SDGsツーリズムのススメ:観光客が来れば来るほど持続可能になる地域をつくるには
(Photo by Fabrizio Chiagano on Unsplash)
昨今、SDGsという言葉はメディアで頻繁に目にするようになったが、私たちが本当に大切にしたい持続可能性とは何なのだろうか。私自身が京都に居を移し、取り組み始めた「SDGsツーリズム」の実装に向けた取り組みを紹介したい。
SDGs教育
SDGsという言葉は、数年前、吉本興業の芸人さんたちが「エスディージーズ」と連呼することでお茶の間に紹介された。世界が一丸となって取り組む、大事な目標なのだと。そして今では、SDGsという言葉も概念も一定の普及を遂げた。数年前には、あらゆる企業や自治体がSDGsに取り組む状況になるとは想像もつかなかったことだ。
SDGsは今、次の段階を迎えている。それは、「知っている」から「行動している」へのステップアップである。
ソーシャルイノベーションは、社会的に課題設定され、教育などを通じて多くの人の意識が変わり、それを実行するためのシステムが構築され、その結果として行動が習慣化することで達成される。
たとえば日本の環境教育は、公害問題からスタートしている。ごみを分別するということについては、小さい頃から教え込まれ、子どもからお年寄りまであまねく意識が共有された。それは教育への浸透と、ごみを分別・収集するシステムによって当たり前の行動になった。
次の記事では、SDGs教育がスタートし、教育格差やジェンダー格差など、自分ごとになりそうなテーマについて子どもたちが取り組む姿が紹介されている。ここでも、SDGs教育を知識に終わらせずに実践へ、どう行動を起こしていくかが課題と指摘している。
SDGs地域
人の習慣をいきなり変えることは難しい。例えばごみを分別する習慣をさらにアップデートして、ごみゼロをめざす習慣を身につけるためには、徹底的に分別して再資源化すること、生ごみはコンポストで土に戻すことなど、たくさんの知識と労力が必要になる。システムが整っていない中で、個人の努力で習慣を変えることは容易ではない。
アミタ株式会社は、東日本大震災後の南三陸町や生駒市で「MEGURU STATION」の実証実験を行っている。このような地域の再資源化のステーションというシステムがコミュニティ内にあれば、ごみゼロをめざす習慣を生み出すことができるかもしれない。興味深い点は、このステーションは地域コミュニティの中心地になっているところだ。習慣を変えるには、仲間の存在が大きい。
この事例は、地域単位でSDGsに取り組むことで、SDGsの知識から実践へのシフトを進めることのハードルが大きく下がることを示唆している。子どもたちのSDGs教育も、もし地域でSDGsに取り組む活動と並行して行われていけば、実践への移行がスムーズになるだろう。
SDGsツーリズム
だが、自分自身のコミュニティの中にSDGsへの取り組みがない場合は、どうしたらいいのだろうか。手っ取り早く、SDGs実践をスタートさせるためには、どこから着手したらよいのだろうか?
そこで注目したいのが「ツーリズム」である。
例えば、「プラスチックフリー・ジャーニー」という旅のスタイルがある。これは、使い捨てプラスチックに一切触れずに旅をするという、環境意識を高めるためのツアーである。目的は、この旅自体が使い捨てプラスチックを削減するというよりは、旅の数日間の経験によって、どれだけ私たちが普段、使い捨てプラスチックに囲まれて生活しているかを強く意識し、行動変容のきっかけをつくることである。
つまり、旅という数日間だけでも、SDGsの知識を実践に移すことができたら、その人の人生に大きな影響を与える可能性がある、ということだ。
観光客からすると、SDGsツーリズムで旅行に行くと、そこでSDGs実践の強烈な体験を持ち帰ることができる。これが行動変容のきっかけになるのだ。
一方で、地域からすると、SDGsツーリズムで旅行者がきてくれるようになると、地域のSDGs活動の推進に寄与してくれる人、つまり地域のSDGsを応援する関係人口が増えることになる。
このような、「良い旅行者が増えれば増えるほど地域の持続可能性が高まる仕組み」をつくりあげることが、SDGsツーリズムの目的だ。
旅行者が来れば来るほど、地域のSDGs目標に近づくツーリズム
これまでの観光は、京都の歴史や文化を消費していた部分が多かったのではないか。ツーリズムを消費から、SDGs実践へと転換することで、「地域の持続可能性」と「個人の責任ある消費者へのシフト」を同時に実現することができる。
そのためには、観光地側では、地域のステークホルダーがSDGs目標を立て、観光を経済だけではなく地域の持続可能性を高める活動として再定義するような、新たなコミュニティ活動を開始することが必要になる。
同時に、観光客側では、観光を消費するのではなく、SDGs実践の圧倒的体験を目的として旅に出る、こんな人が増えていくことが必要である。
2030年に振り返った時、「2021年がSDGsツーリズム元年だったね」と言われる年にしていきたい。観光地側の方も、観光客側の方も、ぜひ一緒にSDGs地域とSDGsツーリズムをつくっていきませんか。