地域から日本を変えるには〜政治とSDGsの視点から
(Photo by Takafumi Yamashita on Unsplash)
日本再生のような話になると、どうしても注目されるのは自動車産業や電子産業、IT産業の話になるだろう。だが、これらの産業がグローバルに成功や成長するかということは、私たちの暮らしに直接影響があるわけではない。私たちが「日本を変える」と言うときに考えるべきことはGDPなどの国家レベルのことではなく、「私たちの暮らす地域をどんなものにしていきたいか?」という自分ごとの問いを持つ必要がある。それはすなわち、「自分たちの社会を自分たちの手に取り戻すこと」を意味する。さて、この問いに答えるべく、政治とSDGsの2つの視点から捉え直してみたい。
視点1:政治は地域を変えることができるか?
政治で地域を変えようと思ったら、地方政治に注目する必要がある。そのなかで、一つ注目したい記事が、最近知事に就任した、三重県の一見知事の取り組みだ。経済課題の解決に向け、関係する企業や市町を集めた検討の場を相次ぎ立ち上げ始めているという。一見知事は、「関係する自治体に当事者意識を持って対策を考えてもらうため、最初から加わっていただく」と、その手法の意義を語っている。
その一方、この記事の中では、「こうした手法には課題がないわけではない。複数の関係を交え、実現できる対策を迅速に打ち出せるかどうかだ」と懸念も示されている。「企業と県民のいずれかが負担を背負うようなジレンマが生まれたときに、一見氏のリーダーシップを問われる」とも指摘されている。
この記事からも垣間見れる通り、「政治家は目標を具体的に示し、そこに多くの関係者を巻き込み、期限内に結果を出さなければならない」という旧来型のリーダーの形を期待されていることが分かる。そのため、もし一見知事が市民・民間企業の主体性の発揮をじっくりと待とうものなら、きっと「リーダーシップの欠如」と批判されてしまうだろう。「地域を変える」という意味では、ほんとうに大切なことは、トップダウンの利益誘導型政治を排除し、時間はかかってもボトムアップで市民・民間企業の主体性に基づいて合意形成がなされていくことであるはずだ。
このような本質的なスローリーダーシップが発揮しづらいのが、政治家の弱みである。しかし、一見知事のように「市民・民間企業とともに地域を変える」という方針を打ち出し、そのための具体的な政策を共創的に生み出していくことが、地域が変わる必要条件であることは確かだ。こういった首長が次々と現れてほしい。
視点2:SDGsは地域を変えることができるだろうか?
「地域から日本を変える」という可能性をもっとも後押ししてくれているのが、SDGsのコンセプトではないだろうか。
次の記事では、内閣府が、2022年度の「SDGs未来都市」30自治体に、新たに新潟県、新潟市、新潟県佐渡市と長野県上田市、同根羽村を選んだことが報じられている。「国は、持続可能なまちづくりに向け、自治体のSDGsの取り組みを推進するために、モデルとなる先進事例の創出と普及展開をめざしている」という意図である。
地域を変える取り組みとして日本が大々的に取り組んできた「地方創生」という文脈では、「各地域の経済的自立、そのための地域コンテンツの魅力化と6次産業化、インバウンド観光誘致のための発信」など、同じルールでの競争が求められた。さらに成功事例の横展開も促進されたため、あらゆる自治体が同じような施策をとることになり、結果、地域の特色がかえって見えなくなってしまう、ということも起きていた。SDGs未来都市も、ともすると「モデル事業の横展開」によって、「SDGs的な都市のありふれ化」が起きてしまいかねない。これが中央官庁主導のまちづくり政策の失敗パターンだ。
このようなことに陥らないためには、各地域が「自分たちで、自分たちの地域の持続可能性を観察し、対話し、共創する」という時間のかかるプロセスを丁寧に進めていかなければならない。地球規模の課題に対して、市民が集まり、「私たちの地域から世界を変えるには」という問いで対話し、行動していくことが理想であろう。
たとえば次の記事では、「ゼロウェイストタウン宣言」をした上勝町が訪問先としても注目をされているという。地域の特性は、必ずしも地域の観光資源が規定するものではなく、現代市民の文化や想い、取り組みが生み出すものでもある。今その地に生きている人たちの個性が輝けば、あらゆる地域は「その人たちらしさ」でユニークなものになっていくはずである。
各地域が、SDGsを「何かお手本があるもの」として取り入れるのではなく、「自分たち自身で、地域を観察し、対話し、共創するもの」という「市民性の思想」が広がれば、こんなに可能性にあふれた地球規模の運動はめったにないだろう。そのとき、この「市民性の思想」自体を広げるスローリーダーシップを首長がとることで、私たちは日本を地域から変えていけるのではないだろうか。