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社会は「変わる」のではなく、変えるもの。みんなで、変えるもの

> 光文社新書note読者の皆さまへ

私たちが働きながら子育てができるのは、保育園や幼稚園、そして、学校の先生たちのおかげです。先生方が真摯に向き合ってくださるからこそ、子どもたちは親元を離れても活き活きと様々な刺激をもらい、親でも驚くような成長をします。本当に、頭が上がりません。でも、そんな私たちにとってなくてはならない保育教育現場では、子どもたちへのわいせつ行為が、あろうことか、過去最高になっています。この現状、絶対に、変えねばならないと思います。


「誰も……、いない、だと!?」

2020年11月12日、永田町にある自民党本部。自民党の政務調査会・女性活躍推進特別委員会。子どもたちを性犯罪から守るための仕組み、日本版DBSについての講演をご依頼いただいた私は、報道陣がカメラを構える中、意気揚々と指定された部屋に乗り込みました。そこには、本件で声をかけてくださった木村弥生議員と、座長の松島みどり議員がいらっしゃいました。関係省庁の官僚の皆さまも勢揃いです。しかし……! 肝心の議員の席に、誰もいねえ!!

これ、いったいどうなっちゃうの!?

しかし、無常にも時は過ぎていき、議員席空席のまま定刻に。座長の松島みどり議員、座長代理の木村議員が粛々と挨拶したあと、メディアの方々は写真撮影をして退出していきました(下図)。会議は、自由闊達な議論を担保するために、非公開なのです。でも、自由闊達な議論も何も、議論する議員がいないやないか! どうして、こんなことに……!?

画像出典元:NHK、著者編集

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時を遡ること数週間前。2020年10月頃、私たち認定NPO法人フローレンスは、行き詰まっていました。

同年6月に、「キッズラインショック(キッズライン社登録のベビーシッターが立て続けに、児童に対するわいせつ容疑で逮捕された事件)」をきっかけに声をあげ、被害児童の親御さんたちと記者会見したり、日本版DBSの意見書と2万件を超える賛同署名を大臣に届けたり、そして、専門家と意見交換しつつ、情報収集し、社内で議論。それらをまとめた資料を議員や官僚に精力的に届けていました。全ては、子どもたちを卑劣な性暴力から守るために。

夏頃は、あらゆるメディアが本件を取り上げてくださって、社会の関心も高まり、心ある政治家は耳を傾けてくれるようになっていました。正直「このままいける!」と思っていました。

ところが……! 制度の実現に向けて具体的な話に入ると、全然前に進みません。いくつかの「できない理由」は想定していましたが、議員・官僚各位に相談したり、あるいは専門家に知見をお借りすることで、乗り越えてきました。ところが、乗り越えても乗り越えても、また別の「できない理由」が目の前に立ちはだかります。

「でも、こんな法律もあって、できないみたいですよ」

「あ、それはうちの管轄じゃないので、〇〇省にご確認ください」

これらのハードルは、ひとつひとつ、みんなで乗り越えていけばいいことです。でも、このハードな日々の中、私の心の中にフツフツと沸きあがり、ジワジワと気力を奪っていく思いがありました。「私たちは、いったい、誰と戦っているんだろう……?」

例えば、本件に対して鬼の形相で猛反対する政治家や官僚がいれば、根気強く対話を続けるという道がありますし、闘志も湧きます。少なくとも、やるべきことは明確になるでしょう。でも、そういう人は、どんなに奥に分け入っても、いないのです。「きみぃ! こんなふざけた制度は絶対に許さんぞ!」が、ない。誰も敵意を持って反対しないのです。でも、できない理由だけはきっちり見つけてくる。「できない理由じゃなくて、できる理由を見つけてきてくださいよーーー!」と、何回叫んだかわかりません(心の中で)。

まるで、急な坂を転がり落ちる鉄球を見ている気分です。「社会の慣性の法則」とでもいいましょうか、先人がつけた轍の上に、道はすでに完成しているようなのです。急勾配を転がり落ちる鉄球の進路は、坂の上から鉄球を手放した本人たちでさえ、変えられない。私たちは、球が進む逆側から手を振って、「こっちです!!」と必死に叫びます。坂の上の人たちも「うんうん、そっちがいいね!」と言っています。でも、勢いを増した鉄球は、誰の意向も汲むことなく、すでに決められた道を辿り続けるのです。

