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右往左往ニッポン(上)

日本は着火するまで時間がかかるが、着火したら炎上するのは早い。それが正しいのかどうかを詮索することなく、突然に盛り上がり、突然に消える。
 
現在に始まったばかりではない。幕末のええじゃないか、尊王攘夷、廃仏毀釈、脱亜入欧、米騒動、アメリカ二ゼーション、安保学生運動、バブル、韓流ドラマブーム、ネット炎上、SDGsと、突然に沸き上がり、突然に雲散霧消する。地球温暖化・環境問題は、これから、どうなる?

1.地球環境問題で、右往左往するニッポン

ここに来て、地球環境問題が一気に盛り上がらなくなろうとしている。ウクライナ紛争で、欧州が課題設定した地球温暖化・環境問題が大きく転換しようとしている。

長年、取り組んできた地球環境問題は、これからどうなるのか?
たとえばドイツ。観念的な国であるドイツは、脱炭素だとか脱原発だと言って、長年に亘って取り組んできた。しかしウクライナ紛争後、ロシアからの「ノルドストリーム」の天然ガスが供給されなくなると、車も作れないし、冬の寒さが乗り越えない可能性がある。すると、理屈や観念は、吹っ飛ぶ。長期化すると、地球環境のために停めようとした原発の計画を延期しないといけなくなる。このような

行ったり来たりの社会的不利益は大きい

地球温暖化・環境問題だけではない。
日本は、一時的に大騒ぎしたが、気がつけば熱狂していたことを忘れ、そのことも総括もせず、また新しいことに熱狂していることが往々にしてある。世の中のブームに乗って、目先の変わったことを本気に取り組み、それまで大事にしてきたことをやめたり、変えてはいけないことを変えてしまったり、大切なことを見失ってしまうことがある


表面的に右往左往しているフリはいいが
本質を見極めず、根本を変えてはいけない

2. 電気自動車で、右往左往するニッポン

日本も、そうなりつつある。ウクライナ紛争に入ってから、世界の天然ガス・LNGをはじめエネルギーの需給バランスが崩れて、日本の電気価格・ガス価格が記録的なレベルに高騰している。

これからエネルギーはどうなるのか?

と訊かれる。40年以上、私はエネルギーの世界で働いてきた。石油ショック、阪神・淡路大震災、東日本大震災、何度もエネルギー危機を経験した。そもそもエネルギーは、需要と供給がタイトになったからと言って、簡単にエネルギースイッチできるものではない。短期間でエネルギーの種類を変えたり、エネルギーを増やしたり減らしたりすることは難しい。国から、エネルギー事業者が、10年間の供給計画を立てることを求められるのは、そういう背景である。

そこに、地球環境問題が浮上した

地球環境問題を解決するために、エネルギーを脱炭素にする。その方策のひとつとして

自動車をすべて電気自動車にする 

という議論が展開されているが、それは100%、無理。150%、無理と言ってもいい。現実離れした空論を唱える、にわかエネルギー論者の世迷言が、日本を右往左往させている。

エネルギーを考えるうえでの基本中の基本は、「エネルギーバランス・フロー」。これを知らない人が、エネルギーを語るから、論点がズレてしまう。

我が国のエネルギーバランス・フロー

(出典)「エネルギー白書2020」(経済産業省 資源エネルギー庁)

日本社会の物流を支えているのは、トラック。そのトラック輸送の燃料を

軽油から電気に転換することは
現実的といえるか?

軽油で動くトラックを電気で動くトラックにしたらいいというような安易なものではない。そもそもトラックのエネルギー消費量は、乗用車や商用車の消費量と比べて桁違いであり、物流でのエネルギー消費量は、全エネルギー消費量のなかで大きい

もうひとつ大切な視点がある

トラックでA地点からB地点にモノを運ぶためには、トラックが日本の何処を走っていても、燃料を調達できるようにしなければならない

都市部でも田舎でも海岸でも山のなかでも、日本のどこを走っていても、トラックの燃料を確保できるインフラを構築しなければならない。その体制が整備されたから、トラック輸送が日本の物流の基幹となった

それが、突然、地球環境のために、乗用車が電気自動車にしなければと言い出したのと同じように、電気トラックに転換しないといけないという議論が出てきているが、それは現実的ではない

トラックは、分散オペレーションの輸送装置である

だから、トラックヤードやターミナル内のみならず、高速道路のサービスエリアにも、トラックの燃料補給できる軽油スタンドが整備してきた。電気トラックを普及させるためには、電気を充電するインフラを新たに構築しないといけない。誰がそれを整備するのか?

最近の高速道路のサービスエリアは
どうなっているのか

コロナ禍前もそうだったが、コロナ禍に入ってからのサービスエリアはトラックで、パンパンになっている。停めるところがないくらい、サービスエリアにはトラックが増えている。オンライン社会にシフトして、ECの急加速がトラック物流に拍車をかけている

そんなトラック物流の混雑のなかで、電気トラックに転換するためには、日本中に新たな大規模な充電設備を設置しないといけないが、電気というエネルギーは集中・ターミナルのインフラである。それを理解していない。

たとえば東京から大阪に電気トラックで輸送していて、途中で充電が必要となったが、どこでも充電できる場所がなければ、物流は成り立たない。充電時間が長いこと、電気トラックに充電する行列のために広いヤードをつくらないといけないこと、充電設備に強力な電気を持ってこなければならないことを理解せずに、電気トラックを大真面目に議論しているニッポン、どうかしている

3.  戦略的な二枚舌

アメリカは、世界のCO2議論を横に、これまでCO2問題に意を介してこなかった。アメリカの企業が、乗用車の電気自動車を、海外の富裕層に、イメージで売っているが、アメリカ国内ではガソリンエンジン車、それも旧型車が売れている。CO2問題という文脈でいえば、矛盾している。

アメリカは現実的

乗用車は家庭生活や趣味・レジャー利用が一般的で、エネルギー量・CO2排出量は、大きくない。国土の大きなアメリカでの物流での電気トラック化は充電設備インフラの観点からも、現実的ではないと考えている。だから、エンジン車を大事にする。

日本も、電気自動車、とりわけ電気トラックはダメだと分かっているのに

本当はダメだろうということを
中途半端に取り組んでいる

だから大事な事柄を弱らせたり、失ってしまう。いい意味での

戦略的「二枚舌」で臨まないといけない

トラックの環境対策として、エンジンをさらに省エネ化、高効率化していく。基幹技術を守り伸ばす。それを環境対策のど真ん中にする。脱炭素化や電気化などは、将来に向けたテーマとして準備する。このように

現在大切な事柄を守り
将来の柱になるかもしれない種をいろいろ蒔く 

   

しかし、そうしない。それはなぜか?それは、次回、考えてみる。

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