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ドル高は世界経済のテーマになるか?

ドル円相場は遂に155円を突破しました。色々な思惑や議論が浮上しているようですが、通貨政策はあくまで政治マターだと思いますので筆者から何かか所感を述べることはいたしません
※今回は時間軸が短く、カレントなテーマでもありますので全文お読み頂けるようしてあります:

「技あり」の日米韓声明
ただ、先週は通貨政策という政治の世界において少し驚きを覚える動きがありました。それはワシントンで4月17日から始まったG20財務相・中央銀行総裁会議にあわせて開催された日米韓財務相会合です。同会合では「最近の急速な円安・ウォン安への日韓の深刻な懸念を認識し、外国為替市場の動向について引き続き緊密に協議する」と盛り込んだ共同声明をまとめました:

通貨安に悩む隣国を巻き込んだ上で米国と連名で声明文を採択するのは目新しいアプローチであり、介入警戒感からドル/円相場は一時的ながら押し下げられました。多国間の合意形成を待たず仲間を見つけて巻き込んだ上で情報発信するという一手は「技あり」という印象を受けます
 
国際協調にはまだ機は熟せず
もっとも、変動為替相場制の方向感は米国の通貨・金融政策の望む方向にどうしても規定されるものです。結果、冒頭でご紹介したような水準を付けるのも不可抗力でしょう。現状、米国経済が抱く最大の問題意識がインフレ抑制で、そのためにはドル安よりもドル高の方が望まれる状況がある以上、「国際協調でドル高を修正する」というプラザ合意的なアプローチは発展しづらい。また、そうした米国側の事情に加え、米国以外の事情を見渡しても国際協調に至るほどの熱はまだ帯びていないように見受けられる。

例えば今回は同じ東アジア通貨の中で下げの大きな2通貨として円と韓国ウォンがタッグを組んだ格好ですが、年初来で韓国ウォンは確かに下げているものの、近年という意味では円ほど強烈かつ持続的な通貨安に悩んでいるわけではありません

ユーロも対ドルで年初来安値を更新しているものの、名目実効為替相場(NEER)で見ればまだ年初来で横ばい程度です。ドル高是正のために主要国が足並みを揃え、国際協調に挑むという展開を期待するには、まだ機が熟しているとは言えないでしょう
 
2017年のドル高にはまだ及ばず
今回に限らず、これまでもG7やG20の舞台では、メンバー国の通貨で過度な相場変動があれば声明文を通じて一応の配慮が示されてきました。その際、第二次プラザ合意的な国際協調を期待する機運が高まることも断続的にありましたが、最終的にそれが実現することもありませんでした。

直近では、第二次プラザ合意への期待は2016年2月の上海G20前後で浮上した経緯があります。当時は2014年6月に始まったドル高局面の最中、今よりも遥かにドル高が迫力と持続性を伴っていました。

当時のドル高を象徴するエピソードとして2016年9月12日、ブレイナードFRB理事(当時)が講演において「2014年6月から2016年1月までに見られた約+20%程度のドル高について8回分(すなわち25ベーシス×8回≒200ベーシスポイント)の利上げに相当する」と述べたことが挙げられます。それほどまでにドル高が米国内でも意識されていたからこそ、2016年2月の上海G20に対する第2次プラザ合意への思惑、その後には真偽不明の上海合意に対する思惑まで強まり、ドル安が進むこともありました

また、当時の米国はトランプ大統領(当時)の下でドル安志向がテーマ視されており、インフレも問題視されていなかったなど、今とは異なる時代背景もありました。米国の通貨政策、言い換えれば政治としてドル高是正を望む理由はあったわけです。何より2014年6月以降に始まったドル高局面と比べれば、足許のドル高は「局面」と呼べるほど持続性を伴っているとも判断しづらいでしょう。そもそも昨年はドル安でした
 
ECB利下げ時に何が起きるのか
今後、1つ気になる動向を挙げるとすればやはりECBとユーロ相場の行方でしょう。今後、万が一のリスクシナリオとして「ドル高がさらに極まり、国際協調を通じてその調整を図る」という未来を想定した場合、それはユーロ圏を巻き込んだ動きになるはずです。順当に行けば、ECBはほぼ間違いなく今年6月、利下げ着手に踏み込むでしょう。その際、ユーロの対ドル相場は下げ足を早めるでしょうが、果たしてECBや加盟国中銀はこれを黙認するでしょうか。まだ、雇用・賃金市場の逼迫度合いが強いユーロ圏は恐らく通貨安を望まないでしょう。かねて論じているように、ドル/円相場と同じかそれ以上にユーロ/ドル相場は欧米金利差にビビッドに反応する傾向が強いです:

仮に、ユーロ/ドルが1.05を割り込み、さらにその先のパリティ割れまで臨むような展開に至った場合、ECBの政策運営はユーロ安制御(ひいてはインフレ抑制)に気を遣う必要が出てくると思います。

域内がゼロ成長とマイナス成長を往来するような状況が続くユーロ圏にとって、「利下げをしたくてもできない状況」が持続することは愉快ではないはずです。ドル高がユーロ圏の経済・金融情勢を追い込めば、ドル高に対する苦情は多数の加盟国から出てくる可能性があります。国際舞台で主張のワンボイス化を図りつつ、決を採る段階になると多数票で政治力を使おうとするEU/ユーロ圏の強みが発揮される場面でもあります。

今後、ドル高がユーロ圏をどれほど苦しめるかどうかは、間接的に円相場にも大きな影響を与える国際協調がどう転ぶかを検討する上で重要なトピックになるように思います。

構造変化の議論はまた別
過去2年にわたって議論を重ねている通りですが、今の円相場は構造変化を経験している最中にあり、これを読み解くためには今日や明日の経済指標だけを追いかけるのではない分析姿勢が必要になっていると思います。その意味で155円や152円といった名目上の節目を大騒ぎすることに私はあまり感心しない立場です(とはいえ、仕事ですので、所感は持っておりますが)。

この辺りは下記メンバーシップで色々な議論を重ねております。引き続き掲示板などを通じて皆様の意見を聞くことが非常に勉強になっております。既にスタートして1か月が経過しましたが、想定以上に多くの方々に参加して頂いており、嬉しいです。面白い論点があれば、逐次アップデートして参りたいと思います:


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