21世紀の新しい戦争の5つの要素、そしてそれは如何に始まり如何に終わるかについて〜The world after the Putin's war 〜
それは如何に始まったか
この戦争は3/21の安全保障会議の東部2地域の独立国家承認の決議で始まった。
「いいえ、私は、私は…」。ナルイシキン対外情報局(SVR)長官
急展開とこれから起きうる事態に怯え狼狽する側近、おそらく直近の身内の会議で何度も話していた「編入」を口にしてしまったのだろう。この時のプーチン大統領の表情は寵愛する生真面目な部下の失言に「オッチョコチョイの可愛いヤツ」と余裕の笑みすらこぼれている。
この時、プーチン大統領は本当に戦争は、数日で終わると思っていたのだろう。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから2日後の2月26日、ロシア国営通信が勝利を祝う内容の記事を配信したあと、すぐに削除したことが明らかになった。
「反ロシアのウクライナはもう存在しない。ウクライナは戻って来た」
ロシア寄りの政権が樹立されることをこの時点ではプーチンは「何故か」確信していた。
新しい戦争 ①民間傭兵会社とTV局
電撃的に2日で収束させる目論見は、空港制圧と制空権の確保ができなかった初日から崩れた。
ウクライナ軍は、侵攻に十分警戒して準備していた様子がわかる。
但し、そこには相当のアメリカの傭兵部隊もいたらしい。
「その場にウクライナ軍はいたのですが、ウクライナ軍が殺したわけではなく、実はアメリカの傭兵部隊によるものだったのです。当時、アントノフ空港には200人のロシアの特殊任務部隊『スペツナズ』が投入されましたが、全滅したんです。スペツナズといえば、スパイ活動はもちろん、破壊工作や暗殺などを任務とする組織です。世界最高峰の特殊部隊を全滅させたのがアメリカの『アカデミ』(旧称ブラックウォーター)という傭兵部隊でした。これはニュースでは報じられていませんが、この戦いのおかげで今、キエフが陥落せずに済んでいるんです」 (旧KGBなど独自のネットワークでロシア事情に詳しい元警視庁公安部出身の北芝健氏)
ロシア最強の特殊部隊スペツナズが、アメリカの民間傭兵会社の部隊によって全滅させたられた。この手の情報は表に出てこないので真偽の程はわからないが、泣く子も黙るロシア最強のスペツナズが、侵攻初日に全滅したのは事実である。
それがウクライナ軍だけでできることとは思えない。欧米が正規軍は送らない形でも、非正規の特殊部隊をウクライナ軍からの業務委託として送り込んでいる可能性は十分にありえる。
英国の英特殊空挺部隊(SAS)も極秘裏にゼレンスキー大統領の暗殺を十数回阻止しているという。
特殊部隊の退役軍人等で構成されている民間傭兵会社は、世界各国政府やVIPの依頼に答えている。カルロス・ゴーンの国外逃亡を助けたのもこの手の会社だ。作年12月には相当数の人数がキエフ等のウクライナ主要都市入りしていたという。
21世紀の戦争は正規戦だけではなく、非正規戦、情報戦、サイバー戦、全てを含めたハイブリッド戦だ。
建前上アメリカは正規軍は送れない。プーチンの開戦の意図をかなり前から認識していたアメリカ政府は、ハイブリッド戦の正規軍を送る以外の最大の軍事支援を行っていると思われる。
CNNも、年収2-3000万円のプロの戦場ジャーナリストを送り込んでいる。危険な任務が終わったら、稼いだ金でカリブで1ヶ月特別休暇のプロだ。彼らが情報戦の部分を担う。
新しい戦争 ②ドローンと火炎瓶
戦車、トラック、電子機器車両等を30万円そこそこの民生品ドローンで市民が発見し、別のドローンで5kgの爆弾や市民が醸造所でビールの代わりに作った火炎瓶を落とす。
