本番に強い人と弱い人の大きな違いとは。ここぞという場面で力を発揮するために必要なこと
皆さん、こんにちは。今回は「勝負強さ」について書かせていただきます。
パリオリンピックが終わりました。柔道やレスリング、体操だけでなく、「日本勢初のメダル獲得」となった競技や種目がいくつも生まれ、世界と対等に勝負できることを印象付けたような大会ではなかったかと思います。
四年に一度の大舞台だからこそ、選手たちにかかるプレッシャーや緊張感は想像以上のはずです。そのような場面で実力を発揮できる人もいれば、残念ながら本来持っている力を発揮できずに終わってしまう人もいると思います。
プロのアスリートほどではなくても、ビジネスマンにとっても大きな舞台、たとえば、大人数の前でのプレゼンや大きな商談など、人それぞれに様々な「本番」があります。本番で思い通りの実力を発揮して結果を残せるというような、いわゆる「本番に強い人」と、その逆で思い通りの実力を発揮できない「本番に弱い人」との違いは何なのでしょうか。
私たちは大事な場面に向けて、どのような心構えが必要なのか、具体的に考えていきます。
■本番に強い人と弱い人の違い
自分が「本番に強い」と思っている人の中には、
●本番になったら、なんとかなると思っている(追い込まれると力を発揮しやすい/緊張感の中で集中すれば力を発揮できると思っている)
●自分は緊張しないタイプだと思っている(緊張した経験が少ない/緊張する場面にあまり遭遇していない)
●十分練習してきたから、後は練習通りやるだけと思っている(本番に向けての準備をしてきた分自信がある/本番だからといって余計な緊張はしない)
など、様々なパターンがあります。
本番に強い人と弱い人との決定的な違いはどこにあるのでしょうか。
本番に強い人の特徴を以下の通り挙げてみます。
1、「戦略」や「作戦」を数パターン持っている
→全て練習通り、計画通りに物事が進めば良いですが、当然そうならない時もあります。頭で想定しているシナリオにないことが実際に起こった場合に不安が大きくなってしまうため、複数プランを事前に用意しておくと、本番でその中のいずれかのパターンで対応することができます。本番に強い人は、ベストシナリオだけをイメージして本番に臨まずに、最悪の事態も想定し、それをどう乗り切るかのイメージを膨らませているので、感情が揺すぶられることなく実力を発揮することができるのです。
2、「不安」や「緊張」をコントロールしている
→不安な気持ちを抱いたり、緊張をするのは決してダメなことではありませんが、緊張を自覚すると余計緊張感が増してしまうように、極端に心が不安定になってしまうのを防ぐ必要があります。不安定になるのは、ミスや失敗を恐れてしまうからです。ある程度最初から、ミスや失敗を許容する心構えを持っている人は、本番に強い傾向にあります。常に完璧を目指して目標を高く置きすぎると、できない自分にイライラして冷静さを失ってしまうため、自分の中でのOKラインを上手に定めることが大事です。
3、目標をできるだけ細分化している
→たとえば、何かの試験に合格するためにただ「合格する」という目標を掲げるのではなく、「得意なこの教科で何点、苦手なこの教科では何点のラインを死守して合格する」というように、「合格」するための方法を細分化して、具体的な作戦を練る必要があります。「それぞれでどの程度の水準を維持していれば合格できる」という考え方がベースにある人は、難しい問題や苦手な問題が出てきても動揺せずに向き合うことができます。目標は大きく掲げて、その達成手段や達成計画はチューニングしながら細かく決めていくのです。
4、失敗した時にその理由を解像度高く理解している
→失敗してしまった時に「失敗してしまった」「間違えてしまった」と認識して終わる人と、「なぜ失敗したのか」「なぜ間違えたのか」と理由を突き詰める人がいるとします。どちらが本番で力を発揮できるかは明らかです。どうすれば同じようなミスをしないか、一度直面した“失敗”を解像度高く深堀りしていくことが、「本番に強い」状態を作り上げていくのではないかと思います。「今は失敗してしまったけど、本番では大丈夫だろう」という安易な思い込みが一番危険です。