制度を変えることは常にリスクを伴います。社会は様々な要素が複雑に絡み合ってできているので、何かを変えれば予想だにしない場所に影響が出ることもあります。だから、この「社会の慣性の法則」にも、それなりの道理があるのです。政治家や官僚の皆さまが変化に慎重な理由は、とてもよくわかります。

でも、これだけは言わせて欲しい。"変えるリスク“はもちろんある。でも、変えないリスクを無視していいのか。日本版DBSが実現すれば、様々な法律や慣習に変化が起こります。それは、リスクに違いありません。でも、今まさに子どもたちが晒されているリスクを、どう考えるの……!?

私たちがこの活動を勧めている最中にも、保育・教育現場で子どもたちが性暴力に傷つけられたというニュースが次々と入ってきます。その都度、被害を受けたご家族に申し訳ない気持ち、変わっていかない現状への苛立ち、無力感、不甲斐なさ……これらの負の感情が渾然一体となってドッと押し寄せてきます。さらに、この頃に増えてきたSNSでの批判が、とぐろを巻いた負の感情に疲労感を上積みしてきて、もはや私のライフゲージは底を突く寸前! 曰く、「加害者の人権無視!」とか、「売名行為(笑)」とか……。夜な夜な、妻に愚痴っておりました(ごめん)。

😢

そんなある日のこと、自民党の木村弥生議員からご連絡をいただきました。自民党の政務調査会・女性活躍推進特別委員会で、日本版DBSについての話をしてくれないか、と。自民党の政務調査会とは、党の政策の調査研究と立案を担当し、審議決定をする機関です。つまり、ここで日本版DBSを議員各位に共有することは、法律を変える大きな一歩となります!

木村議員は、野田聖子議員らと共に国会議員として長らくこの問題に取り組まれており、地道に日本版DBS実現を働きかけてくださっていました。最近の世論の高まりで、党内に本件を打ち込む機会が巡ってきたのです。そして、私がこの問題に関心を持ち始めた当初に、子どもに対する性暴力対策をめぐる政治の動きを詳しく教えてくださったのが、木村議員でした。

画像:木村議員から日本版DBSにまつわる政治の動きについてご教示いただいていた時の様子

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もちろん「やらいでか🔥」というわけで、早速準備に取り掛かりましたが、一抹の不安もありました。自民党の議員に、この問題に関心を寄せてくれる人がどれくらいいるのだろうか、と。私個人の勝手なイメージですが、保守的な考えを持っている人が多そう……。いったい、委員会当日に何人来てくれるのだろうか……? むしろ、集中砲火にあったりするかも? いや、でもまさか、そんな、ねぇ?




ここで、冒頭のシーンにい戻ります。 集中砲火どころか、そもそも議員がきてないぢゃないか! 

しかし、木村議員が冒頭の挨拶を終え、いよいよ私にマイクが回ってきてしまいました。 なんてこった! いったい誰に何を説明すればいいんだ! こうなりゃせめて、官僚の皆さまの記憶に留まるようなプレゼンをしてやるッ! と、ガッチガチになりながら発表資料を手に取った時でした。

ドラマのワンシーンさながらにバンッと勢いよくドアが開き、議員の皆さまがぞろぞろ入ってきたのです。「ごめんなさい! 本会議があって、遅れました!」と。そうか! 国会があったんだ!

メデイアと入れ替わりで、議員席はあっという間にほぼ満員。突然、場が活気付きました。「おお、『半沢直樹』みたい! 皆さん来てくれた!、あー、よかった~、助かった~😭」という安心感で私の緊張もほぐれ、思う存分話ができました。

熱を込め過ぎて少々長引いてしまった講義が終わるやいなや、議員の皆様から熱い拍手をいただきました。その後の質疑応答では、前向きかつ建設的な質問がたくさん! これまでの活動では、糠に釘を打っているみたいな反応が多かった中、久しぶりに手応えを感じました。 

そしてその翌日……、なんと、石川あきまさ議員、浮島とも子議員が文部科学委員会で、そして、稲田朋美議員が法務委員会で、教育現場での児童へのわいせつ行為について、とても鋭い質問をしてくださいました。萩生田文部科学大臣、そして、上川法務大臣から、それぞれ前向きな答弁あり! よっしゃぁ!

