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人生100年時代の社会に対する創意工夫 ("The New Long Life" リンダ・グラットン) | きのう、なに読んだ?

リンダ・グラットン&アンドリュー・スコットの新著「The New Long Life」を読みました。2016年に出版された「ライフ・シフト」(The 100-Year Life) の続編です。

「人生100年時代」というフレーズは、もはや目新しくもないほど、頻繁に耳にするようになりました。その発端となったのが、リンダさんたちの前著「ライフ・シフト」でした。リンダさんは2017年には安倍首相の諮問委員会にも参加し、その後も日本を頻繁に訪れているそうです。

前著「ライフ・シフト」は、これからは寿命が100年に伸びるので、人生を教育・仕事・引退の3ステージで考えるのではなく「マルチステージ」で考えましょう、という内容でした。これまでの3ステージは年齢で区切られており、「一斉行進」しながら後戻りすることなく一直線に進んでいました。しかし、人生100年となれば、話は変わってきます。20代から80代の途中で何年か休み、自分探しをしたり教育を受け直してから再び働くとか、複数の仕事を少しずつ手掛ける時期があってもいい。しかも、何歳でどのステージに行くかは人それぞれ。このような新しい100年人生には、金融資産だけでなく、①生産性資産(能力)、②活力資産(健康)、③変身資産(人脈)、④パートナー(結婚相手)という無形資産を充実させることが大事、という趣旨でした。

前著は各国でベストセラーとなり、「人生100年時代」という共通認識が日本でも定着しました。しかし、長寿にまつわる論調を見ると、高齢者が増えて病床数が足りなくなる、介護離職、年金だけでは老後の生活に足りないなど、ネガティブな話が多い。情報通信技術の進歩についても、明るい可能性だけでなく、「仕事が機械に奪われる」という恐れや「クリエイティブにならねば仕事はない」という脅しと共に語られる論調が少なくありません。

情報通信技術が進歩し、医療技術の進歩により病気が治るようになり寿命がのびた。このことを喜べないのは、問題ではないか?

それが、新著「The New Long Life」をリンダさんたちが執筆した動機だったそうです。

社会に対する創意工夫 (social ingenuity)

実は、人類が狩猟採取から農業に移行した時も、産業革命でも、社会に新しい技術が導入されてからかなりの期間、生活水準は向上せず、場合によっては悪化していました。

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Both these transitions share a common pattern: human ingenuity created technological advances which undermined existing economic and social structures which, in response, required a different form of human ingenuity – social ingenuity.
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But importantly, social ingenuity does not automatically flow from technological ingenuity.
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We are living through a period where the gap between technological and social ingenuity is growing wider.

ざっと訳すと「(農業革命も産業革命も)人類の創意工夫により技術が進歩した。しかし新しい技術は、既存の社会経済構造を弱体化させてしまう。そこで求められるのは、社会に対する創意工夫 (social ingenuity) だ。
ここで重要なのは、社会に対する創意工夫は、技術面の創意工夫からは自動的には生まれない、ということだ。
現在、私たちは、「技術面の創意工夫」と「社会に対する創意工夫」のズレが拡大する時代を生きている。

今こそ「社会に対する創意工夫」が必要な状況であり、これを追求することが明るい未来を作るんだと。では、人生100年時代における「社会に対する創意工夫」って何をどう考えて進めばいいの?という問いに答えようとしているのが、今回の「The New Long Life」というわけです。

Narrate(意味付け)、Explore(探索)、Relate(関係づくり)

本書でリンダさんたちは「社会に対する創意工夫」の3つの柱を示しています。

① Narrate(意味付け)
人生を、テーマ、目的、構成のあるストーリーとして組み立てる。自分にとっての人生の意味を見出し、より良い選択をする助けとなる。

② Explore(探索)
人生は、ステージからステージへの変化が続くことになる。そのために学び、自らを変革する。

③ Relate(関係づくり)
深い人間関係を作り、維持する。

「長寿」を例に取って3つの柱を考えてみましょう。

① Narrate(意味付け)
「高齢化社会」という概念は、生まれてからの年数である暦年齢によって人生を意味付けする考え方です。これを、暦年齢ではなくて、余命、つまり死ぬまでの年数で意味付けするとどうでしょうか。例えば今の50歳の平均余命は、男性は 32.74年、女性は38.36年です。ちなみに定年が55歳から60歳になったのは1986年頃ですので、その時代までは大学を出ておよそ30年仕事をしておしまいだったのですね。ということは、現代の50歳が持っている「今後働ける年数ポテンシャル」は、高度成長期の大学生と同じくらいある、というわけです。現代の50歳は、これからの30数年をどう過ごせば、たのしく生きられるでしょうか。本当に仕事→引退のステージ変化1回だけで、意味ある人生になりそうでしょうか。

