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スポーツが、観たくなる、やりたくなる、文化になる。

瀬戸内海とそこに浮かぶ島々をバックに、選手が練習に励む様子を一望できる。こんなホテルが岡山県玉野市にある。ホテルとコースの間はわずかフェンス1枚。選手がものすごいスピードで目の前を走り抜けていく。荒い息づかいまでも聞こえてくる。スタートの音、ラスト一周の鐘の音、臨場感が半端ない。9階建てのホテルの各階は、それぞれのレーサーがつける9つの色に彩られている。部屋は、選手のロッカールームがイメージされ、ユニフォーム風のナイトウェアなど、競輪モチーフが至る所にある。レース期間中は選手の宿舎としても利用されるのだという。

フォークという名のレストランに行けば、車輪、ハンドル、そしてフォークをモチーフどころか、競輪場のリニューアルで出てきた廃材が活用された空間が広がり、競輪文化を堪能させてくれる。宿泊すると、いつの間にか、競輪というスポーツに引き込まれてしまうのは間違いない。さらに、少し怖いイメージのあった競輪場が綺麗になり、近隣住民の憩いの場としても機能しているようだ。選手との対話も広がり、競輪文化が再び活性化するきっかけとなっていると思う。

都心でも競技場を活用した「スポーツ文化を盛り上げる取り組み」が進んでいる。はじめは、施設の稼働が試合中に偏ってしまうという非効率の解消が目的だったかもしれないが、利用者にとっては新たな刺激になっているようだ。都心から遠い浦和レッズの埼玉スタジアム、19時開始の試合に行くのはなかなか大変だ。そこで、スタジアム南側にある展望レストランで、ランチ付きのテレワークプランを提供した。これなら仕事帰りの観戦にも支障が無くなるというわけだ。

魅力はそれだけではない。昼間のグラウンド整備の様子や選手の練習風景が見られる。試合開始に向けて、サポーターの赤いユニホームでスタジアムが徐々に赤く染まっていく様子までも堪能できる。サッカーというスポーツの奥行きやそれを支える人々の日常に触れることができるのだ。「日常と違う新鮮な気持ちで仕事に集中できた」という声もあるように、文化に触れながら創造的に、生産的に、頭を使っていくのはとても心地よいと思う。

野球場といえば、北海道日本ハムファイターズの新球場が話題だ。試合の観戦ができるサウナがあり、150人ほどのキャパだ。写真の「ととのえテラスシート」は予約制で、水着で観戦できる。さらに、試合が観られる客室も12室ある。仲間と共に、ワイワイガヤガヤ、自宅気分で、目の前の熱狂を味わえる。開業は来年の3月、是非出向いてみたいと思う。今からどんな体験になるのか楽しみだ。

モータースポーツのジャンルでは、富士スピードウェイでの取り組みが面白そうだ。高級ホテルの開業というニュースを見たので、少しネットで検索してみると、車好きの心をくすぐる体験の場が用意されていた。従来からのレース観戦、スポーツ走行体験に加えて、シュミレータ走行体験、モータースポーツミュージアム、更にはプロチームとアマチュアチームのガレージなども設けられている。歴史を学び、担い手や支え手の日常を知り、自らもトライできる。どちらかというと、テレビの中の世界だったモータースポーツを、五感で感じる身近なものに仕立ててくれそうだ。

車文化を堪能する取り組みはまだまだある。高級車ブランドを中心に、「運転の体感」を軸にした取り組みが活況だ。なぜか千葉に固まっている。まずは、ポルシェだ。ドイツ国内、中国では既に人気を博しているポルシェ・エクスペリエンスセンターを木更津市に開業した。地形を活かした高低差のある2.1kmのコースでは、運転性能を最大限試せるという。インストラクターとの同乗走行から始まり、2台に分かれて、「インストラクターの車を追従する走行」でしっかりと基本を覚えて、最後は単独走行による学びの実践だ。海外の有名コースの再現をしたというコーナーもあり、なかなかの体験だ。会議室もレストランも完備しているため、会社の研修会場としても使えそうだ。

ランドローバーのエクスペリエンスセンターは柏市にある。「高さ4メートルの丘で斜度が最大30度もある上り下りや、水深が最大90センチの池で沈んだ状態での走行などを試すことができる」という。一方、フェラーリの輸入代理店であるコーンズは、23年に南房総市で会員制ドライビングコース「ザ・マガリガワクラブ」を開業する。山間に設けた全長3.5kmにも及ぶコースでは速度制限なく自らの愛車を思う存分楽しめるという。一口数百万円という会員権だが、クラブハウスにはレストランや温泉、オーナーズガレージなどを備え、世界にも類を見ない施設で、車文化の新たな発信拠点にもなりそうだ。

新しい観覧の仕方、バックヤードの人達の活動、日々研鑽する選手の姿、自らもプレーヤーになる挑戦。こうしたコト体験を重ねていくと、新たなスポーツ文化が育まれ、文化として根づいていくと思う。最近、日本人には世界に誇れる多くの選手も誕生している。こうした選手と共に、日本発のスポーツ文化を世界に発信できないだろうか。職人文化とも相まって、きっと新たな日本の魅力になるのは間違いない。

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