つまり、本番に強い人は、予期せぬ出来事に対して「動揺」することが少ないです。正確には、上述したように「動揺しないための準備」ができています。自分が不安を抱いていることを自覚し、仮にミスをしたとしても動揺しないこと、ミスを起こす可能性があることをもともとの想定シナリオに入れておくこと、想定外を受け入れて冷静に軌道修正していくことが重要です。逆に本番に弱い人は、想定外なことやミスをすることがシナリオに入っておらず、その分焦ってパニック状態に陥り、修正がきかずにさらに失敗しやすくなるという悪循環に陥りがちです。
■勝負強さを身に着けるために
では、「本番に強い」という勝負強さを身に着けるために、意識すべきことを挙げてみます。
●ここぞという場面にピークを持っていく(自分のコンディションを本番に向けてコントロールする)
●勝負所でのルーティンを決める(ルーティンを決めて心を落ち着かせる)
●ポジティブに物事を捉えることを習慣化する(自分には絶対にできるという自信や自己肯定感を持つ)
●適切な恐怖心を持つ(心配や不安な気持ちを持った上で、対策に向けて行動する)
特に4番目の「適切な恐怖心を持つ」ことは重要で、全く恐怖心を持たずに楽観的に考えすぎてしまう人ほど、本番で大きなミスをしてしまうこともあります。それは前述した通り“準備”ができていないからであって、「心配だから行動する」ことの積み重ねが、ミスを防ぐための対策につながり、成功確率が引き上げる要因にもなり得るのではないかと思います。
今回のオリンピックで言うと、スケートボード男子ストリート決勝の堀米選手が決勝の最終試技で大技に成功し、逆転優勝を飾ったシーン。ラストチャンスでここしかないという場面で実力を発揮できるのは、「勝負強さ」が確実に備わっているからこそだと思います。華やかな結果の裏には当然過酷な日々があったはずで、東京五輪の金メダリストというプレッシャーも含め、様々な苦難を乗り越える過程で、“恐怖心”や“使命感”など、複雑な気持ちと向き合い続けて打ち勝った結果ではないかと思います。
逆に、勝負に弱い人は、
●勝負に対する目的意識が弱い(明確な目的がないまま勝負に挑んでいる)
●勝負に勝つための行動が習慣化されていない(勝つための行動が不明瞭かつ実行が不十分)
●勝負に勝つための度胸や気楽さが足りない(よくも悪くも自分を追い込み過ぎてしまう)
などの特徴が挙げられます。
特に3番目の勝負に勝つための「度胸」や「気楽さ」についてですが、実力があるにも関わらず勝負の場面で勝負弱い人というのは、うまくやろうとしすぎて、過度に自分自信に期待やプレッシャーを勝手にかけてしまう傾向にあると思います。「いざとなったら失敗してもいいや」というくらいの思い切りの良さと、「力を抜いて平常心でリラックスしてやろう」というような力の抜き具合が大事なのです。「うまくやろうとしない」「完璧を求めない」「自分を追い込まない」ことを意識するだけで、「大事な場面でことごとく実力を発揮できない」という勝負弱さを解消するきっかけになるかもしれません。
ここまで述べてきましたが、「勝負強い」とは、「ここぞという場面に強い」とか「プレッシャーに強い」というだけでなく、「重要な場面ほど、普段以上の力を発揮する」ことではないかと思います。
ただ、誤解してはならないのは、重要な場面で能力を発揮できる人は、何も重要な場面“だけ”能力を発揮しているわけではない、ということです。基本的に勝負強い人は、「どのような場面でも安定して能力を発揮している」から、その中には「特に重要な場面でも能力を発揮できる」ということなのではないでしょうか。
「勝負強さ」というのは「勝負の場面でのみ力を発揮できる」という能力ではなく、「もともと高いパフォーマンスを発揮できる人が、その中でも大事な場面で変わらず実力を発揮できる」という能力なのかもしれません。
だからこそ、普段の実力を着々とつけていくしかない(勝負強さだけを磨くことはできない)のです。
■能力が高い人がいつでも実力を発揮できるとは限らない理由