2018年に投資先開拓でキエフを訪れた時に、ドローンスタートアップのプレゼンを受けた。今回、安否を確認すると、大丈夫という返事とともに、最近のプレゼンの動画を送ってきてくれた。インドでドローンで大規模農業を行うというもの。
実は、ヘリコプターを発明したのはウクライナ人だ。工科系の大学も多々あり、優秀なエンジニアも多い。
新しい戦争 ③Tiktok War - SNSでの情報戦
短期決戦に失敗し、市民によるゲリラ的な抵抗が続き、泥沼化が予測されるようになった3月2日、現職のFSB分析官による、ロシアの現状分析という内部告発という情報がSNSで流れてきた。
信憑性は、もちろんわからないが、かなりの長文で関係者が読むと、フェイクの場合は長文であればあるほどボロがでるというが、こちらはかなりの長文。
私はこの文書を、知己のFSB職員2人(現職または前職)に見せた。2人とも、これは間違いなく同僚が書いたものだと判断した。彼等は結論のすべてには同意しなかったが、それはさておき。
後に、プーチン大統領とFSBの対立が報道されるようになったので、FSBの反プーチンの分析官による内部リークの可能性は十分にありえる。
我々の電撃戦は完全に失敗した。そもそもが完遂できないタスクだ: ゼレンスキーと部下を開戦3日で確保し、主要な建物をすべて占拠し、城下の盟を誓わせたとしたら、ウクライナの抵抗は最小限に抑えられただろう。理屈上は。
だがそれがどうした? こんな「理想的な」展開であってさえ、解決不能な問題が残っている: 我々は誰と交渉する気だ?ゼレンスキーは排除するとして、よろしい、では合意に署名するのは誰だ? ゼレンスキーが署名するなら、彼の排除後は合意は役立たずだ。ОПЗЖ(ウクライナの親露派野党)は協力を拒否している。臆病者のメドヴェドシュク[実業家。プーチンの友人]は逃亡。指導者は他にもいるが—ボイコ[野党党首]は拒否、彼の支持者も理解しないだろう。ツァリョーフ[DPR・LPR議会議長]を呼び戻そうにも、ロシア国内ですら不評。ヤヌコーヴィチ[前大統領]を戻す? どうやって?
占領は不可能、ということになれば、我等の撤退後、[ウクライナ]新政府は10分ももたずに倒されるだろう。占領するにしても、必要な人員がどこにいるというのか? 司令部、軍警察、防諜、諜報—ウクライナ人の抵抗を抑え込んだとしても、50万人は要る。これに更に補給と兵站が加わる。こんなのは決まりきったことだ—質の悪いリーダーシップを量で補おうとするなら、何もかも分が悪くなる。繰り返すが、これは「理想的なシナリオ」での話だ。現実はそうではない。
現場の優秀な分析官が、冷静に事態を分析し「質の悪いリーダーシップ」に激しく怒っている。特別軍事作戦に反対したFSBメンバーが、ウクライナ側に情報をリークした可能性もなくはないとしている。
また、今回国際世論が高まったのは市民によるSNSを通じたリアルタイムの投稿だ。私達は、市民の当たり前の日常が壊されていく様を目の当たりにした。
この日出産予定だった運び出されている女性は、数時間後母子ともに命を落とす。
身一つで戦車を止めた男性。街の様子を自撮りで説明中に爆弾が落ちた動画。いくらでもある。(更に見たい人は次のまとめ動画参照)
湾岸戦争では、赤外線監視や光学センサーに映し出されたイラクの建造物や兵器が空爆で破壊され、その様子からNintendo Warと呼ばれた。
SNSでリアルタイムに被害状況が拡散していく今回ウクライナ侵攻は、Tiktok Warと呼ばれている。
(余談になるが、湾岸戦争やイラク戦争時、更に言えば、東京大空襲や広島長崎の原爆投下時に、市民にスマホとSNSが行き渡っていたら、同じ状況が世界中に配信されていただろう。国際世論はアメリカの市民を巻き込んだ軍事行動を許さなかったと思う。)
新しい戦争 ④暗号通貨によるリアルタイムかつ直接の支援
