見出し画像

雇用・所得環境の悪化はこれからが本番

経済成長率はリーマンショックより大きく落ち込みましたが、昨日公表された日銀短観9月調査の業況判断指数を見る限り、企業活動への影響としては、今のところ政府・日銀の大規模な資金繰り支援策などにより、マクロ的にはリーマンショックほど深刻な状況には至っていません。

 ただ、家計の雇用・所得環境はこれから悪影響が本格化することには注意が必要でしょう。というのも、日本のオークンの法則、すなわちGDPと失業者の関係を見ると、GDPの悪化に2四半期遅れて失業者が増える関係があることがわかります。このため、こうした経験則に基づけば、8月時点では前年比で49万人増加している失業者数が、10-12月期あたりには前年比で+100万人近く増加する可能性があります。

 また、賃金に至っては、すでに残業代の減少や業績悪化に伴うボーナス削減などの影響が出始めていますが、肝心な基本給については、今年度の企業業績が反映される来年の春闘でコロナショックの影響が織り込まれることから、家計の所得環境の悪化はこれからが本番と言えるでしょう。

 こうした中、政府も事業規模で200兆円を上回るコロナ対策を打ち出しています。このため、7月末に内閣府から公表された「中長期の経済財政の関する試算」でも、ベースラインケースの公的債務残高は昨年度末の1064兆円から今年度末は1147兆円となり、約83兆円増える見通しとなっています。

 こうしたことから、政府債務の膨張を懸念する向きもあります。しかし、世界大恐慌以来のショックにより民間部門の過剰貯蓄が深刻化する中で、資金需給で決まる中立金利が過度に下がり、金融政策の効果が発揮しにくくなっています。このため、むしろ流動性のわなから脱して金融政策が十分機能するまでは、財政規律を棚上げした賢い支出により経済を正常化させることが最優先でしょう。

 ただ、これまでの雇用調整助成金の延長や無利子・無担保融資などコロナ前を持続する政策には限界があるのも事実です。というのも、今回のコロナショックを受けて、仮にワクチンの普及や治療法の確立などによりコロナに対する恐怖心が払しょくされたとしても、リモート化の進展などにより、移動や人の接触を伴う需要が元に戻ることはあり得ません。

 このため、今後の政府の政策としては、コロナ前の経済構造を支える政策から、例えば産業政策面では、非接触化に伴い逆に伸びる分野に業態転換を促すような規制緩和や支援へのシフトが求められるでしょう。

 また、雇用政策面では、既存企業に雇用を維持する政策から、リーマン後にも実施されたようなデジタルスキル習得のための無償職業訓練の拡充や、訓練期間中の生活保障、中小企業等における実習型雇用・雇い入れ等への助成、長期失業者などの就業支援といった失業者に対する就業支援へのシフトが求められます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?