管理モデルを兼業・副業の許可要件とすることは兼業・副業の推進政策と整合するか
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管理モデルを兼業・副業の許可要件とすることは兼業・副業の推進政策と整合するか

明けましておめでとうございます。弁護士の堀田陽平です。

本年も働き方に関するテーマについて書いていきますので、お付き合いいただけると嬉しいです。

今年の一本目は兼業・副業のテーマについて書いていきます。

昨年は一年を通して、兼業・副業に関するセミナーや制度設計の相談などを受ける機会をいただきましたが、これまで様子見であった企業が多かったなかで、徐々に兼業・副業が原則自由であることや、以下の記事のように兼業・副業のメリットの認知が広まり、実際に制度構築に向けて動き出すフェーズに来ている企業が増えているような印象を受けます。

私は兼業・副業を推進の政策に携わってきたこともあり、「やりたい人が自由に兼業・副業をできる」という世の中になればよいと考えています。

他方で、昨年公開された「副業・兼業の促進に関するガイドラインQ&A」では、「副業・兼業の許可にあたり管理モデルを使用することを条件とすることは差し支えない」としています。
この点については、ややこれまで兼業・副業推進政策の観点、法的観点から問題があるように考えております。

「管理モデル」とは

さて、まず「管理モデル」とは何かという点について簡単に説明します。
管理モデルというのは、令和2年9月に改定された「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(以下「改定副業・兼業ガイドライン」)で示された簡便な労働時間の管理方法です。

改定副業・兼業ガイドラインでは、兼業・副業先での労働時間を通算することを前提としつつ、その労働時間の管理方法は自己申告のみによって把握・管理すればよいとしています。
さらに、それでも労働時間の把握・管理は大変だということで、より簡便な労働時間の管理方法として「管理モデル」という方法を示しました。

そして、副業・兼業の促進に関するガイドラインQ&Aでは、「副業・兼業を認めるに当たって、管理モデルによる副業・兼業を原則とすることは差し支えありません。」としています(Q1-21)。

管理モデルは自社だけで導入を決められない

管理モデルの導入について、厚労省からは次のような説明がなされています。

〇 副業・兼業を行う労働者に管理モデルにより副業・兼業を行うことを求め、労働者と労働者を通じて副業・兼業先がそれに応じることによって導入されることが想定されます。
〇 自社と副業・兼業先の労働時間を通算して、法定労働時間を超えた時間数が時間外労働の上限規制 (P.17をご覧ください。)である単月100時間未満、複数月平均80時間以内となる範囲内において、各々の事業場における労働時間の上限を設定します。

上記のとおり、管理モデルは、兼業・副業先において管理モデルを使用することに応じてもらう必要があります。

つまり、管理モデルを使うかどうかは、自分の会社の一存で決めることができないということになります。

管理モデルを利用することを要件とすると兼業・副業先次第で禁止されてしまう可能性

さて、ここまで述べたところを整理すると、「管理モデルは兼業・副業先がこれに応じることが必要だが、兼業・副業の許可にあたり管理モデルを利用することを要件としても良い」というのが厚労省の考え方ということになります。
そうなると、働く側からすれば、いくら本業企業が管理モデルを使って積極的に兼業・副業を認めてくれても、兼業・副業先がこれに応じない場合には、本業企業でも管理モデルは使えないので、結局兼業・副業を禁止されてしまいます。
管理モデルは少しずつ活用され始めているようですが、ほとんどの企業ではまだその存在すら認識されていないというのが私の印象です。だとすると、管理モデルに応じてくれる企業はそう多くなく、結果的に兼業・副業の機会を喪失することとなるように思います。

そうなっては、せっかく積極的に兼業・副業を認めようとした企業側、働く個人側にとって不幸な結果となるでしょう。

そもそも管理モデルを要件とできるのか

そもそもの話ですが、「管理モデルを許可の要件とできる」ということ自体、法的な妥当性は疑わしいと考えています。

Q&Aでは、上記のQ&Aの一つ前のQ&Aで次のとおり書いています。

1 各企業において、副業・兼業を禁止又は制限できるのは、例えば、
① 労務提供上の支障がある場合
② 業務上の秘密が漏洩する場合
③ 競業により自社の利益が害される場合
④ 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
に該当する場合と解されていますが、禁止又は制限の妥当性については、個々のケースに応じて慎重に判断されるものになります。
2 副業・兼業に関する裁判例においては、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であるとされており、1のような事情がなければ、労働者の希望に応じて、原則副業・兼業を認める方向で検討することが望ましいです。

しかし、「管理モデルを使うこと」というのは上記の①〜④のいずれにも当たらないでしょう。
また、実質的にみても、管理モデルは「労働時間の把握管理の負担を軽減するもの」であるので、これを要件とすることを認めることは、「兼業・副業をすると労務管理が大変だから」という理由での不許可を許容することにつながる可能性があり、兼業・副業を過度に抑制する方向につながる可能性が高いでしょう。

管理モデルで兼業・副業が推進されるのか

労務管理の負担が兼業・副業を認めない大きな理由となっていることからすると、「労務管理の負担があるから不許可とできる」というのは、企業実務からすれば、むしろ歓迎すべき帰結ではあります。

他方で、政策的な観点からみると、そもそも管理モデル自体、本業先企業の一存で導入できるわけではないです。また、労働時間の通算を維持する以上は、そうした労務管理の負担は必ず付きまとうわけですので、多くの場合に兼業・副業を不許可とできることになります。

そうなると、兼業・副業推進政策として「モデルで兼業・副業の推進を図る」という方法論をとることには疑問があります。

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堀田陽平(弁護士 日比谷タックス&ロー弁護士法人)
石川県出身 弁護士 2020年9月まで経産省産業人材政策室にて、兼業・副業、テレワーク等の柔軟な働き方の推進、フリーランス活躍、HRテクノロジーの普及、日本型雇用慣行の変革(人材版伊藤レポート)等の働き方に関する政策立案に従事。著書「多様な働き方と人事の法務」(新日本法規出版)