東日本大震災の時に記憶している人も多いと思うが、赤十字などへの義援金が必要とされる人々に届くには相当時間がかかる。また、政府を通じた支援等は、国によっては政府が搾取して市民に届かないケースもある。
ウクライナ政府は、侵攻3日後にサイトを立ち上げ、わかりやすく暗号通貨についても解説し、1ヶ月足らずの間に$ 71 .6M$(90億円)以上集めている。これは日本政府の人道的支援金に匹敵する額であり、世界銀行の緊急支援総額723Mドルの1/10の規模であり、市民から市民へリアルタイムに届いている。
支援金のサイトはこちら
新しい戦争 ⑤演説と国際世論形成
世界が、市民への無差別攻撃に恐怖した時、そこからゼレンスキー大統領の議会演説が始まる。この2週間で、ウクライナの大統領役を演じた元コメディアンは、戦時のウクライナのチャーチルとなり、さらには自由民主主義国家の英雄となった。
英語が読める人は、是非読んで欲しい。以下簡単なポイント。
3/8 イギリス (シェークスピアの戯曲中のセリフで)「生きるべきか、死ぬべきか」。私達はウクライナを失いたくない。あなた方が、ナチスで独軍に対してバトル・オブ・ブリテンで国を防衛したように、私たちは海と空で戦って国を守ります。私たちは森で、野原で、海岸で、街や村で、通りで、丘で戦います。服従することはありません。(WW2時のチャーチル首相の演説の引用)
3/11 ポーランド 我が兄弟ポーランド人よ、今、ヨーロッパを崖っぷちから取り戻し、脅威から救うことは、ポーランドとウクライナにとって歴史的な使命ではないでしょうか。
3/15 カナダ トロントのCNタワーやエドモントンのチャーチル広場が爆撃されることを想像してください。毎日多くの大人と子供が殺される情報を聞くことを想像してください。
3/16 アメリカ 真珠湾攻撃、2001年9月11日の中枢同時テロを思い出してください。我が国はこんなことを毎日、毎夜、経験しています。
私は(米中西部サウスダコタ州の)ラシュモア山に刻まれた顔(リンカーンら著名な歴代大統領4人のモニュメント)を覚えています。(民主主義や「法の下の平等」が米国の礎を築いたとして)私たちも同じことを望んでいます。ロシアの攻撃は米国人への攻撃です。
一国のみならず世界のリーダーになってください。そして世界のリーダーであることは、平和のリーダーになることでもあります。
3/17 ドイツ (自国経済を優先しロシア産天然ガスの輸入をやめない独政府に対し)それらは戦費調達に利用されています。
欧州に新しい壁があります。レーガン大統領がかつてベルリンで言ったようにショルツ首相に言いたい。「この壁を倒せ」と。あなた方が経済に拘って彼らを増長させた結果、ヨーロッパには自由世界と奴隷世界を隔てる新たな壁が築かれつつあります。この壁を壊さなければなりません。
3/19 スイス 私たちは(永世中立国の)あなた方のように生きれたらと思っています。自らの運命は全て自分だけで決める。そしてあなた方にはウクライナ人のように悪と戦ってほしいと願っています。
3/20 イスラエル 我が国民は今、かつてのあなた達と同様、安全と平和な暮らしを求め世界中をさまよっています。
彼らはこの侵略をウクライナ問題に対する”最終的解決”と呼んでいるのですよ。あなた方にはその意味がわかるはず。なのになぜ手を貸して下さらいないのでしょうか。
3/22 イタリア
(同じ規模の港湾都市マリオポリについて)爆撃で焦土になり、人が歩けなくなったジェノバの港を想像してください。
ローマが世界にとって重要なように、私達の首都キエフはこの地域で重要な場所なのです。何万もの家族が引き裂かれてしまいました。そして殺された家族は、高層ビルの空き地や公園に埋められています。ウクライナ人の家族を助けてください。
3/23 日本
