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男性のための新しい井戸端会議 ―ファシリテーションを場に埋め込むために

4月9日(日)、スープ作家の有賀薫さんとフードスコーレ主催の「これからの家事を探求するゼミ 炊事から考える家事の世界」に参加しました。その参加レポートを書かせていただきます。(写真はフードスコーレさん、有賀さんよりご提供いただきました。)

告知文にはこんなふうに書かれています。

家事のこと、ちょっと聞かせてくれませんか?

1回目のテーマは、「男の炊事」です。
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「家事は女性だけのもの」という価値観は古くなり、家事への見方を更新することが求められています。家事に参加している男性は増えているのに、家事をテーマにしたイベントやトークショーでは、男性の参加はあまり多くありません。そうすると、イベントでの話題も自然と男性の目線がなくなります。そこで、普段家で料理や家事をされている男性のみなさんから、ぜひお話を聞いてみたいなと思ったわけです。(有賀さん)

https://foodskole.com/study_post/6856/

このイベントは、千駄木にあるKLASSで開催されました。マンションの一室をリノベーションしたシンプルな空間で、オープンキッチンと20人ほどが座れるスペースが用意されていました。

同じ釜の飯を囲うイントロダクション

まず、開場してからワークショップ開始までの30分、そしてその後のイントロダクションがすばらしかったのです。

ぼくたちは開始直前に到着したのですが、すでに参加者が集まってキッチンスペースを囲んでいる光景が目に入りました。有賀さんが手料理を作る様子を見守り、和やかに雑談したり手伝ったりしながら、30分ほどを過ごしました。

その後、炊き上がった筍ご飯を自分たちでラップに包んでおにぎりにし、よそっていただいた豚汁とほうれん草とインゲンの胡麻和え、玉ねぎのマリネをいただきました。

「同じ釜の飯」とはよく言いますが、見ず知らずの他人同士が同じご飯の香りを囲い、順番におにぎりを握り、いただきますという言葉をいうだけで、関係がほぐれる感じがします。

食事をしながら、有賀さんがこの企画を立ち上げた背景や思いについて話してくれました。有賀さんがテーブルを歩きながらプレゼンする姿は、サラウンドで響いていて印象的でした。

「おにぎりって、握ってもらうとわかるんですが、一人一人握り方が違いますよね」

有賀さんがさりげなく話します。見渡してみるとたしかにそうで、育ってきた環境や今生きている状況が異なるため、おにぎりの大きさや握り方は異なるのだなと感じます。ぼくは子どもが食べても崩れないようにかなり強く握りますが、ほんとうはふんわりとした食感のおにぎりが好きなのです。

ぼくたちは家族4人で参加しましたが、野菜嫌いの娘がほうれん草の胡麻和えを美味しいと言いながら食べていたのが印象的でした。

食事が終わった後、1人ずつ自己紹介をしていきます。一緒に食事をすませたあとなので、全員の前で自己紹介するハードルもすっかりさがっていました。通常のワークショップだったらかなり緊張するのですが、アイスブレイクの前にアイスブレイクされている構成で、すごい!

語ることで生まれるひらめき

その後は「スリーピースダイアログ」という方法で「家事のモヤモヤ」をテーマに1人ずつ話しました。この方法は、ぼくが数年前に有賀さんと一緒に考えた方法をnoteにまとめたもので、その後有賀さんがいろんな場所で活用してくださっています。

ぼくは、「いかにイライラしないか」という家事の課題について話しました。同じグループになった方の話も聞きながら、「レトルトの日、適当料理の日、作り込みパーティーの日と、メリハリをつけるのはどうだろうか?」とか、「相手に食べたい料理を聞いてみるのはどうか?」とか、「完璧を求めすぎないのが大事では?」とか、いろんな話が出ました。

ふと気がついたのは、これは話さなかったことなのですが、ぼくは家事のタスクをとにかく早く終わらせたい、という思いにとらわれていました。早く終わらせたいのに、娘が言うことを聞いてくれない。早く終わらせたいのに息子が「抱っこ!」と言って聞かない。早く終わらせたいのに、早く終わらせたいのに・・・と、強迫観念のように思い込んでいたのです。

素朴に「その思い込みをやめればいいんじゃないか?」と思ったのです。ゆっくりやってたって、どうせ21時をすぎる。せかせかやったって、せいぜい30分早くなるぐらいだ。だったら、息子を適当に抱っこするぐらいいいじゃなか。娘が自分の好きなことをやっていたっていいじゃないか。