さらに後日、野田聖子議員と木村弥生議員らが、この委員会用に作成した資料をまとめて、上川法務大臣に手渡し、日本版DBSの実現を直接訴えてくださいました。みんなで積み上げてきた想いが、じわじわと政治の世界に浸透していくのを感じました。


🔥


それから、およそひと月、2020年12月25日。「キッズラインショック」をきっかけに私たちが声をあげてから、およそ半年。「社会の慣性の法則」に支配されていた鉄球が、違った方向に動き出す瞬間が訪れました。この日、第5次男女共同参画基本計画が閣議決定されました。その中に、日本版DBSの概念がしっかり明記されていたのです。該当部分を引用します。

教育・保育施設等や子供が活躍する場(放課後児童クラブ、学習塾、スポーツクラブ等)において、子供に対するわいせつ行為が行われないよう、法令等に基づく現行の枠組みとの関係を整理し、海外の法的枠組も参考にしつつ、そこで働く際に性犯罪歴がないことの証明書を求めることを検討するなど、防止のために必要な環境整備を図る。

「閣議決定」とは、政府の方針の中でもっとも重いものです。行政は、この意思決定に縛られます。もちろん、上記の文面をみれば明らかな通り、これで日本版DBSの実現が決まったわけではありません。「検討することが決まった」という感じです。しかし、これは大きな一歩です。何せ、政府が公式に「検討する」と言ったのだから! 

これまでは、あくまで私たちフローレンスや関係各位が市民の立場で政治行政に日本版DBSの実現を働きかけてきました。でもこれからは、政府が旗を振って本制度の実現に向けて動くのです。関係者から内幕の話を聞くと、この文言は、直前まで基本計画の中には入っていなかったそうです。それが、政府与党の関係各位のご尽力により、ギリギリで差し込まれたのだとか。本当に、なんとお礼を申し上げれば良いか……!

既に、関係各省は急ピッチで動いています。2021年1月28日には、厚生労働省の社会保障審議会児童部会「子どもの預かりサービスに関する専門委員会」が、児童に対するわいせつ行為等の問題が発覚したベビーシッター事業者を、個人事業者も含めて、データベース化する方針を示しました! これが実現すれば、ベビーシッターを利用する前に、その事業者が過去にわいせつ行為を行っていないか、確認できるようになります。


そして、文部科学省でも、大きな進展がありました。児童に対するわいせつ行為で懲戒免職になった教員(幼稚園教諭含む)がたった3年で復帰できる、という法律を変えるには至りませんでしたが、わいせつ教員の情報を40年間データベースに残すことを決定! つい先日の2月26日から、制度運用が開始されています。学校側は、教員を雇用する際にこのデータベースを確認します。これで実質的に、わいせつ行為で懲戒免職になった教員は、教育現場には戻れなくなります。


厚労省、文科省の施策にはそれぞれ課題があり、改善していく必要があるでしょう。しかし、この制度設計に携わってくれた民間の専門委員、官僚、議員は、厳しい法律の制約がある中で、子どもたちを守るために今できることをやろうと、知恵を絞ってくださいました。議事録や報告書の一文一文に、苦悩と工夫の跡をビシビシ感じます。本当に、凄いです。心から尊敬します。

そしてもうひとつ、各省がそれぞれの業界の中で規制を強めても、小児性愛者は業界をまたいで犯行に及ぶ問題がありました。これを解決するには、行政の縦割りを廃し、「子どもと関わる業界全て」が連携して対策を打たねばなりません。これは、実現のハードルが極めて高いと考えられていました。しかし、子どもの安全を守るには、絶対に、必要です。

画像:2021年2月4日、木村弥生議員が、まさにこの点を衆議院予算委員会で総理に質問してくださいました!「子どもを守るには『縦割り行政の打破』が必要です!」

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ついにここも、動き始めました。2021年2月、「行政の縦割り打破」を目的とした、自民党の行政改革推進本部が日本版DBS実現のためのプロジェクトチームを発足させたのです。実は私も講師としてお声がけいただき、参加議員とご相談しながらプロジェクトを前に進めています!(下図) さらに、自民党の若手議員が中心となり、親子にまつわる社会問題を一元的に扱う「子ども家庭庁」創設の議論も始まりました。こちらの勉強会にも講師としてお声がけいただいてます!

