結婚はお金で買う時代へ?
日本以上に、中国の結婚も厳しいものがあります。特に、男性にとって。
そのひとつが、「彩礼銭の高騰問題」です。
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彩礼銭とは、中国古来の婚姻儀礼で、結婚を正式に決める前に新郎の家が新婦の家に一定金額の現金を贈る風習です。日本の結納金みたいなものですが、これが最近、驚くべき高騰ぶりを見せています。
湖南省、山東省、浙江省では平均相場が10万元(約170万円)。旧満州の東北地方や江西省、青海省では、50万元(850万円)台になり、上海と天津では、100万元(1700万円)台にもなるんだとか。ちなみに、中国の農村部の平均年収は1万元程度であり、10万元の彩礼銭とは「年収の10倍」にも相当します。日本の適齢期未婚男性の平均年収が約300万円ですから、それに換算すると、結婚するために男性は3000万円を用意しないといけないということです。かつて婚約指湯は「給料の3か月分」とか言われていましたが、そんなレベルを遥かに超越しています。
もはや、「結婚の沙汰も金次第」。
その原因は、中国の「男余り現象」です。かつて、当コラムで、日本の未婚男性は300万人の「男余り」だとご紹介しました。
しかし、人口14億の中国では桁が違います。3400万人も男が余っているのです。要因は、勿論、一人っ子政策のせいです。ひとつの国の人口分、未婚男が余っているわけですから、当然、需要と供給の関係で女性は強気です。十分「ふっかけられる」わけです。
こうした状況になると、いろいろと悪知恵を働かせる輩が出てくるもので…。
たとえば、最初に男に彩礼銭480万円を先払いさせた後で、さらに追加300万円と不動産の名義変更を要求する親もいるとか。さすがに、それでは全財産を身ぐるみはがされるからと断ると、「一方的な婚約破棄だ。最初にもらった480万円は慰謝料としてもらうので返さない」というのだそうだ。どうも最初からそれが目的だったんじゃないと思われます。
もっと酷いのになると、嫁役・両親役を立てて、先払いの彩礼銭を受け取った後、行方をくらませるという事案も発生しているようです。もう立派な詐欺事件です。
いずれにしても、たとえ高額な彩礼銭を用意できたとしても、物理的に3400万人の中国人男性は結婚できません。実際、国内での結婚を諦めて、海外の女性との結婚を画策している人も多いようですし、そうしたビジネスも活発化しています。
しかし、かつての日本人もそうでした。2005年には、日本人男性と外国人女性との結婚は3万5千組近くまで増加していましたから。
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今ではこうした外国人との結婚数も激減しています。それもそのはずで、結婚詐欺でお金を巻き上げるだけではなく、殺人事件も少なくないからです。
2013年に発生した新倉英雄さん殺害事件は痛ましいものでした。新倉さんは、1990年頃フィリピンパブで妻のメリンダ容疑者と知り合い、2005年に結婚しました。まさに日本人夫がもっとも外国人妻と結婚した年ですね。当時、新倉さん53歳。相手は再婚だったそうですが、彼は初婚でした。
二人の間には子どもも出来ましたが、妻はフィリピンに帰国。新倉さんは妻と子どもに会うために、日本とフィリピンを何度も往来していました。行くたびに100万円以上の資金を妻に渡します。フィリピン人の平均年収が50万円ですから、普通に暮らせば2年間は生活できます。
とはいえ、新倉さんは決して裕福な方ではありません。警備会社で真面目に働き、日本での生活を節制して妻と子のために資金を作っていたのです。
新倉さんは60歳で定年すると、2013年9月にフィリピンに移住しました。これでやっと妻と子と家族一緒に暮らせると喜んでいたことでしょう。ところが、そのわずか3か月後、2013年12月29日、フィリピンのカビテ州ダスマリニャス市サンタルシアの路上で、彼は無残に殺害されました。後ろから銃で射殺されたのです。殺害を依頼したのは妻です。実行犯に渡したお金は10万ペソ(約21万5千円)だったそうです。
出会いから20年以上、新倉さんは妻にお金を渡し続け、やっと幸せな家庭生活を送れると思った矢先、信じていた妻に殺されてしまったわけです。
全財産をはたいたり、命を落としてまで、そうまでして結婚とはしなければいけないものなんでしょうか?
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