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岩手県紫波町「オガール地区」から学ぶ、地域ブランディング

年間交流人口104万人、10年連続地価上昇、雇用創出250人――。
これらは人口3万2915人(2022年度末)の町にある官民複合施設エリア「オガール」が生み出した数字だ。

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ゆがむ官製都市 NIKKEI Investigation

国の補助金に頼らない公民連携の成功事例として紹介されることが多い紫波町。

仕事のプロジェクトで公民連携を調査していて知ったのですが…

裏側をトレースしていくと、地域のマーケティング・ブランディングに取り組むヒントに溢れていました。

街を活性化するために、
・とりあえず人気のテナントを集める
・有名な建築家に依頼をする
などではなく、
マーケティング思考をもって地域が持続的に成長する仕組みをつくるとは、こういうことか…

と考えさせられました。

マーケティング思考をもった地域づくりとして学びや他地域に活かしたいポイントをまとめていきます。

ポイントはこの3つです。

1. 自分たちにとって重要な顧客を定義
顧客は「消費を目的としない人を集める」という定義をし、景気に左右れずに集客ができる仕組みをつくる
2. 競合定義と価値づくり

商業施設をつくってもAmazonに勝てないため、町営の図書館を魅力的で人が集まる場所にする
3.価値伝達に一貫性を持たせる 
町のデザインガイドラインをつくり、訪れたい場所・空間をつくる設計をする

最初に、地域づくりのポイントをシステム図で整理をしてみました。

詳細を解説していきます。

1. 自分たちにとって重要な顧客を定義

オガール地区は、初期の顧客を「消費を目的としない人」と定義されていたようです。

普通に考えたら、お金を落としてくれる人を集めよう…という発想になります。

その裏がインタビューで語られていました。

オガールプロジェクトの集客のポイントは、「消費を目的としない人を集める」というコンセプトにある。景気に左右されずに一定の集客ができれば、そこにはおのずと商業が成立するという考えからだ。
フットボールセンターと情報交流館、そして5月に業務開始予定の町役場を訪れる人を合わせて30万人を集めるのが当初の目標だった。フットボールセンターこそ当初の目論見をやや下回ったが、情報交流館だけで30万人を突破、初年度で目標をクリアした。

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オガールプロジェクト(1) 公ができなかったから民がやる

この顧客の優先順位を設定していたことは、非常に重要なポイントだと感じています。
急いでマネタイズしないと…となると、表面的な打ち手に走ってしまいがちです。

最初に「自分たちにとって重要な顧客は誰か?」を定義することを忘れないようにしたいですね。

2. 競合を見極めて独自価値を研ぎ澄ます

顧客定義と合わせて必要なのは、競合定義です。

地域のプロジェクトで、
自分たちも○○地域みたいになりたい!
という何となくの競合定義がされていることを見かけます。

紫波町の競合定義に関しては、インタビューで本質が語られていました。

紫波町に住んでいる人たちは、平気で、何のためらいもなく盛岡に買い物に行きます。もっと言えば、アマゾンで買うわけです。「地元の駅前だから買おう」なんてことは、基本的にはないんです。地方の小売店がアマゾンと戦って勝てるわけないじゃないですか。小売りは本当に厳しい状況だと思います。

けれど、マーケットが大きくならなければ不動産の価値は上がらない。それも確かです。では、マーケットは何によってつくられるかというと、それは「人気」です。そのために何をするのかを考えた結果、まず普遍的な集客装置、つまり、どんな時代になっても必ずここに人が集まるという仕掛けをつくろうと思ったんです。

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オガールプロジェクト(2) 仕掛け人・岡崎正信氏に聞く

自分たちの競合をAmazonや他地域の商業施設と捉えて、そことの違いが何かを徹底的に考え抜かれている点が素晴らしいです。

ここまでの顧客と競合定義から、普遍的な集客装置としての図書館をつくる企画がつくられたとのこと。

図書館の詳細は、下記の記事にわかりやすくまとまっていました。

少し話が脱線します。

10月に台湾の高雄に訪れた際に、市立図書館にこれでもか…!と魅力が集約されていました。

それっぽい商業施設をつくるのではなく、「人が集まりたくなる場所」に集中投資をする発想が地域ブランディングを考える上で大切だと改めて感じています。

3. 地域の価値伝達に一貫性を持たせる

紫波町はデザインガイドライン作成に、早いタイミングで投資をしてきたとのことです。

このデザインガイドラインは、地域に関係なくてもブランディングに関わる人は必読だと思います。

オガール地区 デザインガイドライン

プロジェクトの意味、関わる人の参加方法、街並み、ロゴなど…
ハードからソフトまでブランド価値に一貫性を保つための記述が丁寧にされています。

デザインガイドラインの工夫ポイントに関しては、「町の未来をこの手でつくる 紫波町オガールプロジェクト」の書籍に詳しく書かれていました。

ガイドラインでは、建物の高さ、屋根の色や材質、塀や垣根、室外機など美観を損ねる付属物への配慮、看板や広告の設置場所、道路の舗装、駐車場の仕様など、微細な部分も具体的なサイズや手法を挙げ、デザインのアウトラインを明示している。  
具体的なデザインに加え、ガイドラインが示したのは「エリアマネジメント」の目的と方法だ。「これまで行われてきた成長型の地域づくりは、行政による民間開発のコントロールや行政が中心となった開発などにより進められてきた。しかし、オガール地区では、行政主導ではなく個性豊かで住民・事業主・地権者などに身近な地域を実現することが重要である」と訴え、その進め方を記している。  

猪谷千香. 町の未来をこの手でつくる 紫波町オガールプロジェクト

人が集まりたくなる場所・空間づくりを地域全体で行なっていくためにはルールが必要です。
一貫性がない場所には人は魅力を感じません。

なぜ紫波町は何度も訪れたくなる場所づくりができているのか?
を考えると、その根底にはデザインガイドラインが丁寧につくられており、それが持続的な地域づくりにつながっていることがわかります。

システムマップを再度見て全体像を確認してみましょう。

地域のブランディングをするとは、
単に有名デザイナーや建築家に依頼をしてシンボルをつくることではなく、
1. 自分たちの顧客は誰かを定義する
2. 自分たちの独自価値を定義する
3. 独自価値をブラさないためのルールをつくる
この3つの土台をつくった上で、参加型でつくり上げることが大切だと考えています。

これは、地域に限らずどんな組織でブランディングに取り組む時も同じ。

外部丸投げで良いブランドがつくられることはありません。

紫波町・オガール地区の地域づくりのプロセスをトレースすることは、ブランディング・マーケティングの本質とは何かを考えさせてもらえます。

地域ブランディングに関わる人は「町の未来をこの手でつくる 紫波町オガールプロジェクト」の書籍はぜひ読んでみてください。

近いうちにフィールドワークとして訪れたいと考えています。

そして、今後もマーケティングの力で、持続的な地域や文化をつくる可能性を探索していきたいと思います。