ふとそう思って、その日の夜、いつものようにせかせかしそうになる自分にブレーキをかけて、まあいいかの気持ちで夜家事をしてみたらすんなりと終わりました。

あらためて対話型のワークショップに参加してみて、自分の頭の中にあることないことを語ったり相手の言葉を聞いたりするだけで、ポップコーンがはじけるように小さな儚い閃きがパチパチと生まれていくのを体感しました。そのなかには、語られないひらめきもありました。語らなかったけど心に残るひらめきもまた、日々の振る舞いに影響していくのだなと。

男性側と女性側の意見を鏡写しに

今回のワークショップは、3人1組のワークショップだったのですが、意図的に男性グループと女性グループに分かれていました。

最後、各グループからどんな話をしたかを報告する時間がありました。男性側の意見が先に語られ、女性側からの意見が後半に語られました。

この時、男性側から「料理をつくっても、もっとこうしたほうがいいよとアドバイスされてしまい、ちょっと凹む」といった趣意のコメントがあり、それに対して女性側から「もっと料理を楽しんでもらえるように意識してマネジメントしなきゃ」といった趣意のコメントがありました。

このやりとりに対して有賀さんが興味をもって「今のコメントって、もしも男女が逆だったらブーイングきてますよね(笑)」と、ユーモアを交えつつ鋭い言葉を残されていたのが印象的でした。

男性と女性を分けてグルーピングするのは、ジェンダーやセクシュアリティの観点から考えると難しさを感じる面もありますが、グループを分けることで、意見の異なりが浮かび上がっていました。そしてそれが鏡のようにお互いの感情を反射し合っているのも面白く、これがまた一つの対話の種子になりそうです。

井戸端会議の新しいかたち

参加してみて、あらためてこのプログラムの意義を深く感じました。

かつて、主婦たちは井戸端会議で情報を交換したり、愚痴をこぼしたりして、軽いケアをしあっていました。

現在は、専業主婦社会から共働き社会に変化しつつあります。日経新聞では未だ女性が家事の7割を負っている夫婦が多いという統計もありますが、家事を平等に分け合う夫婦も確実に増えています。

そんななか地域コミュニティの希薄化も影響し、家事をする男性たちが増えているにも関わらず、互いに話を聞き合う軽いケアの場がないため、孤立してしまっていることが、今回のワークショップを通じて体感できました。

こうした問題意識から、有賀さんとフードスコーレは「ワークショップ」という形で男性たちを集め、軽いケアの場を作りました。この企画によって、「男性同士が話し合える井戸端会議」が生まれ、同時にそこにファシリテーションの方法が持ち込まれ、その場を支えていました。

こうした井戸端会議の新しいかたちに、ぼくは大きな可能性を感じました。このワークショップでは、「スリーピースダイアログ」という仕組みが使われています。ファシリテーションは高尚で難しいというイメージがありますが、たとえば、「3人グループに分かれ、1人が10分話す。他の人は聞く」というようなシンプルなルールであれば、誰でも簡単に使えます。

「物」や「場」が担うファシリテーションに向けて

ただ、このワークショップは、有賀さんという人によるファシリテーションが大きく影響しています。何より有賀さんに会えて、有賀さんによる料理を食べることができ、話を聞くことができる。貴重なファンミーティングの場にもなっていました。そのこと自体の価値はとても大きいと感じています。ぼくも有賀さんに会えて嬉しかったですし、娘もほうれん草の胡麻和えが好きになったのですから。

しかし、「井戸端会議」という普遍的な場を、現代に即した形に再建していくには、ファシリテーションを人が担うのではなく、「物」や「場」が担えるようにする必要があります。

たとえば、近所のコミュニティセンターにいけば、男性同士でも井戸端会議がしやすい物や環境が配置されている。家事に関するトピックや対話のルールがあり、その場にいくことで対話ができるといったようなイメージです。

この方法が見つかれば、井戸端会議は、再びより良い形で実現することができるかもしれません。

このテーマは組織開発やチームビルディングのファシリテーションを日々実践するぼくにとっても、無縁ではありません。

BtoBのビジネスのなかでファシリテーションはいま積極的に活用されていますが、ぼくはファシリテーションを誰もが使えるかたちで知的資源にし、公共性の高いあらゆる場にその資源が配分される未来を夢見ています。ビジネスの機会のなかでファシリテーションを再現性の高い知的資源にできるよう探究をし続け、誰もが使える形にして社会に還元していきたい。今回のワークショップは、そのビジョンに近づける可能性を、強く感じるものになりました。



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