② Explore(探索)
30年あれば今から何か新しいことをゼロから学んでも十分活かせる時間があります。複数のステージを経験する可能性を織り込めます。「これまでの経験を生かす」という発想に囚われる必要は、必ずしもありません。

③ Relate(関係づくり)
また、ステージ変化は喜びや刺激をもたらしてくれる一方で、ストレスを感じたり、先を見通せない辛さを感じる時期もあるでしょう。技術進展により、急に自分の仕事がなくなるような変化だってあり得るわけですから。良い時も辛い時にもお互いを支え合える深い人間関係を、自ら作り耕すことが大切になります。

Social Pioneers (社会の開拓者)

ここまで、① Narrate(意味付け)、② Explore(探索)、③ Relate(関係づくり)の3本柱を、個人の視点から描きました。しかしこれは、個人だけで切り開くのは大変です。「社会に対する創意工夫」とはまさに、この3本柱を社会の仕組みに取り込み、一人ひとりが意味ある人生を送れるような環境を作っていこう、という話です。

本書では「社会に対する創意工夫」を、企業、教育、行政の3分野で「こういうことが必要ではないか」と詳しく提案しています。例えば、企業であれば、採用や配置に関して年齢や直前の職歴を問わないようにする。教育であれば、フルタイムで4年通って学位を得る形式だけでなく、細切れに履修できるようにし、少ない単位数でミニ学位のようなものが授与できるようにする。関係性においても、様々な世代が混じり合い互いに尊重しあえる仕組みと価値観を養う、などです。

本書の提案は、ちょっと道のり遠いな…と感じるところもありました。でも「自分の人生の意味づけ」は、少しずつなら個人でも考えられます。そして、自分が人生の決断ポイントに立ったとき「一斉行進の3ステージ人生ではないとしたら?」と、自分に投げかけてみることもできるでしょう。

また、世の中にある「社会に対する創意工夫」の芽を見つけて応援することも、個人でできます。例えばこちらの「明るい社会保障改革推進議員連盟」などは、「社会に対する創意工夫」のイメージに近い動きだと感じました。

このような、一人ひとりの考えと行動の変化の集積が、「社会に対する創意工夫」を後押しするのだと思います。

私は10年くらいリンダさんのファンで、何回か講演を聞いており、幸運にも直接お話しを伺う機会を頂いたこともあります。リンダさんはとても明るく気さくで、肩の力がいい感じに抜けている印象でした。「やんなっちゃうわよねー」なんて言いながらバリバリ仕事してるイメージです。本書も、大きな社会変化がテーマでありながら、リンダさんのお人柄と同様に、明るさや柔らかさを感じさせる味わいがありました。

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We must all be prepared to be social pioneers: this is the message at the heart of this book.

「私たち一人ひとり、 social pioneers (社会の開拓者)となる心構えが必要だ。本書ではそのことを伝えたい。」

新しい社会に向けて仕組みを作る人を、応援する。人生100年を見据えた選択をした人の真似を、ちょっぴりだけしてみる。それでも十分 social pioneers (社会の開拓者)ですよ、とリンダさんはにこやかに答えてくれそうです。

本書の書評がFTに掲載されていました。日経に翻訳記事があったので、こちらもご覧ください。

今日は、以上です。ごきげんよう。

(cover photograph taken from "The New Long Life" website)

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読書感想文

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ありがとうございます。最近、にっこりしたことはなんですか。
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真(まこと)てふ 貴きものを心にて 永き世ゆかむ 人と和みて エール株式会社取締役 https://www.facebook.com/makiko.shinoda

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