少し話は逸れますが、最近、社内外の若手社員と話していると、本当に優秀な人が多く、能力の高さ(情報収集力、分析力、アウトプット能力、デジタルリテラシーの高さ、AI活用力など)に驚かされます。ですが、能力が高い人が、今の仕事を通してその能力を十分発揮しきれているかはまた別の話です。さらに、大事な時ほど大きなミスをしてしまったり、能力の高さゆえに(余計なプライドが邪魔をして)相手に誤解されやすい言動をとったりと、少し「もったいない」と感じる人は少なくありません。
優秀な人ほど、論理的に課題点ばかり指摘することに終始してしまい、周囲の同僚から「何であんなに偉そうなんだ」「口だけじゃないか」などと評判がよくないケースや、期待値は越えてもある程度のところまでいったら満足してしまい、最後の球際の泥臭さを発揮しきれないケースなども見受けられます。
また、学生時代に「優等生」タイプで、真面目に正解を求めてコツコツ頑張ってきた人ほど、正解がない中での成果の出し方に苦労しているのではないかと思います。「1+1=2」という、必ず正解があるわけではないことばかりに直面した時に、過去の成功パターンに固執し過ぎていたり、無駄な労力をかけたくないばかりに遠回りすることを避けてばかりいると、不確実性が高く変化が激しい時代には対応しきれません。
簡単に言うと、「正解が導き出せる」と分かっている時には力を発揮できて、「正解かどうか分からない」時にはアクセルを全開に踏めない人が増えているのかもしれない、と思っています。そのような人に「失敗してもいいから思い切ってやってみて」と言っても、なかなかハードルが高いことがあります。なぜなら、失敗しないように物事に取り組むことに慣れていて、せっかくこれまで失敗を回避する術を身に着けてきたのに、「失敗してみて」と言われると、そもそもどのように失敗していいかが全く分からないからです。
企業が「能力が高いのに実力を発揮しきれていない人」に対して、成長してもらうためにやるべきこととしては、
●指示を与え過ぎない(自分で考えてもらう)
●正解ばかりを求め過ぎない(正解がないことに向き合ってもらう)
●自分で問題を発見してもらう(課題を提起するところから始めてもらう)
●今取り組むべき問題を明確にしてもらう(仕事の目的を理解してもらう)
●取り組んだ結果のゴールイメージを明確にしてもらう(どのような結果をもたらすことが大事なのかを理解してもらう)
●最終的に自分の仕事が何につながるのかを明確にしてもらう(自分の仕事が会社や世の中に対してどのような影響を与えるのかを理解してもらう)
●自ら考え創意工夫した点を評価する(創意工夫を支援し、功績に応じて評価する)
などです。一つ一つの仕事に取り組む前に、全体像を把握・理解してもらった上で、上司や先輩社員からの指示がなくても、自分で「問題を発見」し、自分で「解決策を思考」し、自分で「先回りしてアクション」し、自分で「内省し次につなげる」ことが大事ではないかと思います。自分で考えて自分で決めて、自分で工夫しながら実行し続けてもらう以外に、人の急成長はありません。
最後に、人手不足が深刻化し、市場の人材流動性が高まっている今の時代、優秀な人材を“集める”ことに成功している企業があったとしても、彼らの能力を思う存分“発揮”させきれていないことがあります。そうすると、「自分の価値はこんなものではない」「もっと他に良い環境があるかもしれない」と、優秀な人材の離脱につながってしまうため、人材の「採用」だけを頑張っていればいいわけにはいかないことは明らかです。
企業がすべきは、各部署、各組織において、「そもそも能力を発見・発掘できていない人材」がいないかどうか、「能力は発掘できていても生かし切れていない(能力を持て余している)人材」がいないかどうか、「能力は引き出せていても低いパフォーマンスに留まっている(または今の役割にハマっていない)人材」がいないかどうかを、何らかの方法を確立してチェックし続けることではないかと思います。
そして、その能力をここぞという大事な場面で発揮させるもさせないも、個人や企業のちょっとした意識や工夫次第ではないでしょうか。
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