画像:行政改革推進本部のプロジェクトチームで、日本版DBSについて講演! この時はもう、空気が違いました。議員各位、真摯に話を聞いてくださいました。

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さらに、野党も、頑張ってくれています! 玉木雄一郎代表率いる国民民主党は、日本版DBSの実現に向けて国会に法案を提出予定! 国会審議でも、鋭くも建設的な質問を矢継ぎ早に繰り出してくれています子どもたちを守るため、与野党の枠を超えて、政治が動いています。

政治って、ろくでもないものだと思っていたけれど、いざ現場に足を運んで議員の皆さまと膝を突き合わせて話をしてみると、「社会を良くしよう」と粉骨砕身で頑張っている人の多さにウルウルしました。


💨💨💨


保育・教育現場から性犯罪をなくすには、まだまだ多くの課題があります。これからはいよいよ、法律を変えるステージに突入です。かつてない困難を伴うはずです。でも、やらねばなりません。だって、次にこんなチャンスが来るのは、いつになるかわかりません。

「政策の窓」という言葉があります。小さな小さな行政の「窓」に、あれもやれ! これもやれ! と、私たちも含む関係団体が我先にと殺到し、陳情や政策案を放り込もうとしています。社会問題は星の数ほどありますが、法律や制度を変えられる官僚や政治家の数は限られています。彼らの多くが、限界に近いレベルで働いてくれています。よって、解決すべき社会問題には優先順位をつけねばなりません。「窓」の周囲は、凄まじい交通渋滞が起こっているわけです。普通、ここに割って入るなんてことは、まずできません。

その交通整理をしているのは、政治家であり、その政治家を動かしているのは世論です。「キッズラインショック」に端を発し、関係各位の働きかけで世論が動き、政治家が動き、そして今、私たちの目の前には「政策の窓」が小さく開いています。確かに、開いているのです。でも、この窓はいつ閉じるかわかりません。

そうなった時に、次にこの窓が私たちの前に開くのは、いつでしょうか。何年先になるかわかりませんが、確実に言えるのは、また子どもが酷い性暴力にあった時でしょう。そんな悲劇は、もうたくさんです。今、わずかに開いている窓を、閉めるわけにはいかないのです。

今、この瞬間も、中枢にいる方々が頑張ってくれています。しかし、まだまだ先行きは不透明です。ぜひ、この与野党の政治家の皆さまを、みんなで後押ししたいです。この記事でも、日本版DBSの事に触れている記事でもなんでもいいです。

どうか、ぜひとも、拡散していただけないでしょうか!

「世論」とは詰まるところ、私たちひとりとりの思いです。社会を変えられるのは、子どもたちを守れるのは、私たちだけです。私は、今回の活動を通じて、このことを痛感しています。

社会は、どこかの凄い人が勝手に変えてくれるものじゃありません。私たちが、変えないといけないんです。私たち以外に、やってくれる人は、他に誰もいないんです。

どうか、よろしくお願い致します!!!


ついに、自民・公明両党が与党政策責任者会議で、小児わいせつの問題について議論開始! 今国会に法案を提出予定!? この動き、どうなる!?


国民民主党も、野党の立場から与党にがんがんプレッシャーをかけてくださってます! 野党は、こうでなきゃ!!


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マーケター / 認定NPO法人フローレンス 代表室。著書『パパの家庭進出が ニッポンを変えるのだ!』 ▶︎ http://amzn.to/2QTNtCn 。前職はリクルートHDの新規事業開発室でプロダクトマネージャー。慶応義塾大学総合政策学部中退。妻と娘と三人暮らし