モビリティの将来像に関する議論 ―モビリティビジョン検討会で議論されたこと―
先日、モビリティビジョン検討会の開催を報じるニュースに対して、NewsPicksのユーザーからは「こんなの無駄」とか「消費者の意向が見えない」といった批判的なコメントが寄せられていました。
(2) 車の脱炭素化、行程表策定へ 経産省、投資呼び込み狙う (newspicks.com)
そうですよね。
私自身も一読者としてこういうニュースを目にしたら、「どうせ実態とかけ離れた浮ついたきれいごとでも議論しているんだろう」と批判的に見てしまうかもしれないな、と思います。
政府の委員会に多く参加していますが、「この議論が何か実際的に役に立つんだろうか?」と思うことがあることも事実。とはいえ、事務局も委員も一生懸命悩みつつ議論していることも多いのです。委員会はyoutubeで公開されることもありますし、少なくとも事後、議事録は公開されることが一般的です。知ろうと思えば議論を覗くことは可能ですが、とは言え、世の中の99.9%の方はどんな議論がされているか、どんな資料が提示されているか、実際に目にされることはないでしょう。これからは時々、政府の委員会での議論も紹介していこうと思います。印象的だった議論や資料、自身の発言をご紹介するだけですので、網羅的ではないことはご容赦ください。
先日のモビリティビジョン検討会の資料はこちら。
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/mobility_kozo_henka/004.html
(なお、私もいまこの会議の正式名称が「モビリティの構造変化と2030年以降に向けた自動車政策の方向性に関する検討会」であることを知りました・・)
激動期の政策立案の難しさ
事務局の準備した資料は、こうした激動の時期の政策決定の難しさを如実に表しています。どの道を選んだとしても、考えなければならないポイント(=政策がコケるポイント)はたくさんあって、複線で考えなければなりません。
「このポイントを見落としている」と言われないようにという気持ちが働くのでしょう、大部で網羅的な資料になっています。ただ参考資料編も含めて、皆さんにもペラペラめくっていただくと、いろいろ面白い発見があるのではないかと思います。
タイトルにもありますが、「ミッション志向の政策」というのはこうした激変の時代においては大事な考え方であろうと思います。委員のほとんどがこれを評価していたように思います。しかし気になるのは、わが国の現状評価です。ありたい姿(ビジョン)を定め、現状を評価し、その間をつなぐ政策を考える訳ですが、どうも現状否定から入っているように感じられました。
CO2削減に関する日本の実績
下記は2021年10月に自動車工業会が公表した、各国における保有自動車からのCO2排出の推移です。欧州のなかでドイツは+3%、フランスは―1%、もっとも成績の良い英国でもー9%であるのに、日本は―23%と突出して高い実績を残しています。
EVかFCEVか、なのか
いまモビリティの未来像を議論するとなると、自動車のエネルギー源(電気か水素化e-Fuelか)に関心が集中しがちです。しかし、冒頭、事務局側から「社会像」という言葉が使われたように、自動車のエネルギー源の議論ではないと思っています。
エネルギーもモビリティも、人間の行動の「目的」ではなく「手段」です。自動車はどういう動力源で走るべきか、という議論は消費者を置き去りにしてしまいかねません。
自動車産業は日本の基幹産業ですから、国内の課題だけを議論するわけではもちろんありませんが、日本のモビリティが直面する課題としては、地方で衰退する公共交通サービスをどうするか、というところです。
様々なMaaS(Mobility as a Service)の取り組みなども始まっていますが、まだビジネスとして成立・成長するには至っていません。必要なデータ基盤を政府が主導で整えたり、効果を確認しながらやる(EBPMの思想)などを盛り込み、「どのような付加価値・サービスを創出するか」を議論すべきであるということも発言させていただきました。
こうした議論は各委員会の中で完結するわけではなく、徐々にまとめ上げられて政策に落とし込まれていくわけです。
脱炭素へ年17兆円投資必要 30年時点、経産省試算: 日本経済新聞 (nikkei.com)
自動車のエネルギー源などは、市場の選択に委ねるべきであり、政府による誘導や支援の効果は限定的なのかもしれません。そうした意味でも、確かに「こんなの無駄」かもしれませんが、意外と真面目に議論してるんだ、とでも思って頂けたらありがたいなと思います。