モノを持つというリスク
モノを持たない人が増えています。「ミニマリスト」、「断捨離」…。使いたいときにいつでも借りることができるシェアエコノミーや、「メルカリ」などのフリマアプリの普及で、モノを持たないことの不便さが薄れてきているからです。
2020年1月1日から日経電子版で連載が始まった「逆境の資本主義」。第8回はモノを持たずにシンプルな生活を目指す「ミニマリスト」の断面を切り取っています。
自分の生活を振り返ってみても、「ミニマリスト」というほど徹底はしていませんが、手放してしまったものがいくつかあります。その一つが車です。地方から東京に引っ越してきたときに、愛車を手放しました。
心理的な不安からの解放
その代わりに利用するようになったのがカーシェアリングと自転車。都市部は公共交通機関が発達していることもあり、不便はしていません。何より大きいのが、自動車の維持費や保険料などの煩わしさ、「車を傷つけられるのではないか」などという心理的な不安から解放されたことです。
災害が多発する現代、ミレニアル世代は「モノを持つリスク」を感じているように感じます。持ち家や自家用車も災害に遭えば失ってしまう恐れがあります。そうした資産を守るという意識にとらわれすぎれば、気軽に旅などに出る心や精神の自由も失ってしまいかねません。
私たちの親の世代は、むしろモノを持たないことの方がリスクでした。そのため根強い「持ち家信仰」などがあります。高価な外車やスポーツカーを所有していた方が女性にモテる、という時代もありました。今では最初のデートでそんな車を見せびらかそうものなら、ドン引きされそうです。
心や精神を軽くした先に
時代はあらゆるものが重く厚く長く大きな「重厚長大」から、軽く薄く短く小さい「軽薄短小」に向かっているような気がします。モノを持たない生活というのは心や精神の軽やかさを保つ、一つの解決策なのではないかという気がします。
では心や精神を軽くした先に何を求めるか。記事では、体験や共感などに新たな価値を見出す人の姿が紹介されています。より充実した印象深い人生を送るために、そこに必須ではないものはできるだけ軽くする。
そうした「一点豪華主義」こそ人生を楽しむ本質ということに、多くの人たちが気付き始めたのかもしれません。
(日本経済新聞社デジタル編成ユニット 太田順尚)