【読書メモ】ポストメルケルに向けた1冊
日本の新書界隈にはドイツ本が結構多いです。しかし、その多くが「ドイツに長く住んでいた」もしくは「今も住んでいる」という「海外の空気を吸ったら急に高く飛べる気分になる」という風情の成果物が多い印象です。例えば「ドイツ人は何故残業しないか」のような検証しようがない(しかも検証したところでお国柄としか言いようがない部分もあり)、「それがどのように日本の政策議論に落とし込めるのか?」まで踏み込まれていないものが結局は読まれてしまう傾向にあると思います。それが日本語書籍におけるドイツ(や欧州)周りの現実に近いと思います。全ての人が専門書を読むべきという話でもないので、そうしたライトな新書にも存在価値はありそうですが、個人的には「日本人の眼から見た正確なドイツの現状」というのは、(本当は全くそうではないと思うけれども)ドイツと日本は似ていると考える日本人が多い雰囲気を考えると、それなりのニーズがあるのではないかなと察します。
この本はそうしたライトな風情とは一線を画するものだと思いました。通信社の記者として真摯にメルケル、ドイツ、欧州を中心に時代をウォッチしてきたのだということが良く分かる本です。新書として政治や外交を論じたいなら、これくらい精緻な情報に基づいて書いて頂きたいものです。如何にメルケルという人物が権力の魔物であり、その奪取と防衛に長けた政治家なのかが様々なエピソードと共に書かれており単純に勉強になります。
文中、ベルリンの壁が崩壊したというニュースを聞いたメルケルはまずは冷静に「日課の“木曜日のサウナ”を止めず、汗を流しながら考え、サウナを出てから検問所に向かった」というエピソードには、サウナ好きの私としても親近感が湧きました。「ドイツリスク」で賞を取られた読売新聞の三好氏の著作もそうですが、ドイツ周りのちゃんとした気骨ある日本人ジャーナリストがいて頼もしいと個人的には感じます(若輩の私が言うのも恐縮を承知で申し上げれば・・・ですが)。これらの本は政治・外交寄りですので、願わくば、このレベルでドイツひいては欧州の経済・金融を論じる本があったら類書が無いな、という気はします(頑張りたいところです)。
いずれにせよ、いよいよ「ポストメルケル」の時代が近づく(任期満了は2021年)中、今、読んでおきたい本の1つだと思います。
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