかなければならず、その大きな原動力となりうるのは従業員のナレッジやアイディアだろうし、それを活かす経営に舵を切る時ではないのだろうか。

シャープの例でいえば、仮に従業員の中にマスクに関して詳しい人やその業界に対する人脈のある人がいたとすれば、クリーンルームでのマスクの製造にも大きな貢献をすることになったのではないだろうか。実際にそういう人がいるのかもしれない。それが従業員の副業を通じて得た知見や人脈であるなら、従業員が収入を得ただけでなく、本業側の組織もそこから利益を得ることになる。

COVID-19の影響は長引く、という見通しが大勢を占めつつあり、そうであるなら、本業のあり方自体を見直さなければならない企業や業種も多くなりそうだ。そういう企業にとっては、いっそう従業員の副業による知見や人脈の活用によって、本業をどう立て直すかのアイディアを集めていくニーズが出てきているというべきだろう。

場合によっては、これまでの本業とは全く異なる事業を新しい本業にするというイノベーションすら生き残りのために必要であり、そのために従業員の幅広い経験や知見・人脈がキーになる可能性もあるのではないか。そういうケースでは、シャープの事例のような、COVID-19が本業自体に直接の影響を及ぼしているわけではない企業の「副業」以上に、こうしたニーズは切実である。

もちろん、副業は口で言うほど簡単に上手くいくものでもないし、過重労働になる危険性をふくめ、企業側が従業員を(安く)利用することになってはいけない。アメリカでもこの点については、議論があるようだが、当然のことと言えるだろう。


ともあれ、これからは会社の将来の事業をどのようにするかというアイディアについて、従業員の副業等の経験の中から可能性のあるものを提案してもらい、それを集約して検討する、というくらいの柔軟な経営姿勢が必要なのではないだろうか。また、そういうアイディアにたいして、副業で収入を得たんだから充分だろう、ではなく、本業側の会社もきちんと従業員の努力に報いることも重要なことだ。

やや遅きに失した感もなくはないが、副業解禁というレベルからもう一歩進んで、積極的な従業員の副業を会社の本業自体のイノベーションに活かすといった取り組みが求められる時期に来ていることを、多くの人が認識しだす時期ではないかと思う。

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