アジアで初めてロシアに圧力をかけ始めたのが日本です。アジアのリーダーになりました。侵略の「津波」を止めるため、ロシアとの貿易を禁止し、各企業が撤退しなければなりません。彼らはチェルノブイリの原発を支配しました。さらに核兵器やサリンなどの化学兵器による攻撃の可能性も懸念されています。彼らの侵略の津波を止めるよう、世界が協力する必要があります。
3/23 フランス これは自由、平等、友愛、そしてヨーロッパを結びつけると同時に多様性を支えてきた全てのものに対する戦争なのです。自由が敗北してはならないのです。
3/24 スウェーデン 彼らは(スウェーデン領海内の)ゴットランド島に基地を作るべきだと言っています。そうすればバルト三国を抑えられるからです。お分かりでしょう。彼らは次に必ず他の隣国に侵攻します。
ゼレンスキーは大統領就任にあたって自身が大統領役を演じた人気ドラマ「国民の下僕」のスタッフをそのまま大統領スタッフとして採用したと言われている。大統領役のドラマの脚本家のプロが、世界を感動させる大統領のスピーチを書いている。
プーチンはようやく、「直接の対話が必要だ」とゼレンスキー大統領を停戦交渉相手として初めて認め、その条件交渉が今、行われている。
そしてそれは如何にして終わるか
ロシアのプーチン大統領が始めた戦争が、開戦1ヶ月を超えてようやく停戦の兆しが見えつつある。
まだまだ両国の条件に乖離はあるのものの、戦争を止めたいのは、日々市民の犠牲者や街の破壊が続いているウクライナはもとより、ロシア軍の政権内部から離反者が続き、このまま西側諸国の経済制裁が数ヶ月続くと経済破綻の恐れが現実のものとなってきたロシア側も同じだ。
エリツィン時代からのプーチンのメンターとも言える大統領特別代表のチュバイスが辞任し、中央銀行総裁が辞意を表明し、国防大臣の消息が明らかでない。
個人的には5/9の大祖国戦争戦勝記念日が大きな節目となると思う。ソビエト時代を覚えている人は、クレムリン宮殿から赤の広場の軍事パレードの映像を記憶していると思う。当然、そこでプーチン大統領は、国民に対して何らかの勝利宣言をすることになる。
もしそれができなかったらプーチン大統領の政治生命は終わりだ。当初は、「ナチ化」したゼレンスキー政権の打倒を目標としていたが、キエフから徐々に撤退し、東部2地域に兵力を集中させるとして、軍事作戦の焦点を移行しつつある。
財政的にも戦争継続は限界だ。
離反者が多くでていると連日報道があり、内部クーデターでプーチン体制が崩壊するという憶測もある。
個人的にはプーチンの独裁体制は残念ながらそう簡単には崩れないと思う。
プロパガンダの一定の効果もあり、プーチン支持は高齢者の保守層中心に強固に存在する。
ロシア国民は、ツアーリと呼ばれた皇帝による帝政ロシアの時代から、強権的な指導体制に対して従順だ。プーチンは大ロシアは、ビザンチンのローマ帝国の後継者であると自認している。ツアーリは、ローマ皇帝の称号カエサルのスラブ語形だ。
ロシアは今や、面積が140倍の核を持つ北朝鮮だ。
停戦条件交渉においては、「ウクライナのNATO非加盟と中立化」は合意できるだろうが「ウクライナの非武装化」が争点になる。侵攻を受けたウクライナ国民が非武装化に応じるとは思えないが、「ロシアの脅威となる武器を持たない」というロシア側の要求をどのように表現して妥結できるかがポイントだ。
交渉が進むに連れ、同時に双方が交渉を有利に進めるために軍事的な優位性を示すさらなる作戦行動に出る可能性がある。具体的には、生物化学兵器の使用が示唆されている。生物化学兵器が使用されると、これまでは加盟国外での国際紛争という見方で直接の軍事侵攻は行ってこなかったNATOも、テロに対する戦いとして参戦せざる問えなくなる。
「いかなる化学兵器の使用も紛争の性格を根本的に変化させる」(NATO事務総長)
それはさらなる泥沼化と長期化を意味する。
今は4月に、これ以上の悲劇が起きないことを祈るしかない。