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1週間の滞在で「1年住んでました?」と言われる海外出張&旅行のコツ

海外現地法人の駐在員は現地の事情通なのか?

研究者という立場上、海外で調査をしていると、その国の現地法人で働く駐在員の方と接する機会に恵まれることも多い。それは、現地調査の協力者であったり、現地の日本人会の好意でお呼ばれしたりする。
企業人と研究者の大きな違いとして、組織に関係なく、幅広い業界の多様な職種の方と接点を持ち、話を聞く機会を得ることができる点があげられる。海外現地法人の生産拠点で働く高卒の金型職人さんもいれば、総合商社の現地法人社長もいるし、日系企業で働く現地採用の従業員もいる。
そうして、さまざまな方と話をしていると、「やっぱり、現地でビジネスをしてるリアルな話を聞くことができて、貴重な話を聞くことができた」と感じる方もいれば、「あれ?この方が話していることは本当なのかな?ほかの方の話と合わせると、なにかちょっとズレているかもしれない?」と小首をかしげることもある。現地法人で働いているから、現地の事情に通じているかと言うと、必ずしもそうとは言えないことがあったりするのだ。
こうして様々な国で話を聞き続けていると、結構な頻度で「何年くらい住んでいらっしゃったんですか?」と現地の方から質問されることがある。調査で訪れる国は、ほぼ出張目的となるため、出張でしか来たことがないと言うと驚かれる。「馴染むのが早くないですか?」とも聞かれたりするので、はて、なぜだろうかと考えると思い当たるふしもある。
それは、海外調査で「この人はすごい」と思った方の真似をしていることが大いに役立っているように感じるのだ。
今回は、日経電子版で募集している「#ビジネスに効く旅行とは」というお題に従って、考えてみたい。

知の巨人による「人」「本」「旅」のすゝめ

ビジネスに効く旅行というと、知の巨人として知られる、立命館アジア太平洋大学学長の出口治明氏の「人」「本」「旅」が有名だ。いろいろな「人」に会い、たくさんの「本」を読み、面白いところへ「旅」をし、そこから学びを得るというサイクルが知識を身に着け、人生を豊かにすることに繋がるという。
私の海外調査で訪れた国でも、この「人」「本」「旅」の流れを大切にしている。ただし、少しアレンジを加えていて、「人」→「本」→「旅」→「人」→「本」という5ステップになっている。

はじめの「人」は、まず、渡航前にできるだけ国内で現地のことに詳しい方や在日外国人の方から情報を収集することだ。例えば、フランスで調査をするのであれば、在日フランス商工会議所にアポをとったり、大使館が開催するイベントに参加したりする。そういった施設や催し物がなければ、有用なのがLinkedinだ。日本と中国を除くほぼすべての先進国と新興国のビジネスパーソンにとって、Linkedinは重要なビジネスツールとなっている。プレミアム会員登録をして、訪問予定の国の方を検索して、渡航前に現地の事情について聞きたいというプロポーザルを送ると結構な頻度で協力的な返事を返してくれたりする。これで、渡航前に現地の空気感や日本との文化の違いについて「当たり」をつける。
次の「本」は、「人」と会うことで得た「当たり」が本当なのか、ファクトの確認だ。本に書かれている情報やデータと照らし合わせて、自分が感じた素の感覚がどれだけ的を得ていそうなのかを把握する。例えば、インド調査のときには金 基淑氏の『カーストから現代インドを知るための30章』(明石書店)が役に立った。

そして、「旅」に出る。調査対象となる国に飛び、調査計画書で立てたタスクをこなし、現地に訪れなくては知ることや感じることができないリアルな情報に触れる。ただし、このときに調査だけをするのではなく、必ず調査と関係のないこともする。この「調査と関係のないこと」が、現地を知るときに非常に重要になる。それが、この後に続く「人」だ。
調査でも人と会うが、調査や仕事から離れたところで「人」と会うことが大切だ。仕事とは関係のない文脈で繋がった現地の人々は、本音で様々なことを語りかけて、教えてくれる。そのために、できるだけ現地の人と会い、溶け込むようにする。例えば、ホテルに宿泊せずにAirbnbの民泊施設を使い、オーナーに現地の友人を作りたいと相談しても良い。コロナ禍で激減してしまったが、Airbnbのサービスにある体験企画に参加するのも効果的だ。私の場合は大学教員なので、現地の大学の研究者にアポを取って訪問をしたり、現地の学生に混ざるのが手っ取り早かったりする。
そうして、仕事や調査といったフォーマルな場での人間関係だけではなく、インフォーマルな場での人間関係を浅く広く築いていく。3日もあれば、結構な人数と知り合うことができたりする。
イメージで言うと、五箇野人( @gokayajin )さんの「海外旅日記の行動とかなり近しい。なんでもない、普段の生活の中にある一期一会を楽しむことが大切だ。
最後の「本」は、帰国してからの話だ。「旅」と2回目の「人」で得た知識や情報の確認と解釈をするために、「本」の力を借りる。つまり、事実とデータで自分の知識が誤っていないかどうかを確認するのだ。

まとめ

これまでの内容を一言でまとめると、「現地で感じた肌感覚を大切にしつつ、事実とデータで自分の理解を確認する」ことが、短期間でも現地のことを学ぶスピードを早めることに繋がる。特に、仕事上の人間関係だけではなく、インフォーマルな場での人間関係から学んだことは非常に重要だ。

もともと、日本人は諸外国と比べた時に人間関係の幅が狭い傾向にある。リクルートワークス研究所の調査によると、社会人となってから、職場の上司・部下・同僚以外の人間関係を新たに築いたという人は少数派だという結果も出ている。これは海外現地法人の調査をしていても感じるところだ。

例えば、駐在員の話を聞いていると、職場以外では食事は主に現地の日本食レストランで同じ駐在員仲間と食べ、日系企業の駐在員が多く暮らすコンドミニアムで運転手付きで生活をしていたりする。休日は、駐在員御用達のゴルフ場で過ごす。場合によっては、海外進出をしている日系企業向けのサービスを提供する仕事をしていると取引相手も日本人が主で、海外にいても日本人コミュニティの中で生活しているというケースも珍しくない。

もちろん、そうではない駐在員も数多くいる。海外ビジネスのプロフェッショナルとして辣腕を振るうビジネスパーソンも数多くいる。これはINSEADの駐在員研究でも度々取り上げられるが、基本的に駐在員の質はバラツキが多いのが現状だ。現地採用の従業員に調査をすると、現地法人の一番のリスクは次に来る駐在員の質が保証されていないことだと考えるスタッフが非常に多い。

出張や海外赴任などの旅先で現地の事情を学び、少しでも早く適応するために、職場だけではなくインフォーマルな場も含めて、幅広い人間関係を現地で構築しよう。そのためにも、海外に行く前の日本にいるときから、人間関係を広げることを意識することが肝要だ。


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