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Q3のGDP、日銀利上げに「渡りに船」か?

12月利上げにとって「渡りに船」
もっぱら12月日銀会合への見通しを尋ねられることが増えております。植田総裁は「各会合で判断する」という趣旨を繰り返すにとどめており、素っ気ないですが、市場に予断を持たせないこの回答こそベストでしょう。

この点、下記記事にあるように、為替変動こそ最も重要な変数になりそうなことは言うまでもありません。後述する通り、7月のロジックを踏襲するならば為替以上に重要な材料はあり得ないでしょう

とはいえ、展望レポートとの平仄が意識されている以上、GDPの仕上がりを押さえることは基本となります。この点、11月15日、内閣府から公表された2024年7~9月期の実質GDP成長率(1次速報値)の内容は注目に値しました:

結果は前期比年率+0.9%(前期比+0.2%)で、市場予想の中心である前期比年率+0.7%を上回りました。成長をけん引したのは個人消費で前期比+0.9%と2022年4~6月期以来、9期ぶりの高い伸び幅を記録し、成長率全体に対する寄与度は+0.5%ポイントに達しました:

背景として指摘されるのは3兆円超の定額減税ですが、年前半は自動車販売が認証不正問題で抑制されていたという経緯もあり、それも含めた一時的要因の剥落が消費を押し上げているとの解釈が腑に落ちます。言い換えれば、そうした一過性の追い風が個人消費を押し上げているのだとすれば、今回の勢いが続く保証はないでしょう

片や、個人消費と共に民需の柱である設備投資は前期比▲0.2%と2期ぶりに減少に転じていました。もっとも、これに関して言えば、前期が大きめの伸び(前期比+0.9%)であったこと、台風を受けて操業が停止された工場があったことを踏まえると、過度に不安視する必要は無いという見方もあります(季節調整前原系列では前年比+5.4%、年初来3期平均でも+5.0%の増勢が維持されています)。日々報じられている通り、少なくとも今期の企業収益は好調が維持されています。

個人消費で好調が維持され、設備投資も大きく腰折れたわけでもないのに成長率が精彩を欠いているのは後述するように純輸出が大幅なマイナス寄与となったためです。この点は後述します。

今回の結果は金融市場にとって看過できないように思えます。成長率自体に大きなサプライズは無くとも、日銀が「堅調な内需」を主張するのは十分可能な数字と思われるからです。現在利上げを織り込みつつある12月18~19日の日銀金融政策決定会合にとって、格好のエクスキューズになった可能性はあります。

もちろん、厳密な話をすれば、今回、内需を支えたのは個人消費だけで、民間在庫変動と政府消費(それぞれ寄与度は+0.1%ポイントずつ)を除いた最終需要は前期比+0.1%とほぼ伸びていません。よって、利上げの正当性に疑義を呈する向きも当然あるでしょう。QUICK月次調査では加藤社の7割が現状維持に構えています:

既に円安経由でインフレの上方リスクが増している以上、7月と同じロジックで利上げする誘因は存在している。

表立って為替を理由にしたくないとすれば、今回の個人消費の数字は「渡りに船」となる可能性があるでしょう。
 
インバウンド消費、「終わりの始まり」なのか?
個人消費とは裏腹に今回、弱さが目立ったのが外需でした。特にインバウンド消費を映す「非居住者家計の国内での直接購入」は前期比▲13.3%と2022年4~6月期以来、8期ぶりのマイナスでした。2桁マイナスはパンデミック発生を受けて世界の国境が閉ざされた直後である2020年4~6月期(前期比▲81.0%)以来です

7~9月は円相場が急騰したことや複数の台風が上陸したことなど旅行需要の抑制を強いる要因があったものの、果たしてそれだけが原因でしょうか。筆者はかねて人手不足などに起因するインバウンド消費の頭打ちを懸念してきました。今回のマイナスが「終わりの始まり」の予兆なのかどうかは気にしたいところです。インバウンド消費の減退を背景としたサービス輸出の押し下げもあって輸出全体では前期比+0.4%と極めて小さな伸びにとどまっています。一方、輸入全体では前期比+2.1%と伸びており、純輸出の寄与度は▲0.4%ポイントと成長を抑制しています:

インバウンド需要に関し、それがブームで終わる可能性やピークアウトする懸念は星野社長がPivotで割と率直なご意見を述べており、非常に面白いものでした。当事者である方が口にする発言としては興味深いものがあります:

拡がる名実GDPの乖離
今回の結果を日銀がどう汲み取るかは最大の関心事となります。これで実質GDP成長率は2四半期連続のプラスであり、堅調と言い張れないことはありません。しかし、過去2年間の円安を通じ、家計部門を中心としてインフレの痛みが浸透しつつあるのも間違いないでしょう。図に示すように、GDPの名実格差は拡大の一途を辿っています。名目GDPに対する実質GDPの規模は着実に小さくなっている、という言い方でも良いでしょう:

定額減税を受けた今期の仕上がりはさておき、インフレ税により可処分所得が目減りし、基本的には個人消費が思うように伸びていないというのが近年の日本で起きていることです。円安を背景としてインバウンド需要が高まり、外国人の消費・投資意欲に近い財・サービスから値段が押し上げられ、日本人の消費・投資意欲がクラウドアウトされているという側面もありそうです。円安を通じて日本はインフレを輸入している状態であり、そのインフレに見合った名目賃金の上昇が確保されていないので実質GDPは思うように伸びていかない…そのような実情が透けます

実際、雇用者報酬を見れば名目で伸びている一方、実質で減っているのだから必然の帰結です。個人消費も名実ベースで乖離がはっきりしています。10~12月期は定額減税や自動車販売にまつわる一時的な押し上げ効果が剥落するため個人消費は減少に転じる可能性も指摘されます:

結局、処方箋は利上げ
もちろん、だから「日銀は利上げすべきではない」という話ではありません。7~9月期GDPにおける個人消費は強いものではありましたが、そのスナップショットを理由に利上げを強弁するのは無理筋という話です。利上げがあるとすれば7月同様、「想定外の円安によるインフレリスクの高まり」と整理する方が腑に落ちますし、その可能性は確かに高いでしょう。

今後、個人消費が弱含むとしても、それは恐らく円安経由でインフレを輸入していることに起因しているはずであり、どの道、利上げは処方箋として検討せざるを得ないはずです。もちろん、最終的には米11月雇用統計を筆頭に株式市場の動静を見極めることが前提となりそうですが、展望レポートを待たず、12月に利上げが実施される可能性は高まっているようには感じます。

この点、気になるのは投機の円売りが積み上がっている中で日銀利上げを迎えた場合、8月初頭と同じことが起きることは無いか?という点ですが、こうした投機と実需のバランスに関しては下記記事で深掘りしておりますのでご関心のある方は覗いて頂ければ幸いです:


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