ユーロ圏インフレ情勢にも潮目到来か?
エネルギー価格が約2年ぶりに下落
金融市場はSVB破綻に端を発する国際金融不安を徐々に克服しつつあり、再び主要中銀のインフレ抑制に注視し始めているように見えます。ドル/円相場に関しては植田新体制での初会合ならびに利上げ停止を控えたFOMCを織り込みながら130円台で値固めできるかどうかというのが4月の注目点となるのでしょう。もちろん、今後、新たな金融機関の名前が経営不安と共に浮上し、FOMCにおいて利上げ停止を飛ばして利下げ転換まで視野に入れる展開に至れば、再び130円割れが争点化する可能性は高まるでしょうが、あくまでリスクシナリオという位置づけです。市場参加者は欧米の基礎的経済指標をウォッチしながら政策金利の先行きに右往左往する時間帯に当面は戻っていきそうです。
この点、米国よりもインフレ動向に難を抱えるユーロ圏において3月消費者物価指数(HICP)が3月31日に公表されています(以下特に断らない限り変化率は前年比で議論します:
3月HICPは総合ベースで+6.9%と前月の+8.5%から顕著に鈍化していますが、変動の大きいエネルギー、食品、アルコール飲料、タバコ除くコアベースでは+5.6%から+5.7%へ加速しており、再び過去最高を更新しました。項目別にみると今回は象徴的な動きが見られました。それはエネルギー価格が13.7%から▲0.9%と2021年2月以来、約2年ぶりのマイナスに転じたことです。後述するように、昨年のHICPを見ると4月と9月に伸び幅が急拡大しています。これは同時期にエネルギー価格が急騰したためであり、今回はその影響が剥落したということです。しかし一方、食料・アルコール・タバコが+15.0%から+15.4%へ加速しています。一部食料に関し、天候不順(暖冬)の影響で価格が押し上げられているという報道も見られています。例えば秋に種を撒いて、冬を越し、春ないし初夏に収穫する冬小麦(※)の収穫は今季不良に終わるとの懸念もあるようです(※これに対し春に種を撒いて、夏に育て、秋に収穫をするものを春小麦と呼ぶそうです)。
片や、ECBが重視することを宣言済みのコア指数について中身を見ると、好材料と悪材料が混在しています。好材料としてはエネルギー以外の鉱工業財が+6.8%から+6.6%へと鈍化していることが挙げられるますが、賃金を密接に関係するサービス価格については+4.8%から+5.0%へと加速しており、過去最高の伸びを記録しています。これまでエネルギー価格主導で押し上げられてきた一般物価の影響がラグを伴って雇用・賃金市場に浸透し始めている可能性が感じられます。
5月以降のコア指数鈍化に期待
こうしたHICPをECBはどう受け止めるのでしょうか。次回5月4日の政策理事会までには4月HICP(5月2日公表予定)も確認可能です。現状のようにコア指数が毎月加速して過去最高を記録している状況では利上げ路線の転換を提示することはできないと考えるのが普通でしょう。
そこで次の注目点はコア指数のピークアウト時期になるわけですが、昨年の例を振り返るとコアHICPが加速したのは昨年4月と9月であり(ともに前月比で+0.5%ポイントの加速)、これらの月を境として2023年のコア指数鈍化は期待できるように思えます。仮に4月HICPでコア指数の鈍化が実現すれば、2022年6月以来、10か月ぶりであり、その直後に開催となる5月会合で+50bpから+25bpへペースダウンを決断するには格好の材料となるでしょう。また、欧州委員会が四半期に一度実施する『European Business Cycle Indicators』を見ても、今後のコア指数が下振れる可能性は感じます:
図に示されるように製造業やサービス業が「事業活動の阻害要因」と挙げる諸要因のうち、「労働力(Labour)」は過去最高水準に達しています。それ自体は賃金押し上げ要因であり、コア指数加速を示唆するものでしょう。
一方、「需要不足(Insufficient Demand)」の回答が顕著に増えていることが分かります。需給ギャップの縮小が示唆される中、物価上昇圧力の減退をECBとしては期待するデータと言えます。また、わずかではありますが「資金繰り(Financial Constraints)」との回答もじわじわ増えてきています。これは利上げの効果が着実に事業活動に浸透しているという兆候でもあり、やはり利上げペースダウンを正当化する材料です。こうした定性データに加え、コアHICP減速という定量データも確認されてくれば、ECBはより決断しやすくなるはずです。
それでも夏前までは利上げ継続
もっとも、域内の賃金情勢は依然として力強いという評価が根本的に変わるものでもないでしょう。踏み切れるのは利上げペースの鈍化までであり、その終了時期を探るかのような情報発信はまだ5月時点では困難と推測します。少なくとも2023年上半期の最低賃金はいずれの加盟国においても前期比で加速傾向にあり、それ自体が企業の強気な価格設定行動を支える可能性があります。メインシナリオとしては「6月会合まで利上げ、7月に停止」、ややアップサイドシナリオとして「7月まで利上げ、9月スタッフ見通しと共に停止」などが考えられ、確率としてはそれぞれ60%と40%と言ったところでしょうか。いずれにせよ、巷説で予測される通り、FRBの5月利上げ終了を前提とするならば、やはり欧米金利差からユーロの対ドル相場が強含むという可能性は